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北山脈の魔物


 エルダニアを出発して数時間ほど北に走ると、俺は目的地である山脈地帯へとたどり着いた。


「思っていたよりも速く着いたな」


 以前であれば半日はかかったはずだが、ステータスが上がったお陰で軽く数時間走るくらいでたどり着いた。


 レベルが上がるだけでこれだけ身体能力に差が出るのだから、レベルというのは偉大だな。


「とりあえず、この辺りを探索してみるか」


 俺がやるべきことは異変の原因を突き止めること。原因がわからなくても何かしらの情報を持ち帰ることだ。とにかくこの辺りを探索して情報を集めないとな。


 やや傾斜となっている道を歩いていると、前方にある岩陰から五体ほどの狼が顔を出してきた。


 硬質な黒の体毛を身に纏い、耳、首回り、尻尾などの一部だけが真っ赤に変色している。


「【分析】」


 ヘルハウンド

 LV20

 HP:75

 MP:32/32

 攻撃:45

 防御:30

 魔力:32

 賢さ:41

 速さ:66

 スキル:【火炎】【集団行動】【嗅覚】


 鑑定してみるとレベルは20。


 黒牛人を倒す前の俺のステータスとほぼ同じか、全体的に少し上回っているくらいだ。


 以前の俺であれば一体を相手にするのが精一杯で、仲間に倒してもらうことしかできなかった相手だが今の俺の実力であれば問題はない。


「グオオオンッ!」


 ヘルハウンドは獰猛な声を上げると、傾斜を勢いよく下って襲いかかってくる。


 俺は剣を引き抜くと、飛びかかってきた二体のヘルハウンドの胴を切断した。


「遅いな」


 黒牛人に比べるとあまりにも遅い上に動きが単調だった。


 相手の数が多いので隙を見せないように控えめに動いたが、これならもう二体ほども一刀で沈められた気がする。


 一瞬にして二体が沈められたことによって残った三体が動揺を露わにする。


 近距離戦を仕掛けることは危険と判断したのか、ヘルハウンドたちは一斉に口を大きく開けて炎を収束させ始めた。


 恐らくスキルである【火炎】を使用するつもりだろう。


 能力施錠を使えば、今すぐにそれを封じることはできるが、それを使うまでもない。


「口を【施錠】」


 俺はヘルハウンドたちの口を対象にエクストラスキルを発動させた。


 口を開けていたヘルハウンドたちの口が強制的に施錠される。


 口が施錠されたことによって収束していた炎は逃げ場を失い、ヘルハウンドたちの口内でエネルギーが爆発した。ヘルハウンドたちの頭部が吹き飛び、バタバタと倒れた。


「俺の前でブレスを使うのは悪手だ」


【解錠&施錠】は一種の開閉スキルでもある。


 そこに開いた口があるのであれば、それを閉じさせることも可能なのだ。


「しまった。ブレスを暴発させたせいで素材が台無しだ」


 ヘルハウンドの換金素材は牙が一番に高く、その次に毛皮だ。


 最初に倒した二体はまだしも、スキルを暴発させたことで倒した三体は牙が破砕され、毛皮の方もボロボロになっていた。


 今後は換金素材のことも考えて、この使い方をすることにしよう。


 今のところヘルハウンドにおかしな点はないな。


 魔物が強化されている点については、俺の実力が上がり過ぎているのでちょっとわからない。情報を集めるにはもう少し奥に進んで確かめる必要があるだろう。


 ヘルハウンド五体を相手にしてもこれだけ余裕があるんだ。これなら遠慮なく奥地まで探索をすることができそうだ。




 ●



 ヘルハウンドを討伐して山脈を進んでいくと、周囲を漂う魔力が強くなってきたように感じた。その魔力を辿っていくことで何かしらの情報がわかるかもしれない。


 漂う魔力を辿って進んでいると、突如目の前にある岩が舞い上がった。


 宙に浮いた岩たちは魔石へと吸着するように固まっていき、二メートルを越える巨躯の体が出来上がった。



 ロックゴーレム

 LV30

 HP:185

 MP:88/88

 攻撃:126

 防御:178

 魔力:55

 賢さ:75

 速さ:82

 スキル:【ストーンエッジ】【状態異常無効】【頑強】【同化】【結合】


 分析すると、ロックゴーレムであることがわかる。


 ロックゴーレムは本来であれば、山脈の奥地に、あるいは坑道内などに出現する魔物だ。


 それがこんな山の中腹で遭遇とは驚きだ。


 確かにこれは異常事態だな。こんな風に奥地にいる魔物がポンポンと現れてしまっては入念に準備をしている冒険者たちもお手上げだろうな。


 ロックゴーレムが右腕を上げると同時に礫が生成される。


「とりあえず、面倒だからスキルは使わせない。【能力施錠】」


 俺はロックゴーレムの【ストーンエッジ】を施錠する。


 すると、こちらに生成された礫が力を失ったように地面に落ちた。


 ロックゴーレムはもう一度スキルを発動しようとするが、残念ながらスキルは応えてくれない。


 動揺している隙をつき、俺はロックゴーレムを斬りつけた。


 岩石が破砕する音が響き、ロックゴーレムの横っ腹の部分をくり抜いた。


 しかし、すぐに周囲にある岩が集まり、砕かれたロックゴーレムの横っ腹を修復していく。


 ロックゴーレムの【結合】というスキルだろう。


 岩同士がくっつくことでロックゴーレムは欠損した体を修復することができる。


 ロックゴーレムを倒すには頑強な体だけでなく、この驚異的な修復力によって厄介とされている魔物だ。


 しかし、それも俺のエクストラスキルにかかればカモでしかない。


 俺はもう一度駆け出すと、ロックゴーレムが大きな腕を振り上げる。


 巨木のような右腕をギリギリのところで回避。そのまますれ違う形で右腕を斬り落とす。


 ドスンッと重量のある右腕が地面に落下した。


 ロックゴーレムはすかさずにスキルによって腕の修復を図るが、落下した腕は一向に動く気配がない。


「無駄だ。お前の【結合】も既に施錠されている」


 スキルによる驚異的な修復能力がなければ、俺にとってロックゴーレムは鈍重な的でしかなかった。そのまま攻撃を回避しながら纏っている岩を削り、最後に体の中央にある魔石を砕くことで動か

