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3つの選択肢

 ……夜が更けた。あの後も、3人は疲れるまで騒ぎ果て……今は仲良く並んでぐっすり眠っている。


「起きてるときも、あんくらい可愛かったらなぁ……」


 あんだけ寝顔かわいいし……見た目だけなら、間違いなく前の世界でも見ないくらいの美少女なんだよな、あいつら……まぁ起きたら俺を片手間に捻り潰せる化物しかいないんだが。


 俺は3人がベッドで静かに寝静まったのを確認して……すると今度は自分の寝る場所がなくなったのに気がついた。寝床は俺とロリ2人ならギリギリ寝られたくらいなんだが、ロリ3人に俺は幅が足りなかったようだ。


 アイリが来てから部屋を追加するのを忘れてたせいで寝る場所を失った俺は、部屋に居て起こすのも悪いと感じ……宿屋の外で、星を見て黄昏ることにした。アイリが言うには『教会が仕掛けているのは街の外』らしいし、サラの魔術で認識結界……サラが言うには少し違うらしいが、まぁよく分からんもんで宿の周りごと見つからんらしい。それに、もしモドキが宿に近づいたら……何かと俺の匂いを嗅いでくるほどの匂いフェチであるラージュが、即座に気がついて倒してくれるだろう。あいつ、たとえ寝ていても100mくらいなら余裕で嗅ぎ分けるからな。特に教会の匂いには敏感らしいし……まぁそのお陰か、今日のラージュは俺に一定以上近づこうとしなかったからこそ、俺はこうして今外に出れているのだが。




 まぁ、なんやかんや俺は3人に助けられて……こうして生きたまま、ここにいるのだろう。認めるのはだいーぶ癪だが……3人に遭わなければ、どこかの魔物に負けて野垂れ死にしていた可能性もあっただろう。そういう意味では、少しだけ……コンマ0.1mm以下の感謝はしている。そのせいで今は≪厄災≫よりヤバそうなのに追われて、逆に手放せなくなっているんだが……





 将来的には一人にしてほしいが……今すぐ離れられては困る。そんな3人だ。









「……師匠」

「……サラか、どうした?」



 俺が過去を嘆いたり、将来を憂いたりしていると……全ての発端である、(形だけは)俺の一番弟子が宿から出てきた。



「……結界はある。けど、外は危険」

「サラの結界だろ? 信用している」

「……!」



 ……まぁ、ほんとはラージュとアイリも居るからこその油断なんだが……なろう主人公でもあるまいし、そんな迂闊なことは言わない。



 サラに見つかったし、そろそろ部屋に帰ろうかね……そんなことをボーっと考えていると……突然、サラが俺の胸のあたりに抱きついてきた。



「サラ? ……らしくないな、何かあったのか?」

「……師匠に……黙っていたことがある」

「……そうか」



 冷や汗が1つ、俺の頬を伝って滑り落ちた。



 ……あれか? ついに来ちゃったか? 『実は師匠がクソザコなの気づいてた。さようなら』パターンか? え、ヤバい、サラに今抜けられると……街から出るのがかなり厳しくなるんだが……




 ……ちょっと考え直してくれないかな? 




「遂に気づいたか、しかし……」

「……師匠は、本当になんでもお見通し。アイリはわたしに嘘の情報を吹き込んで、師匠とわたしを引き離そうとしているだけ」




 ……アレ? サラさんなんか普段よりも饒舌だし、なんなら俺の実力……き、気づいてない?? 



「わたし……情報収集の時、こっそり師匠の情報も集めていた」

「……」



 ……やっぱりバレてる?? え??? マジでどっちなん???? 



「師匠は……≪厄災≫に2回遭ったって知った。一人だけで生き延びて……そのせいで『幸運者』と呼ばれていることも」

「……そうか」



 ……幸運だけで生き残ったのバレてますかね? じゃあなんで抱きついてんのって話なんだけど……









 ──俺は、次の瞬間……ハンマーで撃たれたような衝撃を受けた。



「師匠は、『幸運者』なんかじゃない。わたしに生きる意味を見出してくれた、命の恩人。だからわたしは……≪厄災≫を倒したい」

「……」





 ……っやべ。やべぇ、泣きそうなんだが。え? ……この娘、俺が≪厄災≫から一人だけ逃げたことを知って……弟子の自分が倒すことで、サラの師匠……つまり俺は偶然逃げられた『幸運者』なんかじゃないって証明しようとしているってこと?? 






