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街での再会


 獣の迷宮を攻略した俺は、活動拠点であるエルダニアの冒険者ギルドに戻ってきた。


「おい、あいつ【金色の牙】のアキトじゃねえか?」


「ジェイドたちは獣の迷宮で死んだって言ってなかったか?」


「じゃあ、なんで生きて戻ってきてるんだよ?」


「知らねえよ」


 ギルドに入ると、冒険者たちの視線が突き刺さってザワザワとした声が上がる。


 囁いている冒険者たちの会話を聞く限り、やっぱり俺はジェイドたちの報告によって死んだことになっているらしい。


 とりあえずは獣の迷宮を攻略したことをギルドに報告し、ジェイドたちがどんな報告をしたか確認をしよう。


「え、えっと、本当にアキトさんですよね?」


 カウンターに行くと、ギルドの制服に身を包んだ女性職員がおずおずと尋ねてくる。


「これがギルドカードだ」


 ギルドカードを提示すると、職員がじっくりと確認する。


「……確かにアキトさんで間違いないですね」


「ジェイドたちからは俺が死んだって報告されていたか?」


「え、ええ。そのように報告を受けております。一体、どういうことなんです?」


「てめえ、どうして生きやがる!?」


 職員に経緯を説明しようとすると、ギルドの入口からジェイド、ハロルド、ジュリアが血相を変えてやってきた。


 三人を目にした瞬間、俺の胸の奥にある熱い何かが溢れそうになった。


 多分、これは怒りだ。


 施錠によって感情に鍵をかけたにも関わらず、湧き上がってくる感情。


 どうやら俺は相当こいつらに対して強い怒りを抱いているようだ。


 感情を施錠していなければ、俺はこの瞬間に剣を抜いて襲いかかっていたかもしれない。


 改めて自身の感情を施錠しておいてよかったと思う。


 深呼吸をすると、身体の内側で煮え滾っていた熱い感情は鎮火した。


 改めて視線を向けると、ジェイドたちは信じられないものを目にしたような表情を浮かべている。


 そりゃそうだ。生還するはずのない奴が帰ってきたんだ。


「迷宮主を倒してきたんだよ。たった一人でな」


「バカ言うな! お前なんかがたった一人で倒せるわけがねえ!」


「そうよ! あり得ないわ!」


「どうせ上手いことやって迷宮主の扉を開けたんだろ?」


 黒牛人と対峙したからわかる。あいつはそんな甘い行動を許す奴じゃない。


 逃げようと後ろを向いた時点であの剛腕から繰り出される長剣によって叩き潰され、地面に染みになるだろう。


 彼らもそんなことはきっとわかっている。


 しかし、パーティーのお荷物でしかなかった俺が、迷宮主を一人で倒すなんてことは彼らの中ではあり得ないことであり、認められないのだろう。


「ギルドカードの討伐履歴を見ればわかる」


 ギルドカードには討伐した魔物を記録する機能がある。


 三人にも見えるようにカードを提示する。


「なっ! バカな!」


「嘘!?」


「あり得ない!」


 討伐リストに表記されている黒牛人という文字を見て、ジェイド、ジュリア、ハロルドが驚きの声を上げた。


「あの、これはどういうことなのでしょう?」


「俺は獣の迷宮でこいつらに殺されかけたんだ」


「えええ!? こ、殺されかけたんですか!?」


「でたらめを言うな! アキト!」


 ギルド職員に事実を告げると、ジェイドがそれをかき消すように声を張り上げた。


「なにがでたらめだ。俺は嘘なんて言っていない。事実だ」


「おいおい、フロアの方が騒がしいがこれは何の騒ぎだ?」


 張り詰めた空気が漂う中、やや場違いなのんびりとした声が響く。


 ふと視線を向けると、階段の方から黒髪に白髪が入り混じった男性が下りてきた。


「マグルさん」


「おお! アキトじゃねえか! お前、獣の迷宮で転移の罠を踏んだって聞いたが無事だったのか!?」


 彼は冒険者ギルドのエルダニア支部のギルドマスターだ。


【金色の牙】に長年在籍していたころから俺のことを気にかけてくれ、時に俺のことを守ってくれた頼りになる男だ。


「へえ、ジェイドたちの報告だと、そういうことになっているのか」


 詳細は聞いていないが、どうやら俺は獣の迷宮で転移の罠を踏んでしまい、別の階層に飛ばされたことになっているらしい。


 適性レベルが低く、戦闘力のない俺が生き残っているとは思えず、ジェイドたちは探索するも見つけることができず、ギルドに俺の死亡を告げたってところだろう。


「どういうことだ? アキト」


 マグルが怪訝な表情を浮かべる。


「俺はこいつらに迷宮で殺されかけたんです」


「具体的にはどういう風に?」


「こいつらにとって俺はお荷物らしくてですね。追放すると手続きが面倒って理由で迷宮主の部屋に放り込まれました」


「ほう。それが本当だとしたらシャレになってねえな」


 冒険者において仲間殺しは忌むべきものであり、規律ではもっとも重い罰が与えられる。


 マグルの纏う空気が剣呑なものになり、遠巻きに見ている冒険者たちがヒソヒソと囁き声を漏らし始める。


「そんなことはしてねえ!」


「後ろから蹴り飛ばされ、迷宮主の部屋に入れられたんだ。あれに殺意がなかったなんて言えるのか?」


「だからやってねえって言ってるだろ!」


「あんたが勝手に罠を踏んづけただけでしょ? くだらない妄想にあたしたちを巻き込むのはやめてよね。というか、さっきから目が怖いんだけど……」 


「仲間を陥れようとするなんて男の風上にもおけない行いだぞ?」


 人を殺そうとしておいて、こんな風によく平然と嘘をつくことができるものだ。


「ふむ、実際にジェイドたちの報告とアキトの報告を聞いてみると、違和感のあるところが多いな」


「ギルドマスター! 俺たちはやってねえぜ! 確かにアキトをパーティーから追放しようとしたのは事実だが、いくらなんでも迷宮主の部屋に放り込むなんてことはしねえよ」


「そうよそうよ!」


 所詮は誰も目撃者のいない迷宮の奥での話だ。


 ジェイドたちの犯行を証明する術がなければ、やったという証拠にはならない。


 やった、やっていないの水掛け論となるだけだ。


 冒険者ギルドはある程度の秩序を守る役割こそ担ってはいるが、本文は依頼者と冒険者の仲介でしかない。ジェイドたちの犯行を調べ、それを解明する役割など担っていないし、たった一人の冒険者

のためにそこまでできるはずもない。


「――もういい」


「ああ?」


「俺は【金色の牙】を正式に脱退する。そして、今日の出来事についてはこれ以上蒸し返さない。それでいいだろ?」


 ジェイドたちはどうあっても犯行を認めるつもりはない。


 だったらこれ以上何を話しても無駄だ。


 この三人を相手にこれ以上時間を使うよりも、自分のこれからのために時間を使う方が遥かに有意義だ。


「いいも何もそれが本来の話だからな」


「……そうか。世話になったな」


 どちらかというと世話をしてやったのはこちら側なのだが、皮肉の意味を込めて言ってやる。もっとも、三人はそんなことも理解してないだろうがな。


 パーティーメンバーが自ら脱退を申し出るのであれば、ギルドの手続きも非常にスムーズだ。


 俺はそのまま受付で手続きを進め、【金色の牙】を正式に脱退した。







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