扉を【施錠】
執務室を出て怒号の響いてくる方へ向かうと、男たちに囲まれているエレンとシリアがあっさりと見つかった。
「あっ!」
こっそりと後ろから近づいて奇襲しようとすると、エレンが迂闊にも俺の名前を呼ぼうとしたので先に口を【施錠】。
やれやれ。なんで先に味方を【施錠】しないといけないのやら。
そのままバレないように接近すると、こちらに背を向けている二人の男を後ろから斬りつけた。
「ぎゃあああああああああああ!?」
「なんだ新手か!?」
「マズい! 挟まれたぞ!」
エレンとシリアをぐるりと囲んでいたが、後ろから俺がやってきたことによって男たちの連携は瓦解し、エレンとシリアによって一気に食いつぶされる。
「んんー! んんー!」
男たちを倒すとエレンが抗議するように唸ってくるので、口を【解錠】してやる。
「なにをする!?」
「それはこっちの台詞だ、バカ。後ろから奇襲しようってのに声を上げようとする奴があるか」
エレンの声で奇襲が失敗しそうになったことを告げると、彼女は「あっ」と短い声を上げて黙り込むことになった。
「すまない、アキト。予期せぬタイミングで敵と鉢合わせてしまった」
戦闘を終えるとシリアが落ち込んだ様子で頭を下げてくる。
「気にするな。元より情報が足りない中での侵入だ。こうなることは想定内だ」
俺はともかくエレンとシリアはこういった隠密行動にも慣れていないしな。
どこかでアクシデントが起きてこうなることはわかっていたので責めるつもりもない。
「アキトの方はどうだった?」
「証拠となる売買契約書を見つけることができた」
「お、おお! さすがはアキトだ! これさえあれば貴族たちも言い逃れをすることはできないであろう」
証拠となる四枚の羊皮紙を見せると、シリアは喜びの表情になり、それから安堵の表情へと変化させた。
「ということは、あとはエルフを助けるだけだな?」
「ああ、ここからは正面突破だ」
屋敷の地下に入ってきたということは、ここにあるエルフが目当てだということ。
ここにいる男たちもこちらの狙いに気付いているに違いない。
敵が余計な行動を起こさないように迅速にエルフたちを見つけるべきだ。
「いたぞ! 侵入者だ! エルフもいるぞ!」
「ひゃーっはっはっは! しかも、とびっきりの美女じゃねえか! こいつも売れば金になるぜ!」
「男は殺して、女は商品にしちまえ!」
などと方針を固めていると、奥の通路から大勢の武装した男たちがやってくる。
「【解錠】」
通路を埋め尽くす勢いでやってくる男たちに対し、俺の廊下の右側にある扉を【解錠】。
すると、閉まっていた扉が勢いよく開き、無警戒だった男たちの身体が左側に吹き飛ぶ。
今度は左側の扉を【解錠】してやると、男たちは纏めて左側の部屋へと放り込まれる形となった。
一人だけ運よく扉に当たらなかった者もいたが、そいつは接近して直接蹴り込んで部屋に入れてやった。
「【施錠】」
「いってえ! この野郎! よくもやりやがったな――って、開けねえ!?」
「おい、なにやってんだよ!?」
「うっせーな! 扉が開かねんだよ!」
起き上がった男たちがすぐに部屋から出て襲いかかってこようとするが出ることはできない。
「残念ながらこの扉は俺が【施錠】した。ちなみに扉の鍵を持っていようが開くことはないから無駄だぞ」
「ちっくしょ!」
先ほどからガチャガチャと扉の鍵を入れているみたいだが、エクストラスキルによって【施錠】しているので意味はない。
俺の言葉の通りに意味がないことを悟ったのか鍵を叩きつけるような音が響いた。
こいつらのステータスを【分析】で一通り確認したが、分厚い鉄扉を壊せるようなスキル持ちもいないようだ。
「よし、アキト! エルフを探しにいくぞ!」
「待て。こいつらに聞き出した方が早い」
「だが、ここでゆっくりと尋ねている暇はないぞ?」
「大丈夫だ。早く終わる」
エレンとシリアが怪訝な顔をする中、俺は男たちが閉じ込められている室内に向けて火魔法を発動させた。
