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アキトとジェイドの確執


「よお、アキト。最近は新しい仲間と共によろしくやってるみてえだな?」


 飛竜の討伐を終えた翌日。


 エレンと共に冒険者ギルドに顔を出すと、ジェイドに絡まれた。


 朝から気が滅入る奴と顔を合わせることになったものだ。


 事件を蒸し返さないだけじゃなく、今後一切の干渉もしないことも付け加えておくべきだったと思う。


「……アキト、こいつは誰だ?」


 そういえば、エレンと出会ったのは【黄金の牙】を追放された後だったので彼女がジェイドを知らないのも当然だな。


「前にパーティーを組んでいた奴だ」


「無能だったから追い出してやったけどな」


 俺が軽く説明すると、ジェイドが付け加えるように言った。


 嘲笑されてまったく表情を変えない俺の様子を見ると、ジェイドは面白くなさそうに鼻を鳴らす。


 今の俺は怒りの感情を【施錠】しているからな。この程度の煽りで心が動くことはない。


「アキトが無能? お前はバカなのか?」


「はっ、低級同士が傷の舐め合いか? って、よく見りゃ綺麗な女じゃねえか。お前、こっちにこいよ。アキトと一緒にいるよりもいい思いをさせてやるぜ?」


 無造作に手を伸ばそうとしたジェイドを阻止するように、俺はするりと身体を滑らせて阻止する。


 仲間の身体に触れられるのは不愉快だし、俺が間に挟まらないとエレンは確実にジェイドをぶっ飛ばしていたからな。


「そんなことより、追い出した無能に【金色の牙】のリーダー様が今更なんの用だ?」


「ちっ、お前が解放していたスキルツリーの構成を俺に教えろ」


 ジェイドの口から出てきた厚かましい要求に俺は呆然とする。


 迷宮の奥で殺そうとした相手に頼み事をするだなんてどのような面の皮の厚さがあればできるのだろう。不思議でならない。


「どうして今更そんなことを尋ねるんだ? お荷物の俺の代わりに優秀な付与術師とやらを入れたんだろう?」


「新しく入れた付与術師は使えない上にパーティーを抜けやがったんだ。そのせいでスキルツリー構成を組み直さねえといけねえ。だから、お前がやっていた振り分けを教えろ」


 ジェイドたちのことだ。俺がスキルツリーによる解錠することによって獲得した強化スキルと、付与魔法による強化の特質の違いもロクにわからないままに文句をつけたのだろう。


