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決定的書類


 階段を下りて屋敷の地下へやってくると、長い廊下が広がっていた。


 天井には魔力灯が設置されており、廊下をぼんやりと照らしている。


 地下も屋敷と同じくらいの面積があり、かなり広い空間を保有しているようだ。


「ミュリアたちはどこにいる?」


「わからない。ここから先は情報があまり無いんだ」


 キーマッシュに尋ねてみたが、彼も地下にはあまり入ったことがないのか屋敷に比べると情報がほとんどなかった。


「わかっているのはここに囚われたエルフが四人いること。そして、雇われた用心棒がいるってことだけだ」


 エルフがどこの部屋にいるのか、ここにいる用心棒がどれほどの実力で、どれくらいの人数がいるのかといった詳細な情報はない。


 ここからは地下を捜索しながらの出たとこ勝負になるだろう。


「ここからは二手に別れよう。シリアとエレンはエルフの捜索を頼む」


「アキトはどうする?」


「俺も捜索をするが、それと平行して奴隷売買の書類なんかを探りたい」


 ワルム家の別邸には隷属させたエルフがおり、ここから買い手となる貴族へ輸出している。となると、ここに売買契約の書類などがある可能性が高い。


「救出した後はエルフ国から正式に抗議をしてもらうことになるが、証拠はあるに越したことはないからな」


「アキトの言う事ももっともだ。では、そちらはアキトに任せよう」


「ここにいる奴らは倒してもいいのか?」


「できるだけ騒ぎにならないように頼む」


「……わかった」


 派手に暴れないように釘を刺すと、隠密行動が苦手なエレンがしょんぼりしながら頷いた。


 ミュリアと他のエルフを救出するまでは、できるだけ存在を悟られたくない。


 侵入してきたことがバレたら、ミュリアたちの安全が保障されない可能性がある。


 方針が決まったところで俺はエレンとシリアと別れて、地下を捜索することにする。


 廊下を右に曲がると、その先にも廊下が続いており脇には等間隔で部屋が並んでいた。


 奥にはまだまだ部屋らしきものが続いており、さらに曲がり角らしきものが見えている。


 かなり複雑な地形なので二手に別れて正解だな。


 足音を立てないように廊下を進んでいくと、一つ目の部屋は物置になっていたが、二つ目の部屋からは人の気配らしきものがあった。


 鉄扉の前まで忍び寄って中の様子を窺うと、三人の男がテーブルを囲っており酒や煙草を楽しみながら談笑しているようだった。


 腰には剣を佩いており、その身なりは明らかに屋敷のメイドや執事といったものではなかった。


 明らかに盗賊や半グレといった者の匂い。


 恐らく、キーマッシュを護衛していた者たちの仲間だろう。


 こちらに気付いている様子はないが放置しておくと捜索作業の障害になりそうだ。


 排除するべきだ。


 キーマッシュと同じように【精神解錠】をすれば、情報を抜き出せるかもしれない。


 一人だけ殺さずに試してみよう。


 俺は扉を解錠して中に入ると、奥にいる男に向けてナイフを投げた。


 投擲されたナイフは酒杯を口へ運ぼうとしていた男の額に突き刺さり絶命。


 それと同時に封魔剣を振るって左手前にいる男の首を切り裂いた。


 右側に座っていた男がガタリとイスから立ち上がって怒鳴り声を上げようとしたので俺は口を【施錠】してやる。


 声を上げることができずにパニックになった男の腹に拳を入れる。


「――ッ!?」


 声を漏らすことすらできず、男の身体がくの字に折れ曲がった。


「【精神解錠】」


 額から脂汗を流し、声を上げることもできない男に俺はエクストラスキルをかけてやった。


 男が暴れなくなったことを確認すると、俺は口の【施錠】を解いてやる。


「大丈夫か?」


「おいおい、酷いじゃねえか。いきなり腹を殴るなんてよお」


「すまん。お前を敵だと勘違いしていた」


「ったくよお」


 短い会話の中でしっかりとスキルがかかっていることを確認すると、俺は本題を尋ねる。


「ところで聞きたいんだが、捕まえたエルフがどこにいるか知らないか?」


「商品として入荷しているのは知ってるが、どこで管理してるかは知らねえな」


「知らないのか?」


「俺は下っ端だしな。詳細までは知らねえよ」


【精神解錠】で心を開いた状態でも知らないというのであれば、本当に知らないのであろう。


「……そうか。ならもう用はない」


 エルフの管理場所さえ知らない下っ端が、それに匹敵するような機密情報や組織の全体について知っているはずもない。


 大して情報を抜き取ることができない判断した俺は、ナイフで男の首をかき切ってやった。