「それは……初めて知ったな」

「……ずっと言ってない。途中で……師匠の目的は、勇者と聖女だって気づいたから」



 ……いやそれは違うが。まぁ……なんだ……利用目的で拾ったのに、俺にこんなに慕ってくれる少女に……俺の汚名を晴らそうとしてくれている弟子に……



「……師匠、泣いてる?」

「……ばっかやろう。これが泣けないなら人間じゃねーよ」

「……師匠のそんなに崩れた言葉、初めて聞いた」

「幻滅したか?」

「ううん……嬉しい。また、新しいことを知った」

「そういや、サラは知るのが大好きだったな……」

「うん、好き…………師匠も、もっと好き」



 自然と俺の手が、サラの頭に伸びて……俺はサラを、娘のように優しく撫でていた。



「サラ……俺はこの通り、実はできた人間じゃなくてな。まぁ……その、俺が言えたことじゃないが……お前は最高の弟子だよ、サラ」

「……うんっ。わたしは師匠の一番弟子だから、当然」



 そのまましばらくサラを撫でていたんだが……ふとサラを見ると、言い足りなそうな表情をしていることに気づく。どうやら、俺が撫で終わるのを待っているようだった。現金なやつめ……誰に似たんだか。



「それで……他にも話したいことがあるのか」

「……流石師匠、なんでも分かる」

「ばか。一番弟子の考えてることが分からずに、師匠が務まるかっての」


 そう言うと、サラは安心したように笑って……そして、意を決したように話し出した。


「……先代『賢者』、彼を探したい」

「……先代?」

「私の父親」

「……それは初耳だな」



 以前、一度だけサラに父親について何となく聞いたことはあったが……それは『興味ない』と一言で終わっていたはずだ。


 ……ここで持ち出してくるということは、まぁ≪厄災≫関連だろうな。



「……私は『賢者』」

「……そうだな」

「『賢者』は『真理の探究者』だと母に言われた」

「……」

「父親は『賢者』だったって」

「……過去形か」

「うん、母と一緒になるときに捨てたらしいけど……また、世界を知りたくなって旅してる……らしい」

「……」

「わたしは、≪厄災≫を見たことも知識もあまりないけど、父親……先代『賢者』なら何か知っているはず。≪厄災≫がなぜいるのか。どこで生まれるのか……どこに居るのかも」

「……」

「私には『隷属の紋章』がある」

「やっぱりか……」

「……驚いてない。さすが師匠」

「あってもおかしく無い、と思っていただけだ」


 実際、ラージュはあのモドキに『隷属の紋章』を刻まれてから急激な成長を遂げた。最初から強そうだったサラに、紋章が刻まれているというのは、俺も予想はしていた。ラージュも効力を失ったらただの模様になったし、実害はなさそうだから放置していたが。


「どこにあったんだ?」

「え、えっとおし……臀部」

「……すまん」


 ……聞かなきゃよかった。まぁ、それならラージュが加わるまで知らなかったのも無理はないか。きっと、仲良く水浴びでもしている最中に見つけたんだろう……っと今は妄想している場合ではない。


「続けてくれ」

「……わたしの予想は、『隷属の紋章』を刻んだのは父親」

「まぁ、妥当だな」

「≪厄災≫に加えて、なぜ父親は紋章をわたしに刻んだのか……紋章の意味を訊きたい」

「……」

「もちろん、≪厄災≫を倒すのが第1目標。師匠が『幸運者』じゃないって認めさせるのが私のやりたいこと。でも……それだけじゃ、きっと足りない。師匠に追いつくことも……『勇者』や『聖女』にも勝てない。私は『賢者』だから……知識を……真理を追求しなきゃいけない」

