飛竜の討伐依頼
エルダニアから北へ伸びている街道。
ここにはエルダニアで物資を補充した旅人や、品物を買い込んだ商人たちが多く通る道なのだが、最近はどこかの山から流れてきたのか飛竜が襲ってくるようになったらしい。いくつもの商隊が品物の被害に遭い、冒険者ギルドに討伐依頼が持ち込まれたわけだ。
「長閑な道だな」
「まあ、人が移動するための街道だからな」
街道とは人が行き来しやすいために整備された道のことだ。
安全に通行ができるように騎士団や冒険者が何世代にもかけて周囲の魔物を討伐し、ここが人間の勢力範囲だと周知させているのだ。
エルダニアから離れて小一時間も経過していない内に魔物と遭遇していては意味がない。
「ここを進んだ先に飛竜がいるのか?」
「そうらしいが襲ってこなかった場合は、こちらから巣を特定して討伐に向かう必要があるだろうな」
ギルドの情報によると、ここ最近は商隊でなくても旅人や冒険者も等しく襲われているようであるが、飛竜が獲物を選別しないとは限らない。
巣で寝ている可能性もあるし、たった二人しかいない俺たちをスルーする可能性もあるからな。
「それは面倒だ。できれば、飛竜には私たちを襲ってきてほしいものだ」
以前の俺なら飛竜に襲われるなんて恐怖でしかなかったが、今となって討伐することも難しくなくなったと思うのでエレンの意見に同意だな。
「んん? 花が動いた?」
そうやって雑談をしながら歩いていると、エレンが草むらで咲いている花を見つめながら言った。
そちらに視線を向けた瞬間、花びらの根元から急に蔓が伸びてきた。
「うわっ! なんか伸びてきた!」
「魔物だな」
エレンと俺は後退することで振るわれた蔓を回避。
着地して視線をやると、真っ赤な花弁を広げた生き物が次々と地面から生えてくる。
花弁に繋がっている蔓が脚のようになって地面を踏みしめ、さらに両腕を生やすように蔓を伸ばした。
大量に湧き出した魔物から距離を取りつつも俺は【分析】によってステータスを読みとる。
ラフレシア
LV20
HP:78
MP:35/35
攻撃:66
防御:38
魔力:20
賢さ:25
速さ:32
スキル:【神経毒】
「うじゃうじゃといるなー」
次々と生えてくるラフレシアを見て、エレンが呻き声を上げた。
単純に数が多い。ざっと見ただけで二十以上の数がいる。
エルダニアからかなり離れたことによって、魔物の群生地帯に入ったようだ。
幸いにして動きは遅いが、蔓による攻撃範囲は広い上に非常に不規則なので何かの間違いで攻撃を貰ってしまうと毒を流し込まれる可能性はある。
ここは接近せずに遠距離から仕留めるのがいいだろう。
「よし、エレンから貰ったスキルを試してみるか」
今日のそのために討伐依頼を受けたからな。飛竜を相手に試すよりもこっちの方が安全だ。
「【灼熱吐息】」
スキルを発動させると俺の魔力を消費し、身体の内側で膨大な熱とエネルギーが発生し始める。
それを口から放出すると灼熱の炎となった。
灼熱に呑み込まれたラフレシアたちは一体も残すことなく消し炭となっており、魔石だけが周囲に散らばっていた。
「……とんでもない威力だな」
「さすがは私のスキルだが、アキトのまだまだだな!」
その威力に唖然としていたが、傍にいるエレンは不服そうにしていた。
炎竜ではないことを加味しても、俺の【灼熱吐息】はまだまだ威力が不十分らしい。
「具体的にどうすればいい?」
「もっと身体の内側で魔力をぐわーっとして、こうガーッとしてだな!」
「……いや、それじゃわからん」
「どうしてわからないんだ!?」
どうやらエレンは感覚型タイプのようで理論的に説明するのは苦手なようだ。
三百年も封印されていた弊害がこんなところに現れている。
「ちょっと待て。また魔物だ」
「この私が説明している途中だというのに!」
エレンから擬音の多い説明を聞いていると、上空から何かが近づいてきた。
痩身の大きな蜥蜴の身体に竜鱗を纏い、長い腕からは蝙蝠のような翼が伸びている。
尻尾には硬質な髭が生えており、先端には紫色の棘が生えていた。
飛竜
