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隷属の首輪を解錠


 キーマッシュや護衛が片付いたので俺は檻の外にいるエルフの少女へと近づく。


「た、助けてくれたの?」


「ああ、俺は冒険者のアキト。こっちは仲間のエレンだ」


「……エリナです」


「俺は人間族だが、あいつらの仲間じゃないからな。【ヒール】」


 おそるおそるといった様子で声をかけてくるエリナに俺は回復魔法をかけてやる。


「あっ、身体が痛くない。あ、ありがとう」


「気にするな」


 彼女の身体を淡い光が包み込むと、キーマッシュに殴られた痕は綺麗に消えた。


 痛みが癒えたことにより強張っていたエリナの表情が少し柔らかくなる。


「あ、あの! ルルとスックも助けてください!」


「わかった」


 エリナに請われて檻に近づいてみる。


 檻の中には同年代くらいのエルフの少女が二人いた。


 当然ながら檻には鍵がかけられており、俺たちでは開けることができない。


 しかし、俺の前では鍵など無意味だ。


「【解錠】」


 エクストラスキルを発動すると檻の出入り口のロックが解けた。


 檻の出入り口が開くと、ルルとスックが外に出てきてエリナと抱き合う。


 こちらの二人は逃げ出さなかったこともあり、危害を加えられた様子はなさそうだ。


「――檻に戻れ」


「「きゃああああああっ!?」」


 後ろからキーマッシュの声が響いたかと思うと、喜び合っていた三人が苦悶の声を上げた。


 慌てて様子を見ると、エリナたちの胸元に模様が浮かび上がって光り輝いている。


「バカが! 隷属の首輪をはめているから無駄なんだよ! その首輪がある限り、そのエルフたちはずっと自由のない奴隷だ!」


 キーマッシュが地面に這いつくばりながら嘲笑する。


 エレンが手加減したが故に意識をすぐに取り戻すことができたようだ。


 隷属効果のある首輪のせいでエルフたちは未だにキーマッシュの支配下から逃れることができていないようだ。


「だったらその首輪を解いてやるよ。【解錠】」


「はあ? 解除できるのは鍵を持っている奴隷商人と僕のパパだけだ! お前にそれを解くことはできな――えええええっ! なんでだッ!?」


 キーマッシュが高笑いする中、俺は隷属の首輪にエクストラスキルを発動。


 カシャンッとした音が鳴り響くと、エリナ、ルル、スックの首にハマっていた黒い首輪は地面に落ちた。


「はぁ? おかしいだろ!? どうして鍵を持っていないお前が隷属の首輪を解除できるんだ!?」


「俺のエクストラスキルは【解錠&施錠】といってな。こんなチャチな拘束具は無意味なんだ」


「なんだよそれ!? ズルいぞ、貴様!」


 丁寧に説明してやると、キーマッシュが駄々をこねるように言う。


 いい加減、あいつと会話をするのも面倒になってきた。


 視線をやるとエレンがキーマッシュに近づいて首に手刀を入れて気絶させてくれた。


 これでようやく静かになった。


「アキト、エルフたちを助け終わったことだし、そろそろご飯にしないか?」


 エリナたちと会話をしようとした矢先にエレンが呑気な提案をしてくる。


「いや、それよりも先にこの子たちを故郷に返すのが先だろ」


 エレンの提案を却下しようとすると、後ろから「ぐうう」と低い音が響いた。


 振り返ると、エリナたちが顔を真っ赤にしてお腹を押さえていた。


「ご、ごめんなさい。しばらく何も食べてなかったので……」


 どうやらあの檻に入れられてから、まともに食事も摂らせてもらえなかったらしい。


 お腹を空かせているのはエレンだけではないようだ。


「お腹が空いていては故郷に戻ることもできないぞ?」


「……わかった。先に食事にするが場所を変えさせてくれ」


 こんなに骸の散らばった場所で食事なんてしたくない。


「あの偉そうな男はどうする?」


「面倒だが縄で縛って運ぼう」


 気絶しているキーマッシュを放置し、エルダニアに駆け込んであることないこと吹聴されるのも面倒だし、エリナ以外にもエルフを奴隷にしている可能性が高い。


