星を呼ぶ歌
木々に囲まれた田舎の、オンボロ木造アパートのベランダで、タバコを燻らせるのがニートである僕の唯一の気の休まる時間だ。
ミシミシと声を鳴らして破裂してしまいそうなベランダの木の床も、この時間の間はなんだか愛おしい。
心地良い夜風に当たりながら、ベランダに背中を預け、タバコを咥えて夜空を眺めていた。
目で見て耳で聞き、鼻で吸い取り肌で感じる全てが愛おしくなるようなこの時間でも、夜の空は何だか怖く感じる。
あらゆる光を飲み込んでしまう闇だからだろうか…それとも夜になると色々と考えてしまうせいだろうか。
この深く黒に近い藍色は、星達の淡い希望の光をかき消してしまうのに、十分過ぎるものだった。
物思いに耽って暗闇を見上げていると、何処からか女性の歌声が聞こえてきた。
聞いたことがない歌だった。
自分は最近の曲には疎いので知らなくても仕方ないかと、独言を呟いた。
しかし、知らない歌でありながらも、荘厳さを感じさせながら力強くある声。その一方で傷を抱えたように響いてくる歌声。
傷を持った歌に聞こえるがゆえに、深く僕の心に突き刺さってきた。
そして、その歌を聴いていると、真っ暗だった空の中で星が輝き出して、今にもその星々が降り落ちてくる錯覚に陥った。
命の宿った星達の数を数えている内に、歌はいつの間にか聞こえなくなっていた。
不意にタバコを落としそうになる。危ない危ない…危うく明日のニュースに放火魔として名を連ねることになるところだった。
もう一度、タバコを咥え直して空を見上げてみると、世界を煌々と照らすお月様の姿があった。
もうそこには僕を畏怖する暗黒はなくなっていて、祝福の門出とさえ感じさせるものに変わっていた。
たまにはこんな夜も悪くないよな…。
そう呟く僕の足元には、咥えていたタバコの燃え滓が静かに世界を照らし始めていた。