封印されし炎竜を解錠
「……誰かいるのか?」
大広間に響いた言葉に身体がビクリと震える。
今、間違いなく第三者の声がした。
それは恐らく大広間の中央で動いた何かだ。
警戒しながら近づいて視線を向けると、大広間の中央には真っ赤な鱗に包まれた巨大な竜がいた。
「竜だと……ッ!?」
まさかこんなところに竜がいるとは思わず、俺は反射的に後退する。
「分析!」
炎竜
LV???
鑑定してみると、名前が表記されただけで何一つとしてステータスを読み取ることができなかった。
つまり、俺の分析が通用しないほどに隔絶したレベル差があるのか、あるいは分析から逃れる高度な隠蔽スキルを所持していることになる。
どちらにせよヤバい存在であることは確かだ。
「待て待て! 私はお前に危害を与えるつもりはない!」
「危害を与えるつもりがないだと? 竜なのに?」
魔物の中でも頂点に君臨する危険度を誇る竜。
大昔から世界に存在し、ふらりと人間や街を襲ってくるような災害のような生き物だ。
そんな奴が危害を与えるつもりなど無いと言っても信じられるはずがない。
「この鎖を見れば、わかるだろう! 私は封印されているせいで動くことができないのだ!」
竜の体をよく見ると、地面や柱から伸びた黒い鎖によって拘束されていた。
竜が身じろぎをする度に鎖がジャラジャラと音を立て、動きを阻害している。
「……いや、こんな洞窟の奥地に鎖で厳重に封印される竜なんて明らかにヤバいだろ」
身動きが取れないのは大変結構なことだが、どんなことをすれば封印されるようなことになるのか。絶対に何か悪いことをしたからに決まっている。
「ちょっと昔にやんちゃしてしまっただけだ! 今はもうそんなことはしないと反省している!」
ほら、見ろ。やっぱり大昔に悪さをしていた邪竜の類じゃないか。
というか、マグルの言っていた噂は本当だったんだな。
まさか勇者に封印された魔物の正体が竜だとは思いもしなかった。
「とりあえず、魔物が活性化している原因はわかったことだ。あとはお前を討伐してしまえば事件は解決だな」
封印されていて抵抗できないのであれば、今の俺でも十分に倒せる可能性はある。
「待ってくれ! 取り引きがしたい!」
「取り引きだと?」
剣呑な雰囲気を醸し出しながら剣を引き抜くと、竜が慌てた様子で言ってくる。
まさか、人間ではなく竜からそのような提案を受けるとは思わなかった。
「この封印を解いてくれたら私がお前の力になることを約束しよう!」
「……なんか上から目線なのがむかつくな」
「この封印を解いてくださったら何でもするので助けてください!」
不満げな様子を見せると、竜があっさりと言葉遣いを訂正して平服した。
「お前、仮にも竜なのにプライドってものがないのか……」
「ここから出られるならそんなことはどうでもいい! もう三百年もこの洞窟に閉じ込められているんだ。いい加減に外に出たい」
竜がとても切実な声を上げる。
まあ、こんな暗闇で三百年も身動きも取れない状態で封印されていれば、気が滅入ってしまうだろ
う。
屈強な大人でも暗闇に放置していれば発狂してしまうと聞く。この竜がとにかく外に出たいと思う気持ちもわからなくもない。
「そもそも封印を解いてくれなんて言われても俺に解けるかわからないぞ?」
「勇者の力で封印されていた扉を開けて入ってきたんだ。この封印が解けないというはずがない」
それもそうだ。
多分、この竜に施されている封印も俺のエクストラスキルを使えば、一発で解錠できるだろう。直接的な戦闘能力は低いが、俺のエクストラスキルはこういった場面に滅法強い。
「なんでもするって言われてもなぁ。具体的に何をしてくれるんだ?」
「気に食わない国があれば、私が滅ぼしてやろう」
「いや、俺には国潰しをするような願望はないんだが……」
というか、そんなことをするから勇者に封印されるんだぞ。