 こいつはエリナたちと一緒に故郷に連れていき、洗いざらい吐いてもらうのがいいだろう。


 気絶したキーマッシュを縄で拘束すると、そのままズルズルと引きずるようにして移動。


「アキト、もういいだろう?」


「わかった。食事の準備を再開する」


 戦闘地点から程なく離れると、俺は荷物を下ろして昼食の準備を再開。


 幸いにして下処理はほとんど終わっているので、あとはブラックボアの肉を焼いてやるだけだ。


 マジックバッグから魔道コンロを取り出し、その上にフライパンを置いて油を敷いた。


「あっ、昼食はブラックボアのステーキなんだが食べられるか?」


「お肉、好きです!」


 エルフの中には肉の好まない者もいると聞くが、エリナたちは特に問題ないらしい。


 むしろ、大好物のようだ。


 だったら全員ステーキでいいので楽だな。


 下処理をしたブラックボアの肉をフライパンで焼いていく。


 ジュウウウッと油の弾ける音が響き、周囲に肉と香辛料の香りが漂い出した。


 肉を焼いていると、エレン、エリナ、ルル、スックの視線が肉に向けられる。


 そんなに視線を向けても肉は早く焼けないぞ。


「アキト! 私はミディアムレアでいい!」


「はいはい」


 封印の迷宮の攻略祝いでいいレストランに連れていってやった影響か、エレンは焼き加減を注文してくるようになっていた。


 魔物の肉を半生で食べるのは怖いが、エレンは炎竜なのでその辺の心配は必要ないだろう。


「ほいよ。ミディアムレアだ」


「わーい!」


 程よく赤身を残した状態のステーキを渡してやると、エレンは嬉しそうにフォークで切り分けて食べ始めた。


「ふおおおおお! 柔らかい! 噛み締める度にブラックボアの脂と荒々しい旨みが出てくる! さすがは高級肉と言われるだけあるぞ!」


 先にもりもりと食べ進めるエレンを羨ましそうに見つめるエリナ、ルル、スック。


 俺たちは普通の胃袋なのでちゃんと火を通そうな。


 両面をしっかりと焼き上げると、エレン以外のステーキも完成した。


 お皿に盛り付けて渡してやると、エリナ、ルル、スックがステーキを食べる。


「美味しい!」


「……こんなに美味しいお肉は初めて!」


「ふんふん!」


 ブラックボアのステーキを口にして、笑顔を浮かべるエリナ、ルル、スック。


 エルフに食事を振る舞うなんて初めてだったが、彼女たちの口にも合ったようだ。


 満足げな様子で食べているのを確認すると、俺もブラックボアのステーキを口へ運ぶ。


「さすがは高級品と言われてるだけあって美味いな」


 普通の猪の肉は臭みが多くいのだが、ブラックボアの肉に臭みなんてまったくない。


 下味をつけて焼いただけだというとに、舌の上に乗せた瞬間にとろけるような柔らかさをしている。だけど、味の方は猪らしい濃厚な脂と力強い旨みをしている。


 冒険者だけでなく、市井でも人気な理由がわかるな。


「アキト、お代わり!」


 こいつのお肉だけかなり大き目にしていたというのに平らげるのが早い。


 俺はまだ二口しか食べてないんだぞ。


「あ、あの、私もお代わりが欲しいです」


「……食べたい」


「お願いします!」


 エレンを半目で睨んでいると、エリナ、ルル、スックまでもが期待するような表情で空になったお皿を渡してくる。


 こいつらの胃袋を先に満たしてやらないとゆっくりと食べることもできない。


 俺は仕方なく皿を受け取って、お代わりの肉を焼こうとする。


 その瞬間、俺の【気配察知】に一つの存在が引っかかった。


 俺は慌てて鞘から封魔剣を引き抜くと、こちらの心臓を貫こうとする襲撃者による剣の突きを受け止めた。


「――ッ!」


 甲高い音が鳴り響き、空中に薄い火花が散る。


 そのまま封魔剣で押し込んでやろうとすると、襲撃者は風を纏ってふわりとした動きで後退した。


 襲撃者の風貌を確認すると、金色の髪に翡翠色の瞳をしたエルフだった。


 白の外套に纏っており、動きやすい緑色の長袖にコルセットのようなものを身に着けている。太ももにはいくつものベルトが巻かれており、短剣などが装備されていた。


