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性欲を施錠


 翌朝。宿のベッドで目を覚ますと、妙に身体が温かいことに気付いた。


「んん?」


 むくりと上体を起こすと、エレンが裸で俺に抱き着いているではないか。


 胸がむにゅりと形を変えており、柔らかな感触が腕の辺りに伝わってくる。


「おい、起きろ」


「ん、んん?」


 慌ててベッドから飛び起きると、俺の声に反応してエレンが目を覚ます。


「おはよう、アキト」


「なんでエレンが俺のベッドにいるんだ?」


 元々この部屋は一人用だ。


 急遽エレンが泊まることになったのが生憎と宿が満室だったために無理矢理ベッドを詰めて二人部屋にしたというわけである。


 エレンが俺と同室であることを気にしなかったし、俺も大して気にしないタイプだったので同じ部屋で寝ていた。


 しかし、ベッドは別々だったはずだ。間違えても同衾などしていない。


「最初はそうだったが、その……暗いところにいると不安になってしまってだな……」


「また封印されるんじゃないかって思ったのか?」


 エレンがこくりと頷く。


 まあ、あの暗闇の洞窟に三百年も封じられていれば仕方がないのかもしれない。


「俺だったからいいものの他の男には絶対するなよ? 襲われても文句は言えないぞ?」


「襲う……というのは性的な意味合いのやつか?」


「そうだ」


「ふむ、アキトであれば交わるのも構わんぞ?」


「……お前、なにいってんだ?」


「アキトには封印から解放してもらった恩があるからな。私と交わることがアキトの喜びになるのであれば今からでもいいぞ」


 エレンがベッドから起き上がって、一糸まとわぬ姿でやってくる。


 その真剣な表情を見ると、ふざけているわけではなく本心で言っているのがわかった。


 俺も男だ。中身は炎竜だとしても、見た目が美少女の裸を見て何も感じないわけがない。


 身体の内側からむらむらとした気持ちが湧き上がってくる。


 しかし、エレンはパーティーを組む仲間だ。


 仲間に劣情なんて抱きたくないし、いきなりそういった関係にはなりたくはない。


「【施錠】」


 俺はエクストラスキルを自身に発動し、自身にある【性欲】を施錠した。


 むらむらとした気持ちはすぐに収まり、ドキドキと早鐘を打っていた心臓が落ち着いた。


「別にそういうのは求めていない」


「あれ? 急にアキトがスンとなった!?」


 優しく押しのけて身支度の準備をすると、エレンが目を丸くして驚きの声を上げた。


「私の身体に魅力がないのか?」


 エレンが自身の豊かな胸をむにむにと触りながら不満そうな声を漏らす。


「性欲を【施錠】したからな。今の俺はそういうことに一切興味がないだけだ」


「なっ! そんなこともできるのか!?」


 そうでもしないとエレンの魅力を前に一戦を越えてしまっていたかもしれないからな。


 パーティーを結成して次の日に身体の関係になるなんて、どんな地雷冒険者だよ。


「早くしないと朝食の時間が終わるぞ」


「待ってくれ! 私も行く!」


 やや不満げにしていたエレンであるが、朝食の時間に制限があることを知ると慌てて鱗を変質させて衣服を纏った。


 一階へやってくるとロビーに併設された食堂へと移動する。


 既に宿泊客たちのほとんどが席についており、それぞれが朝食を食べていた。


 厨房カウンターに行って木札を渡すと、朝食セットが渡されてトレーを持って席につく。


「アキト、朝食はこれだけなのか!?」


 トレーの上にはミルクシチュー、焼きたてのパン、サラダ、木の実などが入ったお皿がある。


「これでも多い方だぞ?」


 宿泊費用の中に含まれる朝食としてはとても豪華な方だ。ぼろっちい宿にはそもそも朝食なんてついてこないし、他の食堂では具のほとんどないスープと硬パンだけというのも珍しくはない。


