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スキルツリーの解錠


 入口からジェイドに蹴られたことによって、俺は迷宮主の部屋の中央へと吹き飛ばされる。


 まずい。こんな部屋の中央まで侵入すれば、迷宮主が出現してしまう。


 そう思った瞬間、真っ暗だった部屋に青白い光が灯った。


 部屋の入口から中央に向かって両脇に設置されていた篝火のようなものが次々と炎が灯っていく。


 やがて円形の部屋のすべてを青白い炎が覆うと、奥にある玉座の後ろで大きな火柱が上がった。


 強い光に照らし出されたのは漆黒の毛皮を纏ったミノタウロス。ただし、迷宮内にいたミノタウロスとは大きさが段違いだ。全身の筋肉が発達しており、頭部から伸びた角は長くねじくれていた。明

らかに普通のミノタウロスとは比べ物にならない力が秘められているのがわかった。


 漆黒のミノタウロスは地面に突き刺した長大な黒剣を引き抜くと、部屋の侵入者である俺を排除しようと歩みを進めてくる。


「うっわー、黒いミノタウロスじゃん! めっちゃ強そうなんだけど!」


「ははは! 精々、頑張るんだなアキト! まあ、お前じゃ天地がひっくり返っても倒せないと思うがな」


 後ろからジュリアとジェイドの嘲笑が響いてくる。


 俺は中にある何かが切れかける。


 これまでパーティーに貢献してきた挙句にこのような理不尽な仕打ちをされたことによって、長年耐えてきたものが限界に達しようとしている。


「【施錠】」


 怒りの感情に支配されそうになったことを知覚した俺は、怒りという感情に鍵をすることにした。


 脳裏でガチャンッとした音が鳴り、ふつふつと煮え滾っていた熱のようなものが一気に鎮火した。


 頭から熱が抜けて思考がクリアになっていく。


 強い感情や欲望は時として正常な判断を鈍らせる。だから、こういった窮地に陥った時ほど冷静であることが重要だ。


 俺が生き残る道は、迷宮主の部屋から出ること。


 迷宮主の部屋のタイプによっては一度入ってしまったら部屋から出ることのできない場合もあるが、俺が【解錠】すれば出られる可能性はある。


 しかし、この黒いミノタウロスがそんなことを許してくれるだろうか? 


 部屋の中央から扉まで四十メートルほどある。


 俺が扉に到達するよりも前に黒いミノタウロスが追いかけて長大な剣を振るう方が早いだろう。


 逃げることはできない。覚悟を決める。


「【分析(アナライズ)】」


 相手の正確な力量を把握するために俺はスキルを発動して、黒いミノタウロスのステータスを覗き見る。


 黒牛人

 LV65

 HP:425

 MP:250/250

 攻撃:380

 防御:345

 魔力:262

 賢さ:210

 速さ:256

 エクストラスキル:【魔眼】

 スキル:【咆哮】【長剣術】【跳躍】【状態異常耐性(中)】【闘争本能】【突撃】



 アキト

 LV23

 HP:67

 MP:152/152

 攻撃:35

 防御:32

 魔力:80

 賢さ:65

 速さ:40

 エクストラスキル:【解錠&施錠】

 スキル:【分析】【身体強化】【隠密】【逃走】【剣術】【体術】【魔力増大(小)】


 黒牛人と俺とのレベル差に絶望するしかない。


 あまりに隔絶したステータス差の乾いた笑みが漏れてしまう。


 獣の迷宮を攻略するにはレベル50以上であることを推奨されている。


 俺はジェイドたちのスキルツリーを解錠することだけにすべてを注いでおり、ロクに戦闘に参加していなかった。他の仲間に比べ、俺のレベルが低いのは当然だ。


 だが、黒牛人に絶対に勝つことができないわけではない。


 これまでは【解錠】によって仲間のスキルツリーを解放することにリソースを注いでいたが、追放された今となってはあんな奴らスキルツリーを解錠する必要はない。


 俺はエクストラスキルを操作し、ジェイド、ハロルド、ジュリアのスキルツリーの【解錠】をキャンセルした。


 三人に振り分けていたエクストラスキルのリソースが次々と戻ってくる。


 俺が三人に振り分けていたリソースは膨大で返却されるのに時間がかかる。


 そんな時間を目の前にいる黒牛人が待ってくれはしない。


 なんとかこの場を凌ぐための時間を稼ぐ必要がある。


「二門解錠」


 俺が解錠したのは脳のリミッターだ。


 人間は常に百%の力を使ってしまうと骨や筋肉が耐えきれずに壊れてしまう。そのため百%の力を出せないように脳が制御装置として働き、二十%から三十%しか力を出せないようにセーブしてい

