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封魔剣


「ふう、中々手強い魔物だったな」


 魔法攻撃は多彩な上に攻撃力も一級品。低い防御値は魔力障壁によって補い、ステータス数値以上の堅牢さを見せていた。


 初手で奴の【大封印】を【施錠】できていなかったら、こちらがやられていたかもしれない。


 それくらいの手強さを感じさせる迷宮主だった。


 ここまで優位に進めることができたのは俺のエクストラスキルとの相性が良かったからに過ぎない。まあ、それがわかっていて封印の迷宮に挑んだので考え無しだったとは言わないが、まだまだ自

身の実力を過信することはできないな。


 などと戦闘を振り返っていると、エレンが妙に静かなことに気付いた。


 視線を向けるとエレンは微妙な表情で動かなくなった封印者を見下ろしていた。


「なんだ? 迷宮主を倒した割には嬉しそうじゃないな?」



 ジェイドを見返す意味でも彼女はこの迷宮を攻略することに気合いを入れていた。


 迷宮主を倒してすぐに喜びの声を上げると思ったんだがな。


「私の力が思っていたよりも落ちていることにショックを受けているんだ」


「そうなのか?」


「全盛期であれば、こんな魔物は一撃で倒すことができていた!」


 エレンの昔の実力であれば、この程度の魔物は歯牙にもかけないレベルだったらしい。


 それなのに案外と苦戦したので昔との違いにショックを受けているようだ。


「まあ、三百年も封印されていたんだから仕方ないだろ」


「それはそうだが……」


 エレンは勇者によって封印されていた。


 その間に一切の食事や魔力を補給することもできず、じりじりと魔力を失っていく日々を過ごしていた。全盛期の力をすぐに取り戻すというのは無理だろう。


「まだ一週間しか経っていないしな。これから取り戻していけばいい」


「おお! 私がアキトと出会ってまだ一週間しか経っていないのか!」


「そうだぞ?」


「アキトと一緒にいる時間は楽しくて、もっと長い時間を過ごしていたものだと思っていた! なんだまだ一週間か! それならしょうがないな!」


 俺の言葉が慰めになったのかは知らないが、エレンは元気になってくれたようだ。


 やっぱりこいつはこうじゃないとな。


 普段、能天気な奴がしょんぼりとしていると色々と調子が狂う。


「素材を回収するか」


 肋骨の奥にある魔石と長杖の先端にある水晶を回収する。


 戦利品になりそうな法衣はエレンの灼熱によって燃えてボロボロになっていたので回収はせず、残っていた骨の体は何かの素材に使えるかもしれないので丸ごとマジックバッグに収納してやった。


「さて、あとは転移陣に乗って脱出するだけだな」


「うむ!」


 広間の奥には転移陣が展開されており、あとはそこに入るだけで脱出できる。


 エレンと共に転移陣に向かって歩いていくと、突然広間の中央で震動があった。


「なんだ!?」


 何事かと思いながらもエレンと即座に後退すると、震源地である広間の中央で石造りの台座のようなものがせり上がってきた。


 しばらく台座を睨みつけて警戒してみるが、それ以上の異変はない。


 警戒を解かずにゆっくりと台座へと近づくと、台座には封印札でぐるぐる巻きにされた剣のようなものが突き刺さっている。


「剣か?」


 迷宮主を倒した後に出現した剣であれば、迷宮から産出された装備品である可能性が高い。


【分析】をかけてみると【魔封剣】と表示されたが、封印されているせいかそれ以上の情報は出てこない。


「呪いの剣の類ではないみたいだな」


 呪剣などの類であれば、触れただけで装備した者は呪われることになるが、そういった邪なオーラや魔力は感じられなかった。


「なに抜いてみればわかる!」


 こちらに害を成すものではないとわかるとエレンが勇ましく台座の上に登って剣の柄に手を伸ばした。


「あ、あれ? ぐぬぬぬぬ! 抜けないぞ、これ!」


 剣を抜こうとしたエレンだが、台座に刺さっている剣はビクともしない。


 片手だけでなく両手や全体重を使って引っこ抜こうとするが、剣はビクともしなかった。


「代わってくれ」


「ああ」


 とんでもない膂力をしているエレンでも抜けないということは、封印札のせいで固定されているのだろう。だとしたら先に封印を解けばいい。


「【解錠】」


 エレンと交代して台座に上った俺はエクストラスキルを発動。


 パキイインッと甲高い音が響き、剣に巻き付いていた封印札が紙吹雪のように舞い上がった。


 封印札による固定がなくなったところで柄に手をかけると、あっさりと剣を台座から引っこ抜くことができた。


 シャランッと涼やかな音が鳴った。美しい銀の刀身が露わになり、中央には琥珀色と空色の彫刻が施されている。



【封魔剣】

 魔法を吸収することができる剣。

 魔法を吸収することで自身のMPを回復することが可能。



 改めて【分析】で詳細を見てみると、先ほどと違って細かい能力がわかる。


「……これは使えるな」


「どんな剣なんだ?」


「魔法を吸収し、MPを回復することのできるみたいだ」


「おお、それはすごいな!」


 俺のエクストラスキルは使用する度にMPを消費する。


 特に【能力施錠】などは特にMPを消費するので、封魔剣によるMP回復効果は戦闘においてとても助かる能力だった。


「特に俺は遠距離からの攻撃に弱いからな」


「そうなのか?」


 俺の【能力施錠】は相手のスキルを問答無用で使用不可能にすることができるが、施錠するためには効果範囲の二十メートル以内にいる必要がある上に、相手を視認しなければいけないという制約が

