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精神解錠


「フン! 相手が変わろうとも同じだ! 平民ごときに僕が口を割ると思うなよ!」


 俺が近づくと、キーマッシュは歯を剥き出しにして敵意を露わにしてくる。


 こいつは野生動物か。


「それならこうしよう。【精神解錠】。で、改めて質問してもいいか?」


「ああ、もちろんだ我が友よ! 何が聞きたい?」


 キーマッシュの豹変ぶりにシリアが驚き、退屈そうに見守っていたエレンが目を見開いた。


「エルフを誘拐し、奴隷にしているのはお前の仕業なのか?」


「いや、これはパパが主導で進めているものさ。僕も大人になったから計画に関わらせてもらえるようになったんだ」


「父親の名前を教えてくれるか?」


「ザーイッシュ=ワルムさ」


 やはり、エルフを奴隷にしているのはキーマッシュではなく、父親であるザーイッシュのようだ。


「キノコ頭が急に素直になった! これはどういうことなんだ、アキト?」


 すらすらと話し出したキーマッシュの態度を見て、エレンが興味深そうに尋ねてくる。


「俺のエクストラスキルでキーマッシュの心を【解錠】してやったんだ」


「心を解錠?」


「閉じていた心を開かせて、友人のようになったという感じだな」


「……アキトのエクストラスキルはそのようなことができるのだな」


 他人の精神に干渉するにはかなりの魔力を消費するが、どうやら上手くいってくれたようだ。


 心を俺に開いてくれている以上、その情報に偽りはないといっていい。


 尋問で吐き出させた情報よりも信憑性も高いと言えるだろう。


 種明かしをしたところで俺はキーマッシュへの質問を続ける。


「ミュリアはどこにいる?」


「すまない。ミュリアがどのエルフを指し示すのかわからないんだ」


 どんなに心を開いて友好的になってくれようが、本人が理解できない情報を話すことはできない。ミュリアの特徴を伝えても、キーマッシュが把握していない可能性もある。


「じゃあ、質問を変えよう。誘拐し、隷属の首輪をハメたエルフはどこに運び込んでいるんだ?」


「ああ、それならエルダニアにあるワルム家の別邸さ。そこに地下にエルフを収容して、他の貴族に売りつける段取りになっている」


「いつ頃に売る予定なんだ?」


「詳しく把握しているわけじゃないが、大体収容して一週間程度で輸送されているな。前回、運び込まれた四人のエルフは五日ほど前だから今日、明日くらいに輸送されてもおかしくはない」


 キーマッシュの言葉を聞いた瞬間、シリアが血相を変えて走り出そうとする。


「待て、シリア」


「離してくれ! アキト! そこから輸送されてしまえば、ミュリアを救出するのがより困難になる!」


「エルフであるシリアが一人で街に入れば確実に悪目立ちするぞ?」


 ただでさえ街にエルフは少ない。そんな中でシリアが目撃されれば、ザーイッシュがより警戒を高めてしまいだろう。そうすれば救出がより困難になる。


「それでも行くしかないッ!」


「人間の国に入ったことがあるのか? エルダニアは? ワルム家の別邸がどれかわかるのか?」


「ぐっ……そ、それは……」


「確実に救出するためだからこそ慎重に動く必要がある。そうだろう?」


「……すまない。冷静さを欠いていた」


 一人でエルダニアに行くことの問題点を挙げていくと、シリアはようやく落ち着いてくれた。


「救出には俺とエレンも手を貸そう」


「いいのか?」


「既に乗りかかった船だしな!」


「どちらにせよ貴族に手を出しちまったんだ。ここらで潰しておかないと俺たちもあとが面倒くさいことになる」


「ありがとう、二人とも」


 ここで手を引いたとしてもキーマッシュは権力を駆使して、俺たちを追い詰めようとするだろう。そうされる前に奴隷にされてしまったエルフを救出し、エルフ国から正式に抗議を挙げてもらおう。