LV30
HP:188
MP:111/111
攻撃:125
防御:110
魔力:75
賢さ:67
速さ:99
スキル:【火炎】【滑空】【咆哮】【火耐性(小)】
「飛竜だ!」
分析でステータスを読み取るまでもなくわかる。
空を舞い上がるあの特徴的にシルエットは俺たちの討伐目標である飛竜だ。
飛竜は大きな翼をはためかせると舞い上がるとピタリと宙で停止させ、口を開けて炎を収束させる。
「アキト! 私がスキルの手本を見せてやろう!」
ヘルハウンドの時と同じように口を施錠して暴発させようとしたが、エレンが威勢よく声を上げて前に出るので中止する。
口で説明してもらってわからないので実際に見せてもらう方がいいだろう。
エレンは背中から小さな竜の翼を生やすと、口を開けて魔力の籠った炎を収束させていく。
俺からすればもう十分な魔力と熱量であるが、エレンはそれでも解き放つことなく身体の内側にある魔力を圧縮し続けている。
エレンの口元に集まっている熱量はかなりのものになっているが、それよりも先に飛竜のから火炎が吐き出された。
それでもエレンはスキルを発動させない。
火炎が迫りくる中でも動じることなくギリギリまで炎を収束させ続けて、臨界寸前となったところで灼熱を解き放った。
エレンと俺の身体を焼き尽くそうと襲いかかってきた火炎をエレンの灼熱が一瞬にして押し返す、その先にいる飛竜へと襲いかかった。
「ギャアアアアアアアアアアアア!?」
灼熱に呑み込まれた飛竜が悲鳴を上げる。
炎に体を呑まれているが、まだ動き回る元気はあるらしい。
「むむむ、飛竜ごときを消し炭にすることができないとは……」
一発で仕留めることができないことにエレンは不満げだが、俺としては正しいスキルの使い方を間近で観察できることができたので大満足だ。
「なるほど。もっと身体の内側で魔力を圧縮し、暴発する限界のところで放出する方が威力が上がって派手になるのか」
「最初からそう言ってるではないか」
あんな擬音だらけの説明を聞いても、そんな風に受け取ることは到底できない。
エレンは完全に感覚型だな。
「ギョアアアアアアアッ!」
全身に火傷を負った飛竜が血走った目でこちらに睨みつけてくる。
エレンの一撃で完全に頭にきてしまったらしい。
飛竜は翼を大きく広げると、猛スピードでこちらに向かって滑空してくる。
以前ならば飛竜と遭遇しようものなら逃げることしかできなかっただろうが今となっては違う。自身のために解錠をすることに決めた今なら、真正面から渡り合うことができる。
「【炎竜ノ右腕】」
エレンから授かったスキルツリーを解錠することで獲得したもう一つのスキルを発動。
俺の腕が派手な炎に包まれ、炎が弾けると右腕が肥大化し、炎竜の腕へと変化した。
右腕に熱を感じるが不思議と心地良かった。
飛竜は大きな口を開けて接近してくる。
真っ赤な口蓋が蠢き、鋸のような細かい歯が並んでいるのが肉眼でよく見えた。
太い蛇のような舌が目の前で蠢き、唾液がこちらに飛んできそうだ。
「その汚い口を閉じてろ」
「――ッ!?」
口を【施錠】されたことによって、こちらを丸呑みにしようとした飛竜の口が閉じた。
結果として飛竜は丸腰のまま体当たりしてくる結果となり、俺は混乱して無防備になっている相手の頬を捉えた。
スキルによって強化された俺の右腕により、飛竜の体が派手に吹き飛ぶ。
細かい歯をまき散らして吹き飛んだ飛竜は砂煙を上げながら何十メートルも転がっていき、ピクリとも動くことはなかった。
最初の火炎の時に施錠しなかったお陰で飛竜は無警戒にこちらに飛び込んでくれたな。
結果として使わなくて正解だな。
「こっちのスキルの方はどうだ?」
こちらのスキルの感触を確かめるために振り返りながら言うと、エレンは腕を組みながら言った。
「まだまだだな! もっと魔力をバーッとやって、こう炎をブワーッとやってだな!」
……やっぱりこいつ人に何かを教えるのは向いてないな。
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