ある。


 つまり、二十メートル圏外から一方的に遠距離攻撃をされると【能力施錠】を使う間もなく攻撃に晒されることになる。


 この封魔剣はそういったシチュエーションによる不利を覆すことができる。


「エレン、試しに火の魔法を撃ってもらっていいか?」


「わかった」


 頼むと、エレンが手の平に火球を浮かべて、こちらに射出してきた。


 俺は封魔剣をかざすと火球は銀色の刀身へと吸いこまれ、火の粉一つ残さずに消え去った。


 それと同時に俺の体内に魔力が満ち溢れる。


「魔力が回復したみたいだな」


 ステータスを確認してみると、俺のMPが20ほど回復していた。実に有効的な剣だな。


「外に出るぞ」


「ああ、私はもうお腹ぺこぺこだ」


 迷宮主を倒し、戦利品も手に入ったことだ。


 これ以上、この迷宮に滞在しているメリットはない。


 俺とエレンは転移陣へと足を踏み入れると、封印の迷宮から脱出した。




 ●




「査定を頼む」


「かしこまりました」


 エルダニアの冒険者ギルドに戻った俺は、職員のいるカウンターに向かって封印の迷宮で手に入れた素材を取り出していく。


「よう、アキト! 随分とお早い戻りじゃねえか?」


 すると、後ろからジェイドが下卑た笑みを浮かべて声をかけてきた。


 顔が赤くなっておりすっかりと酒臭い様子から推察するに、今朝出立した俺たちを見送ってからずっとギルドの酒場にいたのだろう。どれだけ暇なんだ。呆れて言葉も出ない。


「そうだな。思ったよりも迷宮が手強ったから時間がかかった」


「ハハハ! そうだろ! 無能のお前なんかが封印の迷宮を攻略できるはずがねえ! 逃げ帰ってきて正解だぜ!」


 俺の言葉を別の意味として解釈したジェイドが満足そうに笑う。


「誰が逃げ帰ってきたなんて言った?」


「ああ?」


「私とアキトはちゃんと封印の迷宮を攻略して戻ってきたぞ!」


「はぁ? あの難関迷宮の一つだぞ? 登録したてのF級とC級が組んだところで攻略できるわけなんてねえだろ?」


 ジェイドの言葉がギルドのフロアに響き渡る。


 わざわざ便乗して声を上げる者はいないが、俺たちを見つめる胡乱げな視線がジェイドと同調しているように思えた。


「えっ? これって迷宮主の魔石ですか?」


 そんな微妙な空気が流れる中、職員の呟きが木霊した。


 職員が片眼鏡を必死に覗きながら査定しているのは封印者の魔石だ。


 通常の魔石とは一線を画す大きさ、内包された魔力、色合いなどを見れば、その魔物のおおよその等級がわかる。これだけの大きさと質となれば、迷宮主の魔石であることは一目瞭然だ。


「封印の迷宮にいた迷宮主の魔石だ」


「ええっ!? あの難関迷宮の!? すみません。ちょっと精査するためにギルドカードを拝借してもよろしいでしょうか?」


「ああ」


 職員に言われて、俺とエレンはギルドカードを差し出す。


 その討伐欄を見れば、そこには封印迷宮で倒した魔物たちの討伐記録をはじめ、迷宮主である封印者の討伐記録が記載されている。


「すごい! 迷宮主の魔石です!」


「そんなバカな!? ちゃんとよく見やがれ!」


「私は【分析】スキルを持っていますから目に狂いはありません! それにアキトさんとエレンさんのギルドカードの討伐欄には迷宮主の討伐がちゃんと記録されています!」


「な、なんだと……ッ!?」


 ジェイドが信じられないものを見たような表情で驚く。


【分析】スキルをすり抜けることはできなくもないが、ギルドカードの偽造は不可能だからな。


「マジかよ。あいつら本当に封印の迷宮を攻略したっていうのか?」


「難関迷宮の一つだぞ? スキルが封印される中、どうやって迷宮を攻略したんだよ?」


「しかも、四人パーティーじゃなくてたったの二人だぜ? 信じられねえ」


 ジェイドだけじゃなく、フロアにいた冒険者たちがざわつく。


 これまで何組ものA級冒険者が攻略に挑み、スキルやマジックバッグが封印されるという鬼畜環境に誰もが攻略に匙を投げていた。


 しかし、そんな難関迷宮をお荷物扱いされていたC級と登録したてのF級冒険者というたった二人で攻略できたのは実に痛快だ。


「どうだ! たった二人で封印の迷宮を攻略してやったぞ? アキトを無能と言ったことを撤回しろ!」


 ギルドを旅立つ前の出来事を根に持っているのか、エレンが今朝のジェイドの発言を撤回するように要求する。


「う、うるせえ! アキトが封印の迷宮を攻略できたなんて嘘に決まってる! 俺は認めねえからな!」


「あっ、こら! 逃げるな!」


 逃げ出したジェイドをエレンが追いかけて掴めようとするが、俺は彼女の腕を掴んで静止させる。


「エレン、もういい」


「それでいいのか?」


 怒りという感情を施錠していることもあるが、身近で自分よりも怒っている人がいると冷静になれるものだと思う。


「別にあんな奴に認められたところで何も嬉しくはないからな。それよりもお腹が空いた。今日は迷宮を攻略したことだ。夕食は外で美味しいものを食べようぜ」


「外で美味しいもの!? すぐに行こう、アキト!」


 夕食の話題を出すと、エレンは即座にジェイドのことを忘れてレストランに向かおうとする。


「待て待て。素材の査定が終わってからだ」


「おい、職員! 早くしろ! 私はお腹が空いているんだ!」


「待ってください。なにぶん、ギルドのデータベースに記載されていない魔物も多くて査定に時間がかかります!」


 ジェイドの件とは別の意味でエレンを止めることに苦労するのであった。







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