集落
「武器を納めろ! アキトとエレンは悪い人間ではない! 攫われていた子供たちを助けてくれた恩人だ!」
「人間が子供たちを助けただと!?」
「あっ! パパだ!」
「え、エリナ!?」
怪訝な声を上げて弓を構えていた男性の元にエリナが駆け出していく。
「ほ、本当にエリナなのか!?」
「うん! アキトさんやエレンさん、それにシリアお姉ちゃんが助けてくれたの!」
戦士の一団にはルルとスックの父親もいたのか、二人も父親の元へと寄っていく。
「ルルー!」
「……お父さん、痛い」
「スック! 怪我はしていないか!?」
「私は大丈夫だよ。どこも怪我をしていないから」
ルルとスックも父親に抱きしめられ、どこか恥ずかしそうにしながらも笑みを漏らしていた。
やがて子供たちが戻ってきたことは集落へと広まり、エリナたちの母親もやってくる。
こうやって見ていると、本当にエルフという種族は容姿端麗なのだと思う。
女性はもちろんのこと、男たちも絶世の美男子と言えるようなレベルに顔が整っていた。
親になるような年齢にも関わらず、見た目も二十代前半にしか見えない。
誘拐を肯定するわけではないが、人間が欲に目を曇らせてしまう魔性の魅力があるものだ。
「ほ、本当に君たちが娘たちを助けてくれたのか?」
「そうだ」
「だとしたら君たちは同胞の恩人だ。娘を助けてくれて本当に感謝する」
頷くと、エリナの父親だけでなく、ルルとスックの両親からも口々に感謝の言葉をかけてくれた。
こうやって素直に感謝されるのは悪くないものだな。
特に【金色の牙】に所属していた時は、誰かに感謝されることなんてなかった。
なんだか背中がむず痒い。
同胞たちを救った者たちだと理解できたのか、エルフたちの表情が柔らかいものになっていく。
「仮に恩人だとして集落まで連れてくる必要はなかったのではないか?」
しかし、完全に信用されたわけではない。
よそ者を嫌っているエルフは多いらしく、わざわざ俺たちを集落にまで連れてきたシリアに疑問の声を投げかける者もいる。
「アキトには隷属の首輪を解除できるエクストラスキルを持っている。救出した子供たちの首輪を解除してもらうために私が頼んでついてきてもらった」
「そ、それは本当か!?」
「ああ」
「だとしたら、すぐに子供たちのところへ向かおう!」
シリアが俺たちを連れてきて理由を告げると、疑問の声を投げかけていた者が目の色を変えてこっちだと言わんばかりに走り出す。
「すまない。隷属の首輪をハメられて苦しんでいるのは、あの者の娘でな……」
態度が急に軟化したことを訝しんでいると、シリアがその理由を話してくれる。
誰だって余裕が無ければトゲトゲとした態度になってしまうものだ。
「別に気にしていないさ。それよりも早く行こう」
「ああ。こっちだ」
先導するエルフの戦士とシリアの後ろをついていく形で俺とエレンは走り出す。
木の中にある階段を登り、橋を渡り、シュラウドのようなロープを使って移動していくと、俺たちは大きめの家にやってきた。
「少し待っていてくれ。中にいる家族たちに事情を説明する」
俺とエレンが急に入れば、何も知らない家族たちが混乱するとのことで先に戦士の男とシリアが入る。
「問題ない。入ってくれ」
程なくすると、シリアが扉を開けて室内へと招いてくれた。
大木を切り抜いているからだろう。中に入った瞬間に柔らかな木の匂いに包まれた。
中ではエリナと同年代の少女が三人ほどベッドに寝転んでおり、首は隷属の首輪がハメられていた。
支配者から離れたせいか少女たちの胸元には模様が浮かんでいる。
その模様は光輝いており、断続的な痛みによって少女たちは苦悶の声を漏らしていた。
「頼む! 娘たちを助けてくれ!」
「わかった。少し離れてくれ」
戦士の男が縋ってくるのでそれをやんわりと引き剥がして、俺はベッドに寝転んでいる少女の元へ近づいた。
「……お兄さん、誰?」
額から冷や汗を流し、荒い呼吸をしながらも少女が問いかけてくる。
「君のお父さんに頼まれて首輪を外しにきた者だ」
「この苦しいの、外れる?」
「ああ、今外してやる」
