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迷宮主の撃破


 ステータスが急上昇した俺の急加速を捉えることができなかったのか、黒牛人は反応することができず、剣があっさりと足を切り裂いた。


「ヴオオオオ!?」


 黒い毛皮から噴き出す血液。


 俺の一撃はしっかりと黒牛人に届いている。


 つまり、順調にやっていけば、相手を倒すことができる。


 ついさっきまでノロノロとした動きをしていた俺が、急に自身よりも速くなったので黒牛人は戸惑っているのだろう。


 黒牛人が俺の動きに順応できていない間に、俺は次々と攻撃を仕掛ける。


「【ファストブレード】」


 スキルを発動させると、俺の剣が青白い光に包まれる。


 戦闘の最初に使用することで攻撃力を上昇させるスキルだ。


「【ライオットソード】【レイジオブソード】」


 ファストブレードで斬りつけると、俺は即座に次のスキルを発動。これらの剣士スキルは繋げることによって、単体発動させるよりも多くのダメージを相手に与えることができる特性を持っている。


 ジェイドのスキルツリーを解錠している内に気付いて、積極的に使うように提案したのだが、彼はそういった細かいスキル回しを嫌って使ってくれることがなかった。


 コンボによって攻撃力が上がるだけでなく、ライオットソードの効果によって消費したMPも回復できるかなり取り回しのいいコンボなのに非常に勿体ない。


 しかし、今となって自分で使うことのできるスキルコンボだ。


 俺は思う存分に使っていく。


「【火炎槍】」


 黒牛人との距離が開けば、解錠して獲得した火魔法を発動。


 炎の槍が瞬く間に五つ生成され、黒牛人へと突き刺さり、爆炎を上げた。


 黒牛人の叫喚が響き渡る。


 俺の猛攻撃によって黒牛人のHPがドンドンと消費されていく。


 度重なるスキルの使用と、魔法の使用によって消費したMPは、ライオットソードで攻撃することによって回復する。


 MP消費はほとんどないも同然なので思う存分にスキルや魔法を発動できる。


「ヴオオオオオオオオオオオ!」


 そのまま一気に押し切ろうとすると、黒牛人が憤怒の雄叫びを放ちながら長剣を激しく振るってきた。


 ステータスが上昇したとはいえ、未だに黒牛人の攻撃力には負けている。


 あの巨体が振り回す長剣を真正面から受けてしまえば致命傷は避けられない。


 だが、それだけだ。どれだけ強力な怪力であっても、どれだけ長大な剣であっても命中しなければ意味をなさない。


 俺の視界は今までになく鮮明だ。


 上昇した俺のステータスは黒牛人の表情から筋肉の動きまでを情報として伝えてくれる。


 相手が次にどう動くのかがわかる。


 黒牛人の振るう長剣を見定め、最低限の動作で躱して、斬りつける。相手はのけ反るが致命傷にはならない。


 黒牛人の筋肉はひとつひとつが太い縄のようになっており、それらが束になることで強靭な強度を誇っている。半端な攻撃では崩すことができない。


 だから、俺は崩すためのきっかけを作ることにする。


 ちょこまかと逃げては斬りつけてを繰り返す俺に苛立ったのか、黒牛人が見上げるような高さから長剣を振り下ろしてくる。


「【パリイ】」


 俺は解錠して獲得した剣技スキルを発動。


 振り下ろされる長剣の真横を思いっきり叩いてやると、重厚な鉄塊が地面の脇に落ちる音が響いた。


 衝撃で足がよろめきそうになるが、それを我慢しながら俺は黒牛人に狙いを定めるようにして手をかざした。


「傷口を【解錠】」


 俺がエクストラスキルを発動させた次の瞬間、黒牛人の全身から一気に血液が噴き出した。


 俺が度重なる攻撃で与えた傷口が一気に開いたのである。


 俺のエクストラスキルは単に扉の鍵を解錠したり、施錠するだけでなく、一種の開閉能力のようなものを持ち合わせている。だから、このように傷口を開いたりすることもできるのだ。