なくなった。


 黒牛人の時と違って、スキルを二つほど施錠したが、まったく負担はなかったな。


 やはり、エクストラスキルと普通のスキルを施錠するのでは、魔力の消費加減がまったく違うようだ。


「確かに魔物の様子がおかしいな」


 ロックゴーレムはこんなところに出現する魔物じゃないし、北山脈に棲息する魔物は平均レベルが20前後のはず。それなのに今のロックゴーレムはレベルが30もあった。


 明らかに魔物が活性化している。


 そして、その原因は山脈の洞窟から漂っている魔力が原因だろう。


「……洞窟の方も調べてみるか」


 ここまで来たからには原因を掴んでおかないと気持ちが悪いからな。


 俺は濃密な魔力のする洞窟へと入っていく。


 山脈内にある洞窟は暗い。


 こういった場合は松明などを手にして、暗闇を照らしながら進むものだが、生憎と俺は一人だ。松明なんてものを持ってしまったら片手が塞がってしまう。ソロでの冒険において片手が塞がってしま

うというのはかなり致命的だ。


 スキルツリーにある光魔法を解錠し、獲得してもいいのだが、このためだけに獲得するのは違うと思う。


 ステータスカードを操作し、自身のスキルツリーを眺めると、こんな時にうってつけのスキルを見つけた。



【暗視】を解錠し、獲得しました。



 斥候系のスキルツリーにあるスキルだ。


 スキルの効果はどんなに暗闇でも見通すことができるといったもの。


【暗視】を発動すると、真っ暗だった視界が昼間と変わらないほどに明るくなった。


「これなら手が塞がることもないな」


 良好になった視界を新鮮に思いながら前に進んでいると、洞窟の頭上に膨大な数の蝙蝠がぶら下がっているのが見えた。


 ハットバット

 LV28

 HP:111

 MP:46/46

 攻撃:78

 防御:55

 魔力:38

 賢さ:40

 速さ:90

 スキル:【吸血】【音波感知】【隠密】


「うお!?」


 声を上げた瞬間、ハットバットの群れが一斉に襲いかかってきた。


 本来ならばハットバットはとても臆病な魔物で、こちらから不用意に手を出さないと襲ってこないのだが、濃密に魔力に充てられて活性化しているからか獰猛に牙を剥いてくる。


 さすがにこれだけの魔物を相手にいちいちスキルを【施錠】するのは現実的ではない。


「【ウインドブロウ】」


 右手をかざすと、そこの風が収束し、ハットバットの群れへと射出された。


 荒れ狂う風によって切り裂かれ、あっという間に洞窟内はハットバットの死骸で埋め尽くされた。


 狭い洞窟内において荒れ狂う風を避けることはできない。襲いかかってきたハットバットは今の魔法ですべて殲滅できたようだ。


「これが魔法か……便利だな」


 風魔法を獲得するまではロクに魔法なんて扱うことなんてできなかった。


 そんな俺がこうも簡単に魔法を操れるようになるなんて、本当にスキルというのはすごい。


 ハットバットは魔石が小さく、素材価値もほとんどないので解体はせずに進んでいく。さすがにあれだけの数の解体をしていたら時間がいくらあっても足りないからな。


「あれ? おかしいな?」


 魔力の漂う方向へ進んでみたが、進んでみると通路は行き止まりだった。


 しかし、濃密な魔力はこの壁の先へと続いているような気がする。


 ペタペタと石壁を触っていると、不意に壁が奥へ沈んだ。


 すると、壁がスライドし、奇妙な扉が現れた。


「……隠し扉か?」


 山の奥や、洞窟の奥、海の底といった秘境にはごくまれに隠し迷宮というものが存在するが、目の前に現れた扉は見るからに人工的だった。


 試しに押したり、引いたりしてみるが扉はビクともしない。


 鍵穴も見当たらないので恐らく魔法的なロックがかかっているのだろう。


「魔法でロックをかけられていようが関係ない」


【解錠】を発動するとパキャンと何かが割れる音が響き、扉がひとりでに開いた。


 扉の奥には地下へと続く石造りの階段が続いており、その先からは濃密な魔力の気配がしていた。


 活性化現象の原因は間違いなくここにある。見知らぬ場所に入っていくことには怖さもあるが、ここで冒険をしなければ冒険者じゃないだろう。


 壁際には発光石が設置されているため明るい。コツコツとした足音が嫌に響く。


 階段を下りていくと大広間へと出てきた。


 大広間は発光石でぼんやりと灯らされており、いくつもの太い柱が奥へ二列に続いていた。


「もしかして、本当に勇者の武器でもあるのか?」


 マグルの言っていた噂話が脳裏にちらついた。


 魔法で施錠された隠し扉の奥にこんな大仰な場所があれば期待してしまう。


 逸る気持ちを抑えながら進んでいくと、大広間の中央で大きな影がむくりと動いた。





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