安心させるような声音で告げると、少女の首元にある黒い首輪に手を振れる。
「【解錠】」
エクストラスキルを発動した瞬間、少女の首にはまっていた隷属の首輪がカシャンッと音を立てて外れた。
「【解錠】【解錠】」
シリアたちが驚愕で息の呑む中、俺は残りの二人に向けても同じようにエクストラスキルを発動。すると、そちらの隷属の首輪もあっさりと外れた。
「……胸が痛くない」
「これでもう大丈夫だ」
「ありがとう、お兄さん」
痛みから解放され、安心したのかエルフの少女は穏やかな表情で寝息を立てる。
隷属の首輪が外れたことにより、戦士の男や、他の身内のエルフが少女たちに駆け寄って手を握り、喜びの声を上げていた。
「これでいいか?」
「ああ、本当に感謝する」
シリアだけでなく、戦士の男や他の家族たちが揃って頭を下げてくる。
たったこれだけのことで感謝されるのがむず痒い。
俺は感謝の言葉を適当にいなすと、エレンとシリアと共に外に出た。
「他に誘拐された子供はいないな?」
「いや、まだ四人ほど行方のわかっていない者がいる。私の妹であるミュリアもその一人だ」
なにかを堪えるように手をギュッと握りしめるシリア。
「特にミュリアは身体が弱い。一刻も早く助けなければ……」
彼女がやけに焦っていたのは妹が攫われていたからなのだろう。
未だに妹が見つかっていないというのに、他の同胞を救うために俺たちを集落まで案内するとは真面目で強い精神をしている。
それにしても、エリナたちの他にも誘拐された子供がいるのか。
さすがに今から捜索するには手がかりが足りない。
「他に攫われたエルフが見つからないのであれば、このキノコ頭に聞けばいいんじゃないか?」
「ああ、そうだったな」
エレンが引っ張っていたキーマッシュを見て、俺はその存在を思い出した。
こいつならシリアの妹であるミュリアや、他に攫われたエルフがどこにいるのか知っているかもしれない。
「……ずっと気になっていたのだが、このぐるぐる巻きにされた男は何だ?」
「エリナたちを誘拐していた貴族だな」
「なにっ!? こいつがか!?」
誘拐犯の代表格であることを告げると、シリアの形のいい眉が吊り上がった。
シリアは屈みこむと、ぐるぐる巻きになったキーマッシュの頬を往復ビンタする。
「い、痛っ! やめろ! 誰だ! 僕の顔を叩く無礼者は!?」
「ミュリアはどこにいる! 吐け!」
「ぶへっ! ミュリアだぁ!? 知らないよ、そんなの!」
「お前は我が同胞を攫った者なのだろう!? 私と似た顔をした少女がいたことくらい知っているだろう!」
「あー? そういえば、そんなエルフのガキがいたようないなかったような……」
「どこにいるんだ! 教えろ!」
「そうだな。僕を今すぐに解放して、君が身体でご奉仕してくれれば教えなくもないかなー」
シリアの豊かな胸元やお尻へと向けながら言うキーマッシュ。
好色な視線を向けられ、シリアが強い嫌悪感を滲ませた表情を浮かべた。
こんな状況でもそんな要求をするとは、こいつは本当に見境のない奴だな。
「状況をわかっていないようだな? お前を尋問して無理矢理吐かせてやってもいいんだぞ?」
素直に情報を吐く様子がないことに業を煮やしたのか、シリアが剣を引き抜いてキーマッシュの首へ突きつける。
「お前こそ! 僕に少しでも危害を加えてみろ! 意地でもエルフの居場所は教えないからな!」
「こ、こいつ!」
キーマッシュの強気な態度にシリアの額に血管がビクビクと震える。
煽られる耐性がかなり低いようで、このままだとキーマッシュを殺してしまいそうだな。
そうなってしまっては情報を引き出すことはできず、シリアの妹を助け出すことができない。
「ちょっと試してみたいことがあるんだがいいか?」
「え? あ、ああ」
「アキト、何かするのか?」
俺が何かすると察したのか、退屈そうに眺めていたエレンが興味を示す。
「まあ、見ていてくれ」
二人に離れてもらうと、俺は地面に這いつくばるキーマッシュへと近づいた。
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