 一般の魔法による強化はどれも一時的なものでしかないと、あれほど口を酸っぱくして言っていたのに。


 俺の代わりにジェイドたちのパーティーに入った付与術師は大変苦労したことだろう。


 パーティーを抜けてしまったのも無理はない。


「さっさと教えろ」


 どこか同情的な視線を向けられていることに気付いたのだろう。ジェイドが苛立ちを露わにしつつも要求してくる。


「悪いが教えてやる義理はない。帰ってくれ」


「あぁ? アキトの癖に俺にたてつくつもりか?」


「……いいのか? 迷宮の奥でならともかく、ここには大勢の人目があるぞ?」


 先日の迷宮での殺人未遂の嫌疑があってか、俺とジェイドの様子を周りにいる冒険者たちは好奇の視線で見ている。


 ギルド内での私闘は罰則の対象である。


 フロアの奥ではギルド職員がこちらを注視しており、ギルドマスターであるマグルも目を光らせていた。


 ここで殴りかかってくれば、罰則を受けるのは紛れもなくジェイドになる。


 ここで俺を殴るようなことがあれば、証拠が不十分となった殺人未遂にも疑義が生じることになるだろう。それはジェイドとしても困るはずだ。


 ジェイドは舌打ちをすると、手を出すようなことはせずにあっさりと離れた。


 凄んでくるジェイドであるが、黒牛人や炎竜を間近で見たことがあるので全く怖くない。


 というより、スキルツリーの強化を失ったジェイドは大幅にステータスがダウンしており、彼よりレベルが低い俺から見ても大した脅威であるとは思えなかった。


「なんなのだ? あいつは?」


「そのことについては後で詳しく話す」


「わかった」


 先日の事件を蒸し返すことはしないって約束だからな。


 ここでエレンに説明をするのは適切ではない。


 後で説明することを約束すると、俺たちは気持ちを切り替える。


「さて、仕事の話だ。今日は依頼を受けずに迷宮を攻略しようと思っている」


「ほう、迷宮か! どこの迷宮に行くのだ?」


「【封印の迷宮】だ」


 ターゲットとする迷宮の名前を告げると、後ろからジェイドの笑い声が響いた。


「おいおい、さすがに調子がいいからって調子に乗り過ぎだろ」


 ……こいつ、まだいたのか。


「なぜそう決めつける?」


 俺は無視を決め込もうとするが、素直な性格のエレンが相手をしてしまう。


「封印の迷宮といえば、この国にある難関迷宮の一つだぜ?」


「そうなのか?」


「なにせいくつものA級パーティーが挑んだが誰も攻略することができなかったんだ。雑魚のアキトが攻略できるわけがねえ」


「ほう! では、私たちが攻略をすれば、アキトは無能ではないという証明になるな!」


「まあ、そんなことはありえねえだろうがな」


 ポジティブな返答をするジェイドも思わず毒気を抜かれてしまっている様子だ。


「では、それを証明してやるために行こうではないか!」


「そんな証明がなくても最初から行くつもりだけどな」


 掲示板で封印の迷宮に関する環境を確認する。


 迷宮内や周辺の環境に異変はないことを確認すると、俺はエレンを伴ってギルドを出るのだった。




 ●




「アキト、さっきの男はなんだったのだ?」


 エルダニアを南下して山道を進み続けていると、エレンが尋ねてきた。


 どうやらギルドで絡まれたジェイドのことを気にしているらしい。


 説明するのも面倒なのだが約束してしまったので俺はジェイドに追放され、殺されかけたことを大雑把に説明する。


「よし、今から私が空を飛んであの男を消し炭にしてこよう!」


「そういうのはいいから」


 こうなることがわかっていたからあんまり説明したくなかったんだ。


「いや、よくない! 仲間であるアキトを殺そうとしておいて、あのような無礼な物言いをするなど許せん!」


 剣呑な瞳を浮かべたエレンが背中から竜の翼を広げて、本当に飛び立とうとする。


「いいって言ってるだろ。瞼を【施錠】」


「ぎゃあああああああ! 目がああああっ!? 急に視界が真っ暗になったのだ!? なんだこれは!?」


 エレンの瞼を【施錠】してやると、彼女は悲鳴を上げた。


 視界が闇に覆われてしまったエレンは翼を閉じて、その場を右往左往する。


「うう、暗いのは嫌だ。アキト……」


「とりあえず、説明が終わるまではそのままな」


 未だに宿で同室をねだってくるのと同じで、封印されていた影響で暗闇にはまだトラウマがあるらしい。


 とりあえず、エレンが大人しく話を聞いてくれるチャンスなので、俺は瞼を【解錠】することなく事件の後のことを説明する。


「この件は既に決着をつけて蒸し返さないって約束をしているんだ。ジェイドを殴り飛ばしたりしたらこっちが悪者になる」


「しかし、アキトはそれでいいのか?」


「だから、冒険者としてあいつらよりも立派な功績を上げる。そう啖呵を切ったのはエレンだろう?」


「そうだったな! 【封印の迷宮】を攻略して、アキトのことをバカにしたあの男に目にものを見せてやろう!」


「迷宮はこの先だ。いくぞ、エレン」


「そうしたいのはやまやまだがアキトのせいで前が見えないんだが――いたっ!?」


 意気揚々と前を進んでいくと、瞼を【施錠】されているエレンが石ころにつまづいて転んだ。






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