「……」

「その……もしも≪厄災≫を倒したあとは、私も『賢者』を捨て……な、なんでもない」

「……そうか。わかった」



 ……続きを促すってのは野暮だろうなぁ。あと死亡フラグになるし。





「サラの願い……あぁ、全部理解した」



 ……そして、サラの願いに同意するかどうか……俺が悩んでいると、サラは首を振って俺に笑顔を向けた。



「……今すぐ返事は求めていない。わたしは、いつまでも待つから。それまで……それまでは、師匠の隣にいさせて欲しい。おやすみなさい、師匠……」



 ……そう言ってサラは宿に戻っていった。その背中は、『賢者』という肩書きに押しつぶされないか心配なほど小さくて……俺は、呆然とサラを眺めて見送ることしかできなかった。












 …………どれほどの時間が経ったのだろうか。俺は、サラが宿に戻った後も相変わらず星を眺めていた。前の世界は……この中にあるのか。ふと、そんな益体もないことを考えてしまう。生き残るのに必死すぎて、考えようとしたことすらなかった。元の世界には親もいたし、友人だって少しくらいいたが……所詮はただの高校生だ。一人居なくなったところで、家族は悲しむだろうが世間はすっかり忘れて久しいだろう。


 柄にもなく感傷に浸っていると……ふと宿から泣きそうな声が聞こえてきた


「ごしゅじん、さま……」

「……ラージュ?」


 振り返ると、本気で泣きそうな顔をしたラージュがいたが……俺の存在を確認すると、ほっと安心したような表情を浮かべた。


「どうした? ……怖い夢でも見たか?」

「え、えっとね。夢は……ごしゅじんさまに罵倒される夢だったんだけど……」

「はぁ……」


 ……なんてもんを見てやがるんだ。俺は心配して損したと感じて、深くため息を吐くと……ラージュはえへっと、何時もより少し控えめに微笑んで言った。


「起きたら……ごしゅじんさまが居なくて……捨てられたかもって思っちゃって……」

「……」


 物のように扱われたいとか平気でいうラージュでも、捨てられるのは嫌なのか……俺は知りたくない知識を1つ得たが、まぁ使うこともないだろう。


「ごしゅじんさまが、そんなことするわけないって分かってるけど……今日、起きてからずっとごしゅじんさまが居ないのを思い出しちゃって……それで……」

「泣きそうになりながら、慌てて下に降りてきたのか……」

「えへへ……」

「はぁ……髪型が酷いことになっているぞ。こっちへ来い」

「っ!」


 普段よりも数段優しさで溢れていた俺は、寝癖やらで酷い髪を直してやろうとラージュを呼び、ラージュは俺に瞬時に近寄ろうとして……俺から一歩離れた位置で立ち止まった。



 苦悶の表情を浮かべるラージュを見て、俺はハッとした。



「……教会の匂いが付いていたな。すまん」



 この世界には毎日風呂に入る文化は無い。だから、着替えはしたものの俺には教会の匂いが染みついており……ラージュはそれを嫌がったのだろう。



「……ううん、むしろ悪いのは私……わがまま言って、ごめんなさい」

「……やけに素直だな」



 普段ならここで、『おしおきして』とか言い出しそうなんだが……まぁ心当たりはある。アイリの存在だ。


「教会が憎いか?」

「……わかんない。私はごしゅじんさまが救ってくれたから……でも、アイリみたいな子もいるって今日知った」

「……アイリには、ラージュから抱きついていたのはそのせいか」

「アイリを避けちゃ、逃げちゃダメだって思ったんだ」

「……頑張ったんだな」

「でも……今、ごしゅじんさまには近寄れなかった……私は、ううん、私だけじゃなくて家族みんな、ごしゅじんさまに救われたのに……ごめんなさ」




「……黙れ」




「…………ふぇ?」



 聞きたくなかった。これ以上、心の底から善性である……『勇者』らしく正義を胸に抱く、健気な少女ラージュの懺悔を……クズで外道でいつも逃げ続けてきた俺は、もう聞きたくなかった。