る。その制御装置を解錠することによって、身体能力を大幅に引き上げることができるのだ。


 黒牛人が猛烈な勢いで右手に持った長剣を振り下ろしてくる。


 俺はそれに何とか反応し、横跳びをすることで回避。


 脳のリミッターを解錠しなければ、反応することも回避することもできなかった。


 続けて黒牛人が長剣を水平に薙ぎ払ってくる。


 身体を伏せると、頭のすぐ上を物体が通り過ぎるのを感じた。


 本音を言うと、もう少し脳のリミッターを解錠したい。


 しかし、百%の力を解錠してしまうと負担が大きすぎて肉体が崩壊してしまう。


 八段階に分けている内、現在の力で解錠できるのは二門までだろう。


 俺は回避することだけに全力を注ぐ。


 そうやって黒牛人の攻撃を凌いでいるとジェイドたちから回収したリソースが俺に戻ってきた。


「スキルツリーを【解錠】ッ!」


 俺は自身のスキルツリーを展開すると、迷うことなく【解錠】していく。


【HP+20】を解錠しました。

【MP+20】を解錠しました。

【攻撃+20】を解錠しました。

【防御+20】を解錠しました。

【魔力+20】を解錠しました。

【賢さ+20】を解錠しました。

【速さ+20】を解錠しました。


 まずは基礎ステータスを向上させるためにスキルツリーを解錠し、ステータスを加算させる。


 基礎ステータスが上がれば、脳のリミッターを解錠したことによって身体能力がさらに上昇するからだ。


【エナジーフィラー】を解錠しました。HPが20%上昇します。

【マジックオーラ】を解錠しました。MPが20%上昇します。

【アタックウェーブ】を解錠しました。攻撃が20%上昇します。

【タンクマスタリー】を解錠しました。防御が20%上昇します。


「……すごいな。自身のスキルツリーを解錠は、こんなにも負担が少ないのか」


 ジェイドたちのスキルツリーを解錠する際は、かなり魔力を消費し、リソースを持っていかれていく感覚があったのでだが、自信のスキルツリーの解錠は驚くほどに負担がない。


 これなら俺が想像して以上にスキルツリーを解錠することができる。


 基礎ステータスを上昇させると、次はスキルを獲得していく。


【ファストブレード】を解錠し、獲得しました。

【ライオットソード】を解錠し、獲得しました。

【レイジオブソード】を解錠し、獲得しました。

【パリイ】を解錠し、獲得しました。

【雷閃斬】を解錠し、獲得しました。

【並列思考】を解錠し、獲得しました。

【詠唱破棄】を解錠し、獲得しました。

【魔力消費減(中)】を解錠し、獲得しました。

【火魔法】を解錠し、獲得しました。

【土魔法】を解錠し、獲得しました。

【風魔法】を解錠し、獲得しました。

【回復魔法】を解錠し、獲得しました。

【クリティカル率向上(小)】を解錠し、獲得しました。

【縮地】を解錠し、獲得しました。

【エアステップ】を解錠し、獲得しました。


 俺が扱えるのは剣なので剣士として必要なスキルを重点的に獲得していく。


 パーティーを組んでいる場合は各々の役割を決めて、それに合わせてスキルを獲得していけばいいのだが、今の俺は一人だ。


 剣士として必要なスキルだけじゃなく、回復系、防御系、魔法系のスキルも獲得する必要がある。


 戦闘中に必要なスキルの選択を取捨選択するのは困難な作業であるが、他人の役割に合わせてスキルツリーを解錠することは、俺が【金色の牙】にいて長年やってきたことだ。


 敵の強さや属性に合わせて、常に仲間たちのスキルツリーを操作してきたのでこれくらいのスキル操作くらいなんてことはない。



 アキト

 LV23

 HP:188

 MP:402/402

 攻撃:235

 防御:211

 魔力:311

 賢さ:302

 速さ:265

 エクストラスキル:【解錠&施錠】

 スキル:【分析】【身体強化】【隠密】【逃走】【剣術】【体術】【魔力増大(小)】

【ファストブレード】【ライオットソード】【レイジオブソード】【パリイ】【雷閃斬】【並列思考】【詠唱破棄】【魔力消費減(中)】【クリティカル率向上(中)】【縮地】【エアステップ】【火魔法】【土魔法】【風魔法】【回復魔法】



 そうやってスキルツリーを解錠し続けると、俺のステータスはかなり向上していた。


 絶望的だったステータスの差がかなり縮まっている。


 HP、攻撃、防御などの値には届かないが、MP,魔力、賢さ、速さといった部分では黒牛人のステータスを上回っていた。


 さらに恐ろしいのはこれだけスキルツリーを解錠しても、ほとんどリソースを持っていかれていないことだ。


「自分のスキルツリーを解錠するのと、他人のスキルツリーを解錠するのとは違うってことか」


 これならスキルツリーを解錠しながら、エクストラスキルを戦闘でも使うことができる。


「いける!」


 俺は腰から剣を引き抜くと、黒牛人に向かって一直線に駆け出した。



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