 黒牛人の体が大きくよろめいたので、絶好の機会を狙って俺は駆け出す。


 すると、黒牛人の金色の瞳が赤く変色し、怪しい光を灯し始めた。


 黒牛人のエクストラスキルである【魔眼】の発動だ。


「それを待っていたんだ! 【能力施錠】ッ!」


 トドメの一撃はもっとも油断に近い。


 黒牛人はそれを理解して、エクストラスキルを切る絶好の機会をうかがっていたのだろう。


「ハハハ、奥の手を隠していたのはこっちも同じだ」


 能力施錠……それは相手の所有するスキルを問答無用で施錠することができる。


 つまり、黒牛人の【魔眼】は俺のエクストラスキルによって施錠されたのだ。


 鍵のかかってしまった扉を開けることができないように、鍵のかかってしまったスキルは使うことができない。


 パーティーにいた時から使用することができたのだが、ジェイドの指示によって仲間のスキルツリーを解錠することを優先していたが故に、リソース不足で発動することのできなかった技だ。だが、

今となってはその力も自由に振るうことができる。


「ヴオオオッ!?」


 己の奥の手が使用できないことに戸惑っているのか、黒牛人が動揺の声を上げていた。


 それでもすぐに体勢を持ち直して長剣を手にし、血を流しながらも襲い掛かってくる。


 傷口を開かれて全身から血を流し、エクストラスキルを施錠されても、すぐに次の行動を決定するとはさすがは迷宮主だ。


 エクストラスキルを【施錠】したせいで魔力消費が大きいが、もう一つくらいならスキルを封じることができる。


 俺は再びエクストラスキルを発動し、黒牛人の【長剣術】を施錠した。


 鍵が閉まる音が聞こえた瞬間、こちらに向かって斬りかかろうとしていた黒牛人の体が大きく横に流れた。


「――ッ!?」


 黒牛人はすぐに長剣を戻して斬りかかろうとするが、その動きは非常に覚束ない。まるで子供は初めて大きな武器を手にしたかのような杜撰な動き。


 長剣を扱うにあたって蓄積された体の動かし方、知識、経験といったものが施錠されたからだ。


 いくらステータスが高かろうが、自らの長剣に振り回されるような魔物に負ける俺ではない。


「【雷閃斬】」


 黒牛人がモタモタとしている間に俺は剣技スキルの【雷閃斬】を発動。


 雷の力が付与された刀身は、黒牛人の肉体を容易く切り裂いた。


 黒牛人の上半身と下半身が綺麗に断たれる。


 断面は雷が焼き焦がしていたからか血液が漏れることはなかった。


「や、やった……俺一人で迷宮主を倒したんだ!」


 これまで仲間たちのスキルツリーを解錠することだけに専念しており、戦闘に参加することはできなかった。


 でも、俺だって冒険者だ。仲間たちのようにカッコよく魔物を倒して人々に感謝されたかったし、戦闘を終えて仲間たちと一緒に達成感を味わいたかった。


 そんな気持ちをずっと抑えていたのでたった一人で魔物を、それもこんな高レベルの迷宮主を倒せたことが嬉しくてしょうがなかった。


「俺でも戦うことができる! 冒険をすることができるんだ!」


【解錠&施錠】があれば、俺でも冒険者としてやっていける。


 これからは仲間のためだけにこの力を使うのではなく、自分のために使うことにしよう。


 迷宮主を倒して一息つくと、フロアの奥に転送陣が出現した。


 あそこに乗れば、すぐに迷宮の外へと転移できるが、目の前に転がっている素材を放置して帰るのは勿体ない。魔物から得られる資源は冒険者の主な収入源だ。


 俺は黒牛人にナイフを突き立てると、毛皮、角といった素材を剥ぎ取り、体内にある魔石を回収した。


 迷宮主なので魔石はかなり大きく、角には膨大な魔力がこもっている。


 冒険者ギルドで買い取ってもらえれば、かなり高額な値段がつくだろう。


「はぁ……これからのことを考えると少し憂鬱だ」


【金色の牙】からは追放されてしまった。


 今さらあそこに俺が戻れるわけがないし、戻りたいとも思わない。


 迷宮主の扉の外からはあいつらの気配が一切感じられない。


 俺のことは迷宮主にやられて死んだと思って、街に引き返しているだろう。


 あいつらのことだ。適当な理由をでっちあげて俺が死んだことになっているだろうな。


 まあ、これからのことはなるようになるしかないだろう。


 幸いにして一人でも冒険者としてやっていけることがわかったんだ。


 最悪の場合は街を出て、別のギルド支部で活動をすればいい。


 これからの生活に期待半分、憂鬱さを半分ほど抱きながら俺は転送陣へ乗るのだった。





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