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エルフの奴隷

 

【魔力感知】と【気配察知】を頼りにして進んでいくと、開けた場所に馬車が停まっていた。


 茂みの裏に身体を隠した俺とエレンはこっそりと様子を窺う。


「アキト、あいつらはなんだ?」


「商人に見えなくもないが、明らかにそうじゃないだろうな」


 馬車の周囲にいる護衛らしき人物は明らかにカタギではない雰囲気を醸し出している。


 騎士でも冒険者でもない。悪質な傭兵や盗賊の類といった感じだ。


 さらに怪しいのが馬車で運ぶにしては大きくて違和感のある荷台。


 やたらと角ばった形状をした荷台は布で隠されており、普通の荷物を積んでいるとは思えない。


 気配を殺して怪しい一団を見守っていると、馬車から裕福な身なりをしたキノコ頭の男性が出てきて、護衛に荷台にある布を取り払うように命じる。


 護衛の男は布を取ることに渋っている様子だったが、男が強い語気で命令を下すと渋々といった様子で布を取り払った。


 布が取り払われると大きな檻が露出し、その中には首輪や手錠をはめられた少女たちが閉じ込められていた。はっきりとわかるほどに長く尖った耳をしていることから人間の少女ではなくエルフの少

女だ。


「あれはエルフか?」


「それも奴隷のな」


 ただ旅をしているだけならば、あんな風に少女たちに拘束具をつける必要はない。


 念のためにエルフたちを【分析】してみると、【隷属の首輪】というものをハメられているのがわかった。


「確か前にエルフを奴隷にするのが問題になっているとアキトが言ってなかったか?」


 エレンをエルダニアに案内した時に、少しだけ説明したことなのだが覚えていたらしい。


「そうだな。エルフ国との条約によってエルフを奴隷にするのは禁止されている」


「問題じゃないか」


「ああ、大問題だ」


 近年は特にエルフを誘拐し、無理矢理奴隷にしてしまう事件が横行している。


 そのせいでエルフ国が人間の国々に対して怒りを抱いているらしい。


 そりゃそうだ。自分たちの仲間を誘拐して、勝手に奴隷にするなんて到底許せるようなことではない。


「いやあああああああっ! やめて!」


「こら! 逃げようとすんじゃねえよ!」


 俺たちが様子を窺っている内にエルフの少女が檻から逃げ出すが、すぐにキノコ頭に掴まってしまい殴られた。


「へへへ、さすがはエルフ。小さなガキだが中々に美人じゃないか。あと五年、十年もすれば絶世の美女になるだろうが、この若い芽を一足先に堪能するのも悪くはないな」


 そのまま少女は無理矢理地面に抑えつけられ、男はいやらしい笑みを浮かべながら肌を撫でる。


「で、どうする?」


 エレンが問いかけてくる。


 明らかに面倒事の予感。ただの冒険者が首を突っ込むと余計なことになる気配しかない。


 賢く立ち回るには無視するのが一番なのだが。


「助ける」


「わかった。なら私も手を貸そう」


 あんな幼い少女が奴隷として運び込まれているのを無視することなんてできない。


 元はといえば、困っている人を助けるために冒険者になったんだ。


 ここで見て見ぬふりをしては冒険者になった意味がない。


「や、やめて! 触らないで!」


「ああ? なんだその反抗的な態度は? まだ自分が奴隷だってことをわかってねえみてえだな!?」


「そこまでにしておけ」


 男が血走った目で腕を振り上げた瞬間、俺とエレンは茂みの裏から飛び出して姿を現すことにした。


「な、何だ! お前たちは!?」


「通りすがりの冒険者だ。エルフを奴隷にすることは条約によって禁じられている。それをわかっていてやっているんだな?」


 俺たちがやってくると、エルフを殴ろうとしていた男が狼狽した様子で後ろに下がる。


 明らかに荒事に慣れていないな。


 こいつはただの雇い主か、そのボンボン息子ってところか。


「それがわかっていながら出てきたってことは、自分たちがこれからどうなるかわかっているんだな?」


 周囲にいた護衛たちは荒事にも慣れているのか、俺とエレンを見るなりすぐに警戒し、武器を構えていた。


「こっちは仲間が二十人以上いるんだ。それに対してそっちは二人。勝てると思っているのか?」


 外にいた護衛だけでなく、他の荷台で待機していたのか武装した男たちがゾロゾロと出てくる。短剣、長剣、大剣、弓といたあらゆる武器を突き付けられる。


「ああ、勝てるな」


 素早く【分析】をしてステータスを覗き見るが、全員のレベルの平均は30に届かない程度。何人かが魔法スキルを取得しているが、エクストラスキルを持っている者はいない。


 俺とエレンの前では大した脅威にならない。


「てめえら、やっちまえ!」


 護衛のリーダーらしき男が命じると、男たちがそれぞれの武器を手にして襲いかかってくる。


 動きが襲い。まるで敵がスローモーションで動いているようだ。