 だから…………全部、ぶち撒けてやることにした。




「いいか、ラージュ。俺は最初、お前を見捨てようとした」

「……え……うそ……ごしゅじんさ」

「お前に救う価値を見出せなかったんだ。教会を敵に回したくもなかった」

「…………」

「でも……教会の奴が、たまたま俺を怒らせた。ラージュ、お前が救われたのは、俺が優しかったからじゃない、ただの副産物だ」

「…………ふくさん、ぶつ」

「そうだ。今、行動を共にしているのは、結果的にラージュが勇者の力に目覚めて使えたからで、じゃなきゃ捨てていたかもな……はっ」




 ……言い過ぎた。最初に思ったのはそれだった。最初は真実を述べていたのに、気づいたら勝手にヒートアップして、『ラージュが勇者じゃなかったら捨てていた』なんて嘘までついていた。勇者になる前でさえ、利用しようとしか考えていなかったのに……心底、自分のクズさに呆れてしまった。




 ……だが、これでラージュも目が覚めるだろう。そして……きっと逃げ出すか、あるいは俺に襲いかかるかしてく



「……うれ、しい」

「…………………………は???」




 俺は、本気で耳を疑った…………え? 俺今、ずっと罵倒したよな? それもラージュでも耐えられない『捨てる』とまで言ったんだぞ??? ラージュがそんなこと思うはず……はぁ???? 



 ラージュを見ると……顔を発情したように真っ赤に染めて、トロンとした目をして……俺に向かって、雪崩かかるように腰に抱きついてきた。



「ら、ラージュ? いったいどういう……」

「ごしゅじんさま……やっと言ってくれた……『私に利用価値がある』って」



 ……そんなこと言ったか? ……え? いやまさか、『勇者じゃなきゃ捨てていた』を『利用価値があるから捨ててない』って捉えたの? え? マジで??? 



「ずっと不安だった……ごしゅじんさまには、サラがいるから……私なんか、要らないんじゃないかって……それに、アイリもすごいちからを持ってて……私は、ごしゅじんさまの優しさに甘えてるだけなんじゃないかって」

「……」



 え? ……えー?? でも、でもよ? 百歩譲ってラージュが俺を『使える』と言った……言ってしまったとしよう。だが、ラージュを見捨てようとしたことには違いない……






「それに……私を、ようやく……ようやく『物』扱いしてくれた……うれしい♡」

「え? いつ…………はっ!?」












ふ……副産『物』かあああぁぁっっっ!?!? 






 いやそんなの意味違うだろ! しかもべつにラージュを指した言葉とも言ってねぇよ!!! このっ! ドMがぁ!! 言ったら悦びそうだから絶対言わねーけどっっっ!!! 




「わたしは……ごしゅじんさまの物だから……ごしゅじんさまに捨てられないかぎり、どこまでも付いて行く…………でも」



 ラージュは荒れ狂う俺の内心なぞお構いなしに、つらつらと自分の思いを述べていく。



「すんすん……この匂い……教会は、教会だけは、どうしたって許せないんだ」

「……」



 急にはっきりとしたラージュのセリフに、俺は今度は何も言うことができなかった。ただラージュの胸の鼓動を感じる度に、なぜだか俺の胸までもが熱くなっていくような錯覚が起きていた。