 エルフを奴隷にすることは明確な条約違反だ。たとえ、貴族であってもそれが知られてしまえば処分は免れない。


 やるなら徹底的に潰す。そのために心を開いてくれたキーマッシュからワルム家について色々と聞いておかないとな。




 ●




「よし、情報は十分に手に入れた。エルダニアに戻ろう」


 キーマッシュからワルム家や別邸についての詳細な情報を入手したので、俺とエレン、シリアは急いで集落を出てエルダニアに向かうことにした。


 集落に頼りになる戦力は他にもいるが潜入するには少人数の方が望ましい上に、俺たちの実力であれば三人で十分であろうと判断した。


 ちなみにキーマッシュは気絶させて放置した。


 縄で拘束している上にエルフの戦士に見張らせているので逃げ出すこともできないだろう。


「アキト、急いでいるのであれば私の力を使わないか?」


 幻影魔法の範囲外である集落の外に出ると、エレンがそんな提案をしてきた。


 エレンの力ということは、炎竜になって空を飛んで移動ということだろう。


 ここからエルダニアに向かって走っても数時間はかかってしまうが、彼女の翼を使えば短時間で街に着ける。


 しかし、エレンが【人化】を解くということは、彼女が炎竜であるとシリアに知られることになる。


「エルダニアに早く着く方法があるのだな? 妹や同胞を早く助けられるのであれば、私はその方法とやらに文句はつけないし、二人の不利益となる事実は漏らさないと誓おう」


 俺の葛藤を察したのかシリアが口を開いた。


 理解がよくて助かる。


 彼女の性格からエレンが炎竜だということを周りに言い触らすことはないだろう。


「なら問題ないか。エレン、頼む」


「わかった!」


 エレンの身体が赤色の光に包まれると、人間の姿から巨大な竜の姿へと変化させた。


 体は真紅の鱗に包まれ、背中から一対の大きな翼が生えている。


「ま、まさか、エレンが人間ではなく炎竜だったとは……」


「そういうわけだ。エルダニアまでエレンの背中に乗っていく」


「あ、ああ」


 エレンが身を屈めると、俺とシリアは足からよじ登り背中へと跨った。


 意外と鱗はツルツルとしていて肌ざわりがいいんだな。


「きゃうんっ!」


 なんて思いながら鱗を指で撫でていると、エレンから妙に艶っぽい声が漏れた。


「どうした!?」


「あまり首回りの鱗は触らないでくれ。敏感なんだ」


「そ、そうか。悪い……」


 竜の背中に乗るのが初めてだったために好奇心で触れてしまったが、あまり気安く触れない方がいいようだ。大人しくしておこう。


「では、行くぞ!」


 エレンが翼をはためかせると、途轍もない突風が発生して身体が強く揺れた。


 首元に近い俺はしっかり足に力を入れることで堪えることができるが、後ろにいるシリアはそうはいかない。翼と位置が近いこともあってか衝撃で体が傾いている。


「シリア、俺の腰に手を回せ」


「あ、ああ」


 声をかけると、シリアが遠慮がちに密着して俺の腰に手を回してきた。


 女性特有の柔らかな肌の感触やいい匂いが伝わってくる。


 前までの俺ならばドキドキしていたかもしれないが、性欲を【施錠】しているために一切そんな気はならない。が、シリアの方は俺と密着して心拍数が上がっているようだった。


「なんだか私だけを除け者にして楽しそうなことをしてないか?」


「そう思うんだったら丁寧に飛んでくれ」


「生憎と人間を背中に乗せるのは初めてなんだ。大目に見てくれ」


 エレンの言葉を聞いて心配になってきたが、今さら止めるわけにもいかない。


 翼をはためかせるとドンドンと上昇。


 視界は青に染まり、森林地帯と山脈地帯を上から見下ろすことができるようになった。


「綺麗だな」


「ああ」


 後ろにいるエレンから感嘆の呟きが漏れ、俺も同意するように頷く。


 空から見下ろす光景は絶景だ。


 まさかこんな風に炎竜の背中に乗って空を飛ぶ日が来るとは思わなかったな。


 このまま空の旅に出たいところであるが、今はのんびりと景色を堪能している場合じゃない。


「エレン、エルダニアまで頼む」


「任せろ!」


 エレンはひと際早く翼をはためかせると、猛スピードでエルダニアへと北上していくのだった。





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