02.遅刻魔
「イカサマ兎? 知ってるけど?」
「え、ほんとっ!?」
「ほんと。でも今は教えられない」
「なんでよとっとと教えなさいよ!」
「遅刻しそうだからだよ、主に君のせいで」
「…………」
「アオ撃沈残念無念また来週、だねっ」
「いいから走れお前ら!」
ぎゃーぎゃー話しながら人っ子一人いない学園都市を爆走する新高一が四人。しかも一人は無表情で、一人は笑ってて、一人は怒ってて、一人は必死に質問してるとかいうまとまりの無さ。何この集団、変すぎる。……まあ私もその集団の一員なんだけど、必死に質問してるの私なんだけど。
今なんで学園都市に誰もいないかっていうと、今日この学園都市にある全ての学園で入学式が行われているから。それなのになんで私たちが今ここにいるかっていうと、遅刻しかけだから。なんでこんなことになったかと言うと、
「だから言ったじゃねぇか! 遅刻するなって! お前朝弱いんだから早く寝ろよ! 遅刻魔!」
「仕方無いでしょ荷物まとめてなかったんだから!」
「昨日俺が荷物まとめ終わってないって言ったらとろいとか言ってなかったかっ」
「うるっさい黙って走りなさい!」
……ということ。だって朝とか普通起きられないわよ眠いんだもの。
なんとかかんとか荷物をまとめ終わって寝たのは確か夜中の二時。朝起きたのは六時十分。起こしてくれた母さんに感謝、でももっと早く起こして欲しい。それから慌てて荷物を母さんに渡して寮に郵送するように頼んで、制服に着替え終わったのは六時二十五分だった。ちなみに霧たちとの待ち合わせ場所まで歩いて二十分、待ち合わせ時間は六時半。――もう明らかに手遅れだったのは言うまでもない。
マンガみたいにパンをくわえて走るみたいなことはしないで(それを本当にやる人がいたら勇者と讃えたい。ベタ過ぎてもうマンガでも使えないような行動だものね?)、母さんに車を出してもらって待ち合わせ場所についたのは六時四十分。
そこから霧と他の幼馴染二人に怒られながら電車を乗り継いでたどりついたときには、学園都市の住人たちはもう各々の学校に行った後だった。
そして今私たちは東雲学園を目指して走っているわけで。
「李、いまの時間は?」
「えっとー、八時十五分。出席とるのは二十五分だから、まあぎりぎり間に合うかなぁ?」
「そうだといいね」
前で会話する無表情と笑顔の温度差組。無表情のほうは国東秋羅。笑顔のほうは秋篠李都。でも李都のことを知ってる人はたいてい、李と呼ぶ。それは名前の中に入ってるって言うのもそうだけど、本人が無類の李好きっていうのもある。
それにしても間に合いそうで助かった。これで遅刻してたら私が三人に殺されるとこだったかも、しれない。
「あった、東雲学園!」
李が前を指差して叫ぶ。彼女が指さす先には確かに大きな門があって、その脇には『東雲学園中高等部』ときざんである。時間を見れば今は二十分……ギリギリセーフ!
門を通り抜けると校舎が見えて、校舎の扉の前には先輩らしき人が数人立ってこっちこっち、と手招きしていた。そっちに駆け寄ると立っていた先輩のうちの一人がほっとしたように微笑んで、「よかった」と言う。
「遅いから心配していたの。はい、これが名簿。クラスを見てから教室へ行ってね」
「分かりました、ありがとう御座いますー」
李が言うのにあわせて頭を下げて校舎へ駆け込んだ。持ってきていた上履きに履き替え、靴袋に靴を放り込む。高一の教室へまでは廊下に矢印を書いていてあって、迷うことは無さそうでほっとした。この状況で校舎で迷子になったとか、ほんと笑えない。
「李、クラス。俺どこ?」
「霧くんは三組みたいなの。アオちゃんも。で、あたしと秋が四組。見事まっぷたつー」
「げ、霧と同じ?」
「それはこっちの台詞だばーか」
霧に反駁しようと口を開きかけると同時に教室が見えてきて、秋に「うるさい」って制される。いやだって、今は霧が悪いでしょ?
「じゃあね、霧、アオ。またあとで」
「まったねーっ」
走っていく二人を横目に、私と霧もお互い睨み合いながらそーっと後ろのドアから教室へすべりこんだ。新しいクラスで遅刻ぎりぎりだった子なんて覚え方、されたくないわ。
それなのに。
「ギリギリセーフ、みたいなぁ? くく、最初っから遅刻しかけとかあんたたちマジありえねぇ」