 ……しばらくして、ラージュは満足したように俺から離れた。



「えへへっ。私は、せんせーの物だから……ごしゅじんさまが全部だから、何を言われてもそうするし、命だってかけられるの」

「……」

「……ね、ごしゅじんさま。わたしをどうしたっていい、要らなくなったら捨ててもいい……だけどね、教会だけは…………どこからも消え去るまで壊したいんだ♪」

「……」

「1つだけ……私の1つだけの『おねがい』聞いてくれたら、うれしーな。私は、捨てられない限りどこまでも付いていくから……じゃーね、おやすみ!」



 最後の去り際に見せた……ラージュのどこまでも透き通っていて、『勇者』らしく勇気に満ちあふれた笑顔が……しばらくは、俺の頭に焼き付いて消えそうになかった。






 ……俺は、とんでもなくヤバい爆弾を起爆してしまったようだ。






 その事実に気づいたのは、もう少し後のことだった。

















「……コウ」



 現実から無性に逃げたくて、意味もなく星空を見てはあの星は地球かなー……なんて妄想をしていると、待ち望んでいたかのように後から声が聞こえてきた。



「やっぱ最後はお前か……」



 ……賢者のサラ、勇者のラージュと来たら……まぁ当然、聖女のコイツも来るだろうって気はしていた。



「コウは……元いた星に帰りたい?」

「さぁ……今さら帰ってもなー……戸籍なしのスタートはさすがに詰むわ。異世界転移よりもハードモードだわ」



 だが、コイツには思考を読まれるから寧ろ逆に気楽でいい。それに、サラやラージュほど思い出ってやつもない。出会って1日だしな……



 だから……俺は油断していた……コイツも2人、あるいはそれ以上にヤバい奴ということを忘れて。







「ねえ、コウ。逃げちゃおうよ」

「……は?」







 随分とまぁ……魅力的な提案だと思った。




「それができたら今すぐやっている。だがな……」

「私がコウを守る」

「……はっ?」

「全部から守るの。もし、魔物から襲われたって……≪厄災≫だってコウを守りながら逃げられるよ。教会からも守るし……私なら、人の悪意だって読み取れる。未来予知だって使えちゃうんだよ? 私なら……コウを何からでも守ることができる」

「…………」

「ね? 魅力的、でしょ?」



 ……実際、聞いて『ああ、そうだな』と思った。思わず頷きかけたが……同時に疑問が浮かび上がってきた。




 ……なぜ? ここまでする? 出会ったばかりの俺に……




「コウだから……だよ」

「……はぁ?」

「コウがいなかったら、私はずっとあそこで、独りきりだった。偶然とはいえ、私はコウがいたから、今ここにいるの。だから、私には……私の世界には、コウだけしか要らないの」



 ……絶対に裏切らない保証もないだろ? もし放り出されたら……



「そんなことしない……って言ってもコウは疑い深いから信じないよね。分かった」



 ほっ……。


 諦めてくれそうな気配を感じて、なぜか俺は安堵した。このままだと、アイリの闇よりも暗い瞳に吸い込まれて……呑まれてしまいそうで……



「なら……私はコウしか見ない。コウ以外とは一言も喋らない。コウの言う事はなんだって聞くし、お願い事もできるかぎり叶える。夜の相手だってできるよ。たしかに……私はすこし小さいけど、少し待ったら『使える』ようにはなると思うし……コウが言うなら、今のままだって無理やり」

「待て待て待て待てっ!」


 ……一人で勝手に暴走すんな!! この脳内ピンク野郎がっ!! 


「ん? ……私の髪は銀色だし、ちゃんと女の子だよ。証拠……見てみる?」

「や め ろ」


 分かってる! 分かってる!! いらねーから! 服脱ごうとせんでいいから!! 俺は……俺はロリコンじゃね────!!! ! 



「ん……ロリコンはなにか分からないけど、コウが分かってくれたならいい」



 ……はぁ、はぁ……なんかメッチャ疲れた……寝たい……



「……サラとラージュの言ったこと、ずっと悩んでいる」

「っ!? ……チッ、そりゃそうか」



 コイツには、俺の悩み事なんざ全部筒抜けだ。最初から分かっていたはずなのに……俺は、一瞬とはいえ動揺してしまった。


 そんな俺を見て……アイリは今まで見せたことのない、慈悲に溢れた……『聖女』のような笑みを浮かべた。



「……今は、誰を選んでもいいの。でも、もしコウが途中で逃げ出したくなったら……その時は私に抱きついて。そしたら、2人で逃げよう? 世界から居場所がなくなっても、ずっと一緒に」



 ……それで、お前は本当に満足なのか? 