部屋の中心に炎が収束していき、やがてそれは渦となって周囲に火の粉を散らし出す。
突如出現した炎の渦。唯一の出口である扉は【施錠】しているために男たちに逃げ場はない。
室内では阿鼻叫喚の嵐が巻き起こった。
「頼む! ここから出してくれ! 死にたくねえ!」
扉の鉄格子に男が張り付いて懇願してくる。
「捕らえられたエルフはどこにいる?」
「エルフならこの先を右に曲がって、その奥にある部屋だ!」
「そうか。じゃあな」
「おい! 教えたら助けてくれるんじゃないのか!?」
「教えたら助けてやるなんて俺は一言も言ってない」
「ふざけんなああああああぁぁぁぁーっ!」
都合のいい解釈を勝手にしたのは男の方だ。俺はそんな約束をしてやった覚えはない。
「行くぞ」
「アキトもむごいことをやるな。私もドン引きだ」
「じっくりと【精神解錠】をしている暇はないからな。これが一番効率的だ」
シリアは何かを言いたそうな顔をしていたが、妹や同胞を助けることを優先したのか何も言うことはなかった。
部屋からは悲鳴や怒号、怨嗟の声が聞こえていたが、やがてそれらは聞こえなくなった。
男の情報通りに突き当りを右に曲がって、廊下を奥へと進んでいくと大きな扉があった。
扉の前には全身鎧に身を包んだ男が二人いた。
左右の部屋から増援が出てくる気配があったので俺は扉を一斉に【施錠】してやる。
エレンとシリアは挟撃されることなく一直線に駆け出し、扉を守護する全身鎧の用心棒をそれぞれがあっという間に倒す。
「【解錠】」
大きな鉄扉に向けてエクストラスキルを発動すると、重々しい音を立てながら扉が開いた。
部屋の中は石造りの牢屋となっており、四人のエルフの少女には隷属の首輪がついていた。
「ミュリア!」
「お姉ちゃん!? 助けにきてくれたの!?」
奥にいるエルフの少女がシリアを見て明るい声を上げた。
シリアと同じ金色の髪にエメラルドのような美しい瞳しており、やや幼い風貌をしているものの可愛らしい子だった。
「お前たち! ミュリアを返せ!」
「見たところエルフの戦士と冒険者が手を組んだというところか? にしても、一体どこから嗅ぎつけてきた?」
ミュリアたちの牢屋の前にはキノコ頭をした偉そうな男がおり、後ろには護衛の男がいる。
前者は確かめるまでもなくキーマッシュの父親だろう。顔つきがあまにも似ている。
「おたくの息子さんに教えてもらってな」
「あのバカ息子め! 道理で予定していた商品がこないと思っていたわい!」
本来の予定であれば、今ごろキーマッシュたちの運んでいたエルフたちもここに収監している予定だったのだろう。
「エルフを奴隷とすることは条約で禁止されている。貴族であるお前がどうしてこのようなことをする?」
「はっ、決まっているだろう。エルフは金になるからだ。エルフを欲しがる者たちはいくらでもいる。俺たちはそれを捕獲して、横に流すだけで裕福な暮らしができるというわけだ」
「エルフ国と戦争になる可能性は考えないのか?」
「そんなものは上の連中が何とかする。奴らも喉から手が出るほどにエルフを欲しがっているからなぁ」
「……下種め」
いやらしい笑みを浮かべるザーイッシュを目にして、シリアが吐き捨てるように言う。
ダメだ。この男に良心というものは存在しない。
他人の人生をめちゃくちゃにしても自分さえよければそれでいいといった思惑が透けて見えていた。
ジェイドたちと同じだ。会話をしているだけで吐き気がする。
「仮にエルフを奴隷としていることが本当であっても、それを証言できる者がいなければ証拠はないも同然だろう?」
ザーイッシュが述べると、彼の後ろに控えていた杖を持った男が前に歩み出てきた。
【作者からのお願い】
『面白い』『続きが気になる』と思われましたら、是非ブックマーク登録をお願いします。
また、↓に☆がありますのでこれをタップいただけると評価ポイントが入ります。
本作を評価していただけるととても励みになりますので、嬉しいです。