 俺は封魔剣を引き抜くと、斬りかかってくる三人の男を斬り伏せた。


「なんだこいつ! とんでもなく速え!?」


「こっちの女もなんて力してやがるんだ!?」


 エレンが拳を振るう度に男たちが面白いくらい吹き飛んでいく。


 スキルを使っていないのは使う必要すらない相手だと認識しているからだろう。


「なにやってるんだ。おい、魔法で一気にやっちまえ!」


 前衛が吹き飛ばされていく中、待機していた魔法スキルを保有していた男たちが一斉に詠唱を開始。


「ははは! 俺の魔法で燃やしてやるぜ!」


「風で切り裂いてやる!」


「【能力施錠】」


 それぞれの杖の先端から火属性、風属性の力が収束していく中、俺はエクストラスキルで二人の魔法スキルを【施錠】した。


「あ、あれ? 俺の魔法スキルが発動しねえ!?」


「俺もだ! ちくしょう、どうなってやがる!?」


「【火炎槍】」


 魔法スキルが発動できずに狼狽している男たちに向けて俺は魔法を撃ち込む。


 俺の放った火炎槍は魔法使いの男たちの胸に突き刺さり、全身を火達磨にした。


「ったく! なにやってやがんだ! おい、こうなったら先に男の方から全員でやっちまうぞ!」


 護衛のリーダーが苛立ちと焦燥を混ぜながら声を張り上げ、残っていた男たちが一斉に武器を手にして躍りかかってくる。


「あっ! なんでそっちに行くんだ!」


「悪いな。全部、俺の獲物だ」


 圧倒的な膂力を誇るエレンよりも、地味なスタイルをしている俺の方が倒しやすいと踏んだのだろう。


 ……数は十二人。この程度の人数でこれだけのレベル差があれば問題はないな。


「【施錠】」


 俺は飛びかかってくる全員に標準を合わせて瞼を【施錠】してやった。


「な、なんだ!? 急に視界が暗くなった!?」


「何も見えねえ!」


 突如視界がブラックアウトした男たちは着地すら満足にできずに地面を転がる。


 中には派手に着地を失敗したのか足を捻ってしまったり、あらぬ方向に向いてしまった奴もいる。


「おいおい、どこを見てるんだ? 俺はこっちだぞ!」


「そこか!」


「ぎゃああああああっ!?」


 視界が見えないリーダーに近づいて声をかける。


 すると、リーダーは反射的に剣を振るってしまい、味方を斬ってしまった。


 味方を斬ってしまったことを理解したのか、リーダーは冷や汗を流して動けなくなってしまった。


 隙だらけとなったリーダーに向かって封魔剣を振り抜いた。


 リーダーの首が飛んでいき、残った肉体が力無く地面に崩れ落ちる。


 視界を奪われた他の仲間は恐怖によってか錯乱し、武器を無造作に振るう。


 恐怖による錯乱が伝播し、男たちが身内同士で勝手に斬り合って沈んでいく。


 放っておくだけでも勝手に全滅しそうであるが、そんなものを眺める趣味はないので剣を振るっていく。


 視界を失い、恐怖で錯乱した男たちを討ち取るのは非常に簡単であり、一分もしない内に護衛の男たちは全滅することになった。


「骨のない人間たちだ」


「こんな仕事に手を出すような連中だからな」


 レベルが高く、才能があれば、このような仕事をするメリットなどないからな。


 周囲には物を言わぬ屍が散乱しており、残っているのは檻の中で身を寄せるように縮こまっているエルフと、裕福な身なりをした男だけだ。


「おい、お前ら! 僕はキーマッシュ=ワルム! 栄えあるワルム伯爵家の次期当主だ! そんな僕に危害を加えたらどうなるかわかっているのか!?」


 どうやらキーマッシュという男は貴族だったらしい。これだけの大人数を護衛に雇っているんだ。どこかの商会の息子か、貴族の関係者だろうと思っていた。


「それがどうした。エルフを無理矢理奴隷にした時点で貴族だろうと犯罪者だろうが」


「そんな条約など知ったことか! パパは王国の上層部にも顔が効く! パパの力を使えば、そんなものはいくらでも揉み消せる!」


「そうか。じゃあ、今もそのパパとやらに助けてもらえよ」


「ひっ!」


 元より俺はただの冒険者だ。仮にそのワルム家とやらに睨まれて、この国にいられなくなっても別の国に移動して冒険者活動をすればいい。


 俺が権力を恐れていないとわかったのかキーマッシュは顔を恐怖に歪めると、傍に落ちていた剣を慌てて拾い上げる。


 そして、先ほど逃げようとしていたエルフの少女の首に剣を突きつけた。


「くるな! これ以上近づけば、エルフの首を引き裂くぞ!」


「ひっ!」


 キーマッシュに刃先を当てられて、エルフの少女が恐怖によって顔を引きつらせる。


 まったく無駄なことを。


「【解錠】」


「わわっ! 剣が!」


 俺はため息を吐きながらキーマッシュの右手を解錠。


 キーマッシュの右手から剣が落ちる。


 慌てて剣を拾い上げようとしたところを一気に距離を詰めたエレンが殴り飛ばした。




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