「うん。私の居場所はコウのいる所……そこだけだから」




 そうかよ……なら、結論を出すまでは待っていてくれ。




「うん、いつでも言ってね。おやすみ」



 アイリはまるで、ただの雑談をしただけというように……足取り軽く、宿の中に帰っていった。











「……どうしたもんかね」




 俺は星星に問いかけるように、夜空を見上げた。




 星星は『彼女を選べ』と告げるように、綺羅びやかに瞬いた……そんな気がした。



























「……ふん、バカバカしい」






 星の瞬きを見て……俺は我に返った。





 『彼女を選べ』? はぁ? 笑わせるな。俺に選ぶ権利もなければ、彼女たち……サラ、ラージュ、アイリは選ばれる立場なんかではない。



「……忘れんなよ。俺はクズで外道で最低な……『弱者』だろうが」



 ……俺が今まで生き延びた理由。それは『俺は弱者だ』と……僻みでも謙遜でもなく、等身大の俺をしっかりと見れていたからだ。3人にそれぞれ想いと願いを吐露されたから、まるで俺が3人から選択しなければならない……という錯覚を、俺は自分の頬を思い切り殴って打ち消した



「泥すすって生き延びていた、あの日々を思い出せ……」



 何度も死ぬ思いをした。≪厄災≫に遭った時は心を折られそうだったし……1歩どころか0.1mm動きを間違えれば死んでいた。そんな冒険者生活を送ってきた……筈なのに。




「はぁ……恵まれ過ぎっていうのも、考えものかもな……」





 まぁ、正直……3人の想いは心から嬉しかった。ラージュはちょっとアレだが……もし、此処に来たのが3人の内誰かだけだったら、俺はソイツの希望に従って生きていただろう……そう思うくらいには。




「ふん……まるで主人公だな」




 まぁ、ぶっちゃけ? 3人のうち誰かを選んだとしても……残り2人も、結局は付いてくるだろう。そういう意味なら、誰を選んでもそんなに『未来は変わらなかった』かも知れない……とはいえ、




「なーに、お行儀よく3つから1つを選ぼうとしてんのか……俺らしくねぇよ」




 この世界はギャルゲーみたく、そこにある選択肢だけ選んでればハッピーエンドを迎える世界か? 




「そんなイージーモードで生きてーよ……けど」







 ……違うだろ。







俺は……俺が作った『選択肢』を選んできたんだろうが!!




「俺が選ぶのは、俺が作る『第4の選択肢』だ。ていうか、そもそもアイツらが居て出来ないことの方が見つからねーだろ……」




 俺は、そう星星に向かって呟いた。星星は……『は? 当然だろ』『3人とも抱け』と言いたげに瞬いた気がし……って『抱け』ってなんだよ!? 俺はあいつらをそんな目で見たことねーよ!! 俺はロリコンじゃねぇって言ってんだろーが!!!!




「……ぜってぇアイツらから逃げ切ってやる」 




 そりゃ、今まで助けられてきた奴らだし……3人とも、多少なりとも恩は感じてる。確かに俺はアイツらの想いを聞いて、心を揺さぶられた。だから、俺にできる範囲で恩返しくらいはしてやっていいだろう。だがな……それが終わったら、俺はアイツらの前からは消える。



「俺の好みは、『重い女』じゃねぇんだよ……」



 もし、彼女作るなら……もっとフランクな女がいい。一緒にいることはプラスだけど、一人でいてもマイナスにはならない。そんな関係が俺の理想だ。こんな命が軽い世界で『相手が死んだら絶対に追いかける』ような重さ……俺は責任取れんし、荷が重すぎる。それにあいつらは美少女で……はっ!?



「……って!何考えてんだ俺!?」



 ……あぁ、もう! なんで俺がこんなことで悩まないと行けないんだよ!? 



 俺は一方的な八つ当たりと分かりつつ、恨みを込めて夜空を見上げた。



 星星は、ケタケタと俺を笑うかのようにまた光った気がした。



「はぁ、バカバカしい……ん?」



俺は星星から目を離して頭を振り、邪念を打ち払う。その時、ふと視界の端に目が行き……俺は、俺が取れる最初の一手を思いついた。






「これだ……ククク、待ってろよ≪厄災≫に『教会』……どっちも生まれてきたことを後悔させてやる……」







 さぁて……俺も動き出すとするか。



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