「でも、私は足りない!」


「しょうがないな。これを持って食べたいものを追加してこい」


「わーい!」


 銀貨を一枚渡すと、エレンは嬉しそうに厨房カウンターへと向かって料理を注文した。


 朝食を食べていると、程なくしてエレンの元に追加した料理が並ぶ。


「おー! どれも美味しそうだ!」


「……お前、朝からこんなにも食うのか?」


「うむ! たくさん食べないと力が出ないからな!」


 宿泊費込みの朝食を速攻で平らげたエレンは、追加された肉料理に手をつける。


 この宿には冒険者も多く泊まっているが、朝からこんなに多く食べるものはいない。


 あまりのボリュームに見ているだけで胸やけしそうだった。




 ●




 朝食を食べ終わると、俺たちは冒険者ギルドにやってきた。


「アキト、今日はどうするのだ?」


「エレンから力を貰ったことだしな。ちょっと討伐依頼でも受けようと思う」


「おお! ということは魔物の討伐だな!」


 エレンから授けられた炎竜の加護によって、俺のステータスはさらに引き上がり、新たなスキルツリーが発現することになった。


 今後の冒険が使えるかどうかを見極めるために手頃な魔物を討伐して確認したい。


 あと単純に依頼を受けていないとエレンのせいでお金がドンドンと減っていくからな。


 黒牛人の素材を売ったお陰で懐には比較的余裕があるが、支出だけが増えていくのは精神衛生的によろしくもない。


 そんなわけで俺たちはギルドの掲示板へと移動し、そこに張り出されている依頼書を眺める。


 ここには討伐、採取、護衛、雑用といった様々な形の依頼があり、それらの依頼は毎日のように持ち込まれる。冒険者はそれらの依頼をギルドで受注し、達成することで報酬を貰うことができる仕組みだ。


 今回は魔物の討伐をしたいので討伐依頼を中心に依頼を見ていく。


「アキト! これなんてどうだ? ギガントタートルの討伐!」


「昨日寝る前に説明しただろう? 自分たちのランクより上のものは受けることができない」


 冒険者のランクはS、A、B、C、D、E、Fと七段階へと分けられている。


 俺はその中でも最上位に近いA級のパーティーに所属していたのだが、戦闘能力はかなり低かったので個人としてのランクはC級になっている。エレンも昨日登録したばかりなのでF級だ。ギガント

タートルはA級の討伐依頼なので俺たちでは受けることはできない。


「でも、私ならやっつけることができるぞ?」


 確かに俺のレベルも上がっている上にエレンの強さは未知数だ。


 たった二人でもギガントタートルを倒すことはできるかもしれない。


「それでもダメなものはダメだ」


「えー、つまらんぞ!」


 そもそも依頼を受けることをギルドが許してくれないし、仮に黙って討伐をしたところでギルドから罰則を食らうのは目に見えているからな。


「では、どのランクの依頼なら受けられるんだ?」


「C級だな」


「では、C級の中で一番強そうな魔物を討伐しよう!」


「それなら北街道に出没した飛竜の討伐なんてどうだ?」


「おお、あの空飛ぶ蜥蜴か! いいぞ!」


 飛竜は空を飛ぶことができ、尻尾から生えている棘には毒がある。


 中級冒険者の壁とも言われる手強い魔物だが、炎竜であるエレンからすれば蜥蜴扱いのようだ。実に頼もしい。


「よし、それじゃあ飛竜の討伐依頼を受けるか」


「うむ!」


 依頼書を引き剥がし、職員のいるカウンターへと持っていく。


「飛竜の討伐依頼ですか……」


「ダメか?」


「以前のアキトさんであればお引止めしましたが、黒牛人をソロで討伐した実績がありますしね」


 黒牛人を単独で討伐したことがギルド側として大きな評価点になっているらしい。


 あの時に死ぬ気で頑張ってよかったと思う。


「ただ、登録したばかりのエレンさんと一緒に向かわれるというのが不安ですが……」


「私は炎竜だ――むがぁっ!?」


 視線を向けられてエレンが反論しようと口を開けたので、俺は余計なことを言わせないようにエクストラスキルで口を施錠した。


「エレンは登録して日は浅いが実力者だ。それに危険があればすぐに撤退する」


「でしたら、こちらからお引止めすることはありません」


 職員はエレンのことをやや心配していたが、俺が注意して進めることを告げると受注処理を進めてくれた。


「飛竜の討伐手続きが完了いたしました。気を付けていってらっしゃいませ」


「ああ」


 手続きを終えると受注書の写しを貰うと、俺はエレンを連れて冒険者ギルドを出る。


「行くぞ、エレン」


「――ッ!」


 もたもたとしているエレンに声をかけると、彼女は開かなくなってしまった口を押えて何かを訴えかけてくる。


「ああ、悪い。口を閉じさせたままだったな」


「ぷはぁ! 口を施錠するなんて酷いぞ!」


 解錠してやると、エレンの口を確かめるように開けたり閉じたりして安堵の息を漏らした。


 強制的に静かにすることができるのでとても便利だったな。


 これからもエレンが変なことを言い出しそうになったら口を施錠してやることにしよう。







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