封印者
エレンと無事に合流することを果たした俺は迷宮の攻略を進める。
感知スキルで無駄な魔物との戦闘を回避しつつ、次の階層への最短距離を見つける。
魔物が立ちはだかってこようが俺とエレンには大した障害にならない。それは階層が下がって魔物のレベルが上昇しようが変わるものではなかった。
元々挑んでくる冒険者たちのスキルが封印され、扱えないという前提で配置されている魔物たちだ。それなのに他の迷宮と同じようにスキルを使用する冒険者がいれば、迷宮の難易度は大して高く
も感じないだろう。
そんな風に破竹の勢いで攻略を進めていくと、俺とエレンは三十階層にて黒扉を発見した。
「多分、迷宮主の扉だろう」
「もうか? もっと下の階層にあるかと思っていたが」
「迷宮も様々だからな」
迷宮主が存在している階層は様々だ。
百階層目に存在している迷宮もあれば、十階層、五階層などに存在している迷宮もある。
それらは迷宮が蓄えている力や規模によって変動するものだ。
傾向としては封印の迷宮のような環境に特化した難易度があるものは、迷宮自体の階層が少ない傾向にあり、そうでない迷宮では階層が多い傾向にある。
まあ、スキルとマジックバッグが封印された迷宮で百階層なんてあったら誰も攻略することはできないだろう。
「もうここの迷宮は飽きた。さくっと迷宮主を倒して、外で美味しいご飯を食べようではないか」
「そうだな。それじゃあ、開けるぞ?」
俺は【解錠】を発動させると、大きな黒扉が重々しい響きを立てながらゆっくりと動き出した。俺は腰から剣を引き抜くとエレンと共に中へ入る。
部屋の中ほどまで進むと、後方にある黒扉が勝手に閉じる。
俺のエクストラスキルがあれば【解錠】して逃げることができるだろうが、それでも心理的なプレッシャーになるのは変わらない。
迷宮主の部屋は広いドーム状になっていた。弧を描くように黒壁がせり上がっており、各所に配置されていた光石が怪しい光を放っていた。不気味な閉鎖空間だ。
迷宮主の部屋に入るのはジェイドたちに追放され、無理矢理蹴り飛ばされた時以来だ。
「大丈夫か? アキト?」
「大丈夫だ」
過去にいい思い出が無かったために額を冷や汗が流れるが、今の俺には信頼できる仲間がいるので問題はない。
「魔物はどこだ?」
部屋の中ほどまで進んできたがドーム内に魔物の存在はない。
エレンと共に周囲に視線を巡らせると、俺の【気配察知】が頭上で反応した。
「上だ!」
慌てて顔を上げると、天井には巨大な封印石板が設置されており発光していた。
封印石板は粘り気のある黒い雫を垂らすと、球体を突き破るように骨の腕が出てきた。
見た目は完全にスケルトンであるが全長が六メートルほどある上に顔には封印札を使用した眼帯のようなものが巻き付いている。
さらには豪奢な紫の法衣を纏っており、右腕には透明な水晶のついた金色の杖を手にしていた。
身に纏う魔力はとても濃密で黒牛人以上だ。明らかにただのスケルトンやリッチなどではない。
「【分析】」
封印者
LV68
HP:450
MP:725/725
攻撃:223
防御:220
魔力:547
賢さ:528
速さ:230
エクストラスキル:【大封印】【闇光線】
スキル:【闇魔法】【火魔法】【風魔法】【魔力増大(大)】【MP自動回復】【浮遊】【斬撃耐性(中)】【暗視】【追尾】【封印耐性(大)】【毒無効】【封印結界】【長杖術】【無詠唱】
慌ててステータスを覗き見ると、封印者と表示された。
平均的なステータスの数値が黒牛人以上だ。その上、かなり魔法に特化しているステータスであり、魔力、賢さ、MPなどの数値がスバ抜けていた。
幸いにして速さはそこまで高くはなく、防御の数値も低めになっているが、これだけの遠距離魔法を備えた相手に近づけるかどうかだ。
封印者は音もなく地上に着地すると、こちらに向けて長杖を向けてきた。
透明な水晶の先端から青白い文字が浮かび上がる。
描かれる文字は「大封印」
封印者のエクストラスキルだ。
封印の迷宮では元からスキルが封印されている。その上でさらに封印を付与するようなエクストラスキルを発動するということは、そのさらに上となるエクストラスキルを封じるものである可能性が
高い。
「【能力施錠】ッ!」
相手の意図を悟った俺は即座にエクストラスキルを発動して、封印者の【大封印】を施錠した。それにより封印者が発動しようとしていたエクストラスキルは停止。完成されようとしていた文字が儚
く霧散する。
「――ッ!?」
「くっ! かなり魔力を消費するな!?」
格上の相手ということもあって、封印者のエクストラスキルを施錠するだけでかなりの魔力を消費した。奴には【怪光線】ともう一つのエクストラスキルを保有しているが、そちらまで施錠する余裕
はなさそうだ。
しかし、封印者の最大の攻撃手段は封じることに成功した。
俺のエクストラスキルの【解錠&施錠】を封印されると、解錠されている俺とエレンのスキルはすべて封じられることになって詰んでいたに違いない。
封印者はもう一度長杖を振るって【大封印】を発動しようとするが、自身のエクストラスキルがウンともスンとも言わないことを確認すると、あっさりと諦めて人の頭ほどある闇色の炎を放ってき
た。
「広がるぞ!」
「ああ」
俺とエレンはすぐのその場を退避して射出された黒炎を躱した。
地面に衝突した黒炎は派手に炎をまき散らして爆風を巻き上げる。
小さな黒炎であるが、そこに込められている魔力は尋常ではない。
ただの属性魔法と思って甘く見ていると、あっという間に骸になることだろう。
今までの魔物はエクストラスキルを施錠すれば、大なり小なりの動揺を露わにしていたがコイツは切り替えが早いな。
俺とエレンは地面を駆け出して封印者へと挟撃を仕掛ける。
俺が剣で斬りかかり、エレンが直接殴りかかると、それを阻むようにして透明な魔力障壁が出現した。
「うわっ! なんだこれ!?」
「魔力障壁だ!」
エレンの拳と俺の剣が障壁とぶつかって弾かれる。
「【ファストブレード】」
「【炎竜ノ右腕】」
今度はスキルを発動しながら斬りかかると魔力障壁に蜘蛛の巣状の亀裂が入り、エレンの方は一発で障壁を砕くことができた。
「――ッ!?」
封印者がエレンの方に追加で魔力障壁を展開し、拳を防ぐ。
反対側では俺が障壁を叩き斬ると、封印者が慌ててその場から距離を取るように後退。
俺はすかさずに【縮地】を発動し、間合いを取ろうとした封印者へと肉薄する。
剣を上段から振り下ろすと、封印者は右手に持っている長杖を水平に振るうことで防いだ。
地面に着地すると、封印者が距離を詰めさせないように風の刃を放ってくるので大きく後退することで回避。
俺たちと封印者との距離が開き、間合いは振り出しへと戻った。
封印者の眼窩は封印札で覆われてしまっているが、俺たちを強く警戒している様子が伝わってきた。
「はは、俺たちがスキルを発動できるのがおかしいってか?」
この迷宮に入った以上は、冒険者はエクストラスキル以外のスキルを封印されることになる。こんな風に普通にスキルを扱える冒険者はこれまでいなかったのだろう。
封印者の驚きは、エクストラスキルを施錠してやった時よりも強かったので、少しだけスカッとした気分だった。
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