「我が同族を返せ!」


 そのエルフは眦を吊り上げると、瞳に怒りの炎を灯しながら剣を振るってくる。


 身体を動かして回避するが、俺の前髪がハラリと落ちる。


 ――速い。


 さっき戦ったキーマッシュの護衛とは動きが大違いだ。


 エリナたちのような普通の子供とは違い、明らかに訓練を受けている戦士だ。



 シリアージュ

 LV48

 HP:255

 MP:408/428

 攻撃:205

 防御:212

 魔力:300

 賢さ:289

 速さ:260

 スキル:【風魔法】【土魔法】【光魔法】【細剣術】【体術】【気配察知】【隠密】【狙撃】【弓術】【演奏】【手芸】【壁走り】【刺突】



 細剣を躱しながら【分析】をしてみると、かなり高いレベルの戦士だった。


 エルフだけあってMPや魔力がかなり高い。


「待て! 俺はお前に襲われる謂われはないんだが!?」


「我が同胞を攫っておきながらどの口がほざく!」


 どうやらこのエルフはエリナたちを攫ったのが俺だと思い込んでいるらしい。


 攫ったのはキーマッシュと雇われた一味であって俺ではないのだが……。


「冷静になれ! これには事情がある! 話を聞け!」


「黙れ! 下種な人間と話す口などない!」


 争う理由がないことを説明しようとするが、このエルフはまったく聞く耳を持ってくれない。エルフが鋭い剣閃を放ち、俺は封魔剣でそれらを何とか弾く。


「風よ!」


 エルフが涼やかな声を響かせると、風が生まれて踊るようにして身を包む。


 金糸のごとく美しい髪が風を孕んで波打つ。


 エルフは風の勢いを利用して加速。怒涛のような勢いで剣を振るってきた。


 吹き荒れる剣尖に俺は何とか封魔剣を合わせて弾く。


 速さのステータスは俺の方が僅かに上回っている。


 しかし、風魔法による加速によってエルフの身体能力は大幅に上昇していっており、徐々に俺の迎撃が間に合わなくなって身体に無数の傷が生まれていく。


 ……しょうがない。話を聞かないのであれば、聞いてもらえるように無力化するしかない。


「【能力施錠】」


 上段から振り下ろしを防ぎながらも、彼女の【風魔法】を施錠する。


 すると、彼女の身体を包んでいた風が消失。


「なにっ!?」


 浮力を失ったことによってバランスを崩すエルフだが、俺と打ち合わせた剣の力を利用して空中で回転して体勢を整えながら着地。エルフはこちらに向けて手をかざすと魔法陣を展開させる。


 土魔法か光魔法による何かしらの攻撃魔法だと察知した俺は【能力施錠】を使用し、それらの魔法スキルを施錠した。


「なっ! どうして魔法が使えないのだ!?」


 さすがに三つの魔法スキルを封じられては動揺が隠せないのだろう。


「どうもこちらの話を聞いてもらえないようだったからな。お前の魔法スキルは封じさせてもらった」


「スキルを封じるだと!? そんなスキルなど聞いたことがないが、魔法が封じられただけで私は同胞の救出を諦めたりはしない!」


 扱えるすべての魔法スキルを封じたというのに、このエルフはまだ戦うことを諦めないらしい。


 エルフはこちらを睨みつけると風魔法による補助無しでこちらに突っ込んでくる。


 エリナたちがいるので穏便にしようかと思ったが、ここまで話してダメならしょうがないな。少し痛めつけることになるが動けないようにしよう。


 このエルフを無力化するための流れを脳裏に組み上げると、エリナ、ルル、スックが俺とエルフの間に割って入ってきた。


「どかないか! お前たち!」


「待って! シリアお姉ちゃん! この人たちは悪い人じゃないよ!」


「……それはどういうことだ?」


 エリナの叫びを聞いて、エルフがようやく足を止めた。


「アキトさんとエレンさんは私たちを攫った人間じゃないの!」


「……むしろ、助けてくれた恩人」


「だから、剣を向けないでください」


 呆然とするエルフを目にして、俺はようやくこの茶番が終わったのだと悟った。






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