「では、お前は何を欲しているんだ?」
「冒険者としての力だな。俺はもっと強くなって一人前の冒険者になりたい」
昔、俺を助けてくれたあのS級冒険者のように誰もが憧れる存在になりたい。
「一人前の冒険者とは面白そうだ! では、私がお前の仲間になってやろう!」
「はぁ?」
竜からの唐突な提案に思わず声が漏れた。
「冒険者とはパーティーを組むものなのだろう? 私がいれば百人力だ!」
「いや、確かにそうかもしれないが仲間になるって言われてもなぁ」
そもそも封印を解いたからといって、本当に味方になってくれるのかどうかも怪しい。
「ふむ、信じられぬか? では、先払いとして私の力の一部を授けてやろう」
そんな俺の疑いの気配を感じたのか竜がそんなことを言った。
すると、竜の身体が赤く発光し、その光が俺の身体を包み込んだ。
力強い熱のようなものが身体の奥底から湧き上がってくる感じがする。
「……これは?」
「私の加護を授けてやった。ステータスを確認してみるといい」
ステータスカードを確認してみると【炎竜の加護】というものが付与されていた。
ごくまれに高位の存在から加護を授かることがあると聞いていたが、実際に目にしたのは初めてだ。
「全体的にステータスが上がっている上に、スキルツリーに見慣れないものが発現している」
スキルツリーを確認すると、端の方に真っ赤な色をしたツリーが出現していた。
「私の加護のお陰だな! レベルを上げて鍛錬すれば、いずれお前も竜の力を扱えるようになるだろう」
俺は新たに出現したスキルツリーを解錠してみる。
【炎鱗】を解錠し、獲得しました。
【炎竜ノ右腕】を解錠し、獲得しました。
たった二つのスキルを獲得しただけなのに魔力の消費とリソースの消費が激しいな。ということは、それだけ強力なスキルに違いない。
「【炎竜ノ右腕】を起動」
試しに獲得したスキルを発動してみると俺の腕が派手な炎に包まれ、炎が弾けると右腕が肥大化し、炎竜の腕へと変化していた。
「もう私のスキルが使えるというのか!?」
「使えるというより、俺のエクストラスキルで獲得しただけだ」
「ほほう? お前、面白いな?」
スキルツリーを【解錠】して獲得したことを告げると、竜は好奇心のこもった視線を向けてくる。いや、俺がすごいんじゃなく、こんなすごいスキルを所持している竜がすごいと思うのだが。
「どうだ? 私の封印を解いてくれれば、もっとお前の力になれるぞ?」
スキルを解除すると、竜が鼻息を荒くしながら言ってくる。
実際に力を授けてくれたのは確かだし、こうやって話してみても悪い感じはしなかった。
ただ外に出たいからと俺に媚びを売っている可能性はあるが、無邪気な性格からしてそういった策謀を巡らせるのは得意じゃないだろう。
過去にどんな行いをしたかは知らないし、仮に竜としての暴虐を尽くしていたとしても三百年以上も前の話だ。当時被害に遭っていた人間はほとんど生きていないだろうし、大昔のことなんて俺には
関係ない。
ソロで冒険者活動をするには限界があるし、いつかは仲間を迎え入れなくてはいけない。
ジェイドたちの裏切りのせいで誰かとパーティーを組むのに億劫になっていたが、あいつらのせいで人生が縛られるっていうのは癪だ。
「わかった。お前の封印を解いてやる」
「おお!」
「封印を解いたからって襲うのは無しだぞ?」
「そんなことはするものか。せっかく面白い人間と出会ったのだ。殺すなどしては勿体ない」
俺は不敵な笑みを浮かべる竜へと近づき、その体を拘束している大きな鎖へと触れた。
「【解錠】」
エクストラスキルを発動すると、竜の体に巻き付いていた鎖がバキイインッと音を立てて砕け散った。
三百年の封印から解放された竜は大きく翼を広げると、北の山脈に響き渡るほどの雄叫びを上げた。
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