「なっ!?」


 心に対して心を開いて男は、まるで長年苦楽を共にした友に裏切られたような顔をして事切れた。


【気配察知】を発動させているが、周囲から人が集まってくる気配はない。


 ほとんど音もなく殺したお陰か他の者に気付かれる心配はないようだ。


 部屋の壁も分厚く、鉄扉になっているお陰で防音性も高いのかもしれないな。


 部屋の中央にあるテーブルには酒瓶と酒杯、トランプが散乱していた。賭けでもやっていたのか置かれている革袋にはお金が入っていた。


 俺は革袋を手で掴むと、そのまま自分のマジックバッグに入れた。


 所有者である男たちは死んでしまったので、残っているお金は俺が有効活用させてもらうことにしよう。


 改めて部屋を調べてみるが、他にある家具は二段ベッドが二つ設置されているだけだ。


 ここは下っ端が寝るための仮眠室のようだ。


 手がかりになるようなものはないと判断して、部屋を出ると他の部屋を探っていく。


「【解錠】【解錠】【解錠】」


 部屋の中に人がいないことを確認すると、俺は片っ端から鍵のかかっている扉を開けていく。


 それぞれの部屋を確認していくがワルム家から援助されている食料や武具といったものしか見当たらない。


 時折、違法麻薬のようなものが見つかるが、それは今回の事件と関連がない上にワルム家の失態に繋がるわけでもないのでスルーだ。


 そうやって廊下を突き進んでいくと、他の部屋よりも造りが綺麗な扉を見つけた。


 ドアノブの鍵を解錠して入ってみると部屋の床には赤い絨毯が敷かれており、その上には牛皮を張ったソファーとローテーブルが設置されていた。


 奥には執務机と思われる木製のテーブルとイスがあり、奥には本棚と書類棚があった。


 用心棒の男共が待機していたような雑多な部屋とは違い、明らかに事務処理をしていそうな部屋だ。ここなら奴隷売買の書類があるかもしれない。


 書類棚にある書類を取り出してチェックしていくが、それらしい書類は見つからない。


 本棚に当てがないことを察すると、次は執務机の引き出しを調べてみる。


「鍵がかかっているな。まあ、意味はないが」


【解錠】すると、あっさりと引き出しは開いたが関係する書類はない。


 だが、明らかに底の位置が上がっていた。


 同じ材質、形状をした底板を用意してわざわざ隠蔽しているのだろう。


「初歩的な仕掛けだな」


 この程度の仕組みだったら迷宮の罠の解除や、探索をやっていれば誰でも気付ける。


 底板を持ち上げると、四枚の羊皮紙が入っていた。


 確認してみると、エルフの奴隷売買に関する契約書類だった。


 ワルム家から売り渡される四つの貴族の家名も書かれている。


「これは決定的な証拠だな」


 これならエルフの密売に関わっていた貴族たちを芋づる式に糾弾することができる。


 エルフ国からの抗議に王国も対応せざるを得ないだろうな。


 四枚の羊皮紙をマジックバッグに収納すると、執務机の下に金庫のようなものが置いてあり、開け口には分厚い錠前がついている。


 ひょっとして金庫か。


 期待しながら【解錠】すると、錠前があっさりと落ちた。


 取っ手を掴んで開けると、箱の中には金塊や宝石類がぎっしりと入っていた。


 エルフの売買契約書の捜索も大きな目的の一つであったが、こちらの金目になる品の押収も実は目的の一つとして俺は定めていた。


 これだけあくどいことをしている貴族だ。隠し財産の一つや二つは絶対にあると思っていた。


 これは単純に俺の利益のためでもあるが、エルフのためでもある。


 今回、エルフたちを救出したとしても組織が残存し、資金潤沢に残っていれば、すぐに活動を再開する可能性がある。


 そういった今後の被害を防ぐ意味でも、活動資金を徴収しておくことは大事なのだ。


 説明すればシリアも理解はしてくれるだろうが納得はしてくれないだろう。


 妹や同胞の危機が刻々と迫っている最中に金品を漁ることなんて彼女はできないだろうからな。


「こんなものだな」


 金庫の中にあったものをすべてマジックバッグに収納してやった。


 これだけ財宝があれば、しばらくはエレンの食事代に怯えることはないだろう。


 さて、俺もエルフたちの捜索を再開しようとしたところで廊下の方からドオオンッと派手な音が鳴り、男たちの怒号のようなもの響き渡った。


 どうやらエレンとシリアが派手に暴れて、用心棒たちに侵入を察知されてしまったようだ。


「はぁ……」


 これ以上の隠密行動は無意味だな。


 俺はため息を吐くと、執務室を出て二人と合流することにした。







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