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付与術師の離脱


「はっ、はっ、はっ……おい、猿共はどうなった?」


「大丈夫よ。もう追ってきてないみたい」


「……そうか」


 エルダニアの森にてジェイドとジュリアは後ろを確認しながら呟いた。


 彼らの後ろには大きく息を切らしたハロルドと、ぐったりとした様子で座り込んでいる冒険者がいた。


 彼はアキトの代わりにパーティーに加入させた付与術師だ。


 ステータスを強化できる上に、前衛で戦うことができ、中衛として魔法攻撃を行える付与術師はスキルツリーを解放することしかできず、戦うことのできないアキトよりも上位互換になる。


 そう考えて、付与術師をパーティーに招き、獣の迷宮に向かう前に慣らしとしてB級のビッグエイプの討伐を受けていたのである。


 しかし、結果は見てわかる通りの敗走だった。


 ジェイドは周囲に魔物がいないことを確認すると、座り込んでいた付与術師の胸倉をつかんだ。


「おい、てめえ! 付与術師だろ! もうちょっとマシな支援ができねえのか!?」


「そうよ! 付与術師はあたしたちを強化するのが役目でしょ!? それなのにあんたロクな付与もしてくれないじゃない!」


「俺はちゃんと付与をかけていた! 【攻撃強化】【防御強化】【魔力上昇】と一人につき三種類の付与をかけ、それぞれの役割に合わせて支援を変えていただろ!」


 胸倉をつかまれた付与術師はジェイドの手をはねのけながら毅然と主張した。


 しかし、ジェイドの怒りは収まることはない。


「たったの三種類じゃねえか! 付与術師なら俺たちの全ステータスくらいは引き上げてみろ!」


「そうよ! それにステータス強化も弱いし、時間が経過する度にかけ直しをしてるじゃない!」


 ジェイドとジュリアの指摘を聞いて、付与術師は心の底から困惑する。


「……なにを言ってるんだ? いくら付与術師でもすべてのステータスを三人も同時に強化し続けられるわけないだろ!? 一人ならまだしも、三人同時には不可能だ。そんなことをすれば、すぐに魔

力が枯渇してロクに戦闘もできない!」


「あのアキトですらすべてのステータスを強化できたんだぞ!?」


「すべてのステータスを永続的に強化だと? そんなことはあり得ない。どんなに優秀な付与術師であっても永続的に強化を続けることは不可能だ」


 スキルツリーを解錠し、強化系スキルをいくつも獲得させているアキトと、魔法付与による一時的な能力の上昇では、ステータスの上昇幅に歴然とした差があるのは当然であった。


 しかし、アキトの注意に耳を傾けていなかったジェイドたちは、その強化率の違いなども知らないし、スキルツリーに干渉できることがどれだけ異常な力なのかを理解できていなかった。


「期待のB級付与術師って聞いていたけど、こんなものなの?」


 冷静に説明をしていた付与術師であるが、自身の不甲斐なさを棚に上げての言動に憤慨する。


「さっきから好き放題言いやがって! 文句を言いたいのはこちらの方だ! ビッグエイプを相手に苦戦しやがって。お前たち本当にA級パーティーなのか?」


「黙れ! お前の支援が温いからこうなってるんだろうが!」


「そうよ! お荷物のアキトでさえできていたんだから、代わりに入ったあなたがそれくらいこなしてくれなきゃ困るんだけど?」


 付与術師は反論しようとしたが諦めた。


 この二人には何を言っても通じないとわかったからである。


 こいつらは一般の冒険者が知っているステータスの強化について何も知らないのだろう。


 そんな奴らに懇切丁寧に常識を説明してやる気力はなかった。


「……話にならない。僕はこのパーティーを抜けさせてもらう」


「おい、逃げんのか!」 


 ジェイドたちに見切りをつけた付与術師は早々にパーティーを離脱することを決めた。


 ジェイドの静止の声に取り合うこともなく、付与術師は外套を翻して一人で歩き去ってしまう。


「とんだ外れ付与術師だぜ」


「別に新しい仲間なんていらないんじゃない? スキルツリーを見直すのは面倒だけど、あたしたちだけで何とかしようよ」


「それもそうだな」


 ジェイドとジュリアが今後の方針を固めたところで息を整えたハロルドが寄ってくる。


「……ところで、パーティーメンバーが一人いなくなってしまったが、ビッグエイプの討伐はどうするんだ?」


「「…………」」


 パーティーが四人いても苦戦したビッグエイプを相手に三人で挑んでも勝てるはずがなく、ジェイドたちはまたしても撤退するのであった。




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