21# こういう時に幼女に癒されたい?
瑞ちゃんが家に来てトモちゃんに会った水曜日から3日後、もう土曜日になった。
燈樹お兄ちゃんがトモちゃんになったのは先週の土曜日だった。つまりもう一週間経った。
それはさておき、今大変なことになっているようだ。
今日あたしは朝からなんか身体がだるくて、イライラで何をやっても億劫に感じてしまう。それだけでなく、時々お腹が痛い。でも何か変な物を食べた覚えがない。それに上手く説明できないけど今の痛みは今までの腹痛とは違う。
これは病気なの? ううん、こんな症状が何だとあたしはすぐ察しがついた。そもそもあたしの今の年齢ならアレがそろそろ来るっていう時期だった。
そう思ってあたしは自分なりに一応色々準備をしておいた。経験はまったくないけれど、知識くらいは持っている。
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昼になって、あたしはトモちゃん……いや、今でも男装しているからトモくんね……と2人で昼ご飯を食べている。
「姉貴、なんか元気ないね。病気?」
「ううん、実はアレだよ」
本来ならこんなことをお兄ちゃんに言うわけにはいかないよね。でも今のトモちゃんなら……。
「アレって何のこと?」
トモくんは全然あたしの言っている意味をわかっていないようだ。
「アレだよ。アレが来た」
「お化けでも出た?」
「違う。あのね、実は……毎月来るアレのことだよ。わかる?」
やっぱりあたしがこれを今口に出すことに抵抗感がある。
「毎月って? あ、給料か?」
「そうじゃない! 女しかないアレだよ! わかった?」
「女の子の? じゃオレがわかるわけがないじゃん」
どうやらはっきり言わないとわからないようだ。
「もう、鬱陶しい! 今もう女の子だからわかってくれないと困る!」
「やっぱり具合悪い? お前がこんなご機嫌悪いのはなんか珍しい」
「あのね……」
そしてあたしが今自分の体に起きたことについてトモくんに説明した。
こんなことは話しにくいのよね。数日までまだ男だった人に……、しかも今も男装しているし……。でも肉体は女の子だからやっぱり問題ないよ。
結局これは一体何のことなのかって? あまり言い辛いけど、実はアレだ。あたし彩河柚璃、今13歳、中学1年生……やっと初めての『女の子の日』がやってきたようだ。
「なるほど、聞いたことがある。でも普通はこんな話男には言わないと聞いたが」
「今もう女の子でしょう。他人事じゃないの。いつかトモちゃんだって……」
「あ……」
あたしがそう言ったらトモくんが暗い顔をしてそっぽを向いた。
「うふふ」
そんなトモくんのその反応を見てなぜかあたしが笑い出した。
「なんでそこで笑うの?」
「だって、本来ならお兄ちゃんにこんな話をするわけがないはずだから、まさか今日こんな話ができるとはね」
「そんなこと全然知りたくない……」
「でもトモちゃんもやがてこんな目に遭うよね。本当に大変よ。痛いよ。苦しいよ。覚悟しておいてね」
「……やめてくれ。オレはもう聞きたくない」
トモくんは『聞くだけで痛い』って言わんばかりの顔をしている。よし、これで痛みを分かち合える仲間がいて嬉しいよね。
「でも話ができてなんか少し気分がよくなったよ。ありがとう」
「そうか。まだオレのできることがあれば言って」
トモくん、優しいね。じゃ、その優しさに甘えて……。
「トモくんが今できること……。そうね……。じゃ、昼ご飯の後女の子の服に着替えて一緒に出掛けよう〜」
これはちょうどいいかも。『鉄は熱いうちに打て』ってものね。
「は? 何、この怪しい笑顔? 嫌な予感が……」
え、怪しいって? あたしが今どんな笑顔してるの? 別に悪いこと考えてるわけじゃないのよ。
とりあえず、こうやって午後あたしがトモちゃんと一緒に出掛けることになった。
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「ね、オレ変かな?」
「ほら、『オレ』じゃなく、こんな格好、しかも家の外だよ」
「えーと、わたし変かな?」
トモちゃんが女の子の格好で出掛けたのは今回2度目だ。退院したあの日以来ね。
「全然変じゃないよ」
「なんか周りの人に見られている」
「それは、トモちゃんが可愛いからだよ」
「っ……」
すごく照れているようだね。
「やっぱり、おㄹ……わたしは家に帰る」
今また『オレ』と言い出そうとしたね。いい加減慣れてよ。
「せっかく出てきたのだから、あたしを一人にしないで」
「そもそも姉貴の買い物なのに、なんでわたしが一緒に行かないといけないの? しかも女の格好で」
「あたしのこと心配じゃないの?」
「心配だけど、服のこととは関係ないはずだ」
「言ったでしょう。『女の子の日』って」
でも何より、今買いに行くのは女子のアレ用品だよ。やっぱり男装のままではさすがにね。トモちゃんの男装は完璧すぎて本当に男の子だと思われてしまうから。
「なんか言い訳っぽい」
「そんなことないよ」
まあ、トモちゃんに女の子の服を着せるための言い訳を付けたいってのも事実だ。これは一石二鳥だよ。
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「トモちゃん、見てよ、この服可愛い? 着てみたくない?」
服の店で、トモちゃんに似合いそうな服を見つけたので、すぐトモちゃんに見せた。
「興味ない! 用が済んだからさっさと帰ろうよ」
「トモちゃんの服はまだだよね」
「なんでこうなる!? そもそも姉貴の買い物のために来ただろう。わたしの服も買うなんて聞いてない」
「だってせっかく来たのだからついでにね」
あたしの買い物がもう済んだ。でももう一つの目的はトモちゃんの服だ。今まで着ていたのはあたしのお下がりばかりで、あまり足りない。
「なら最初から言えよ!」
だって、最初から言ってしまったら出てきてくれないかもしれないじゃないか。
「あたし、言ってなかったっけ? ごめんね。忘れちゃって。えへへ」
「いや、絶対わざとだ。最初からそのつもりだったよね」
実際にその通りだ。トモちゃん鋭すぎ。
「それに今日、あたし具合悪いので家に帰りたくないの」
「具合悪いなら普通は家に帰って休むんだろう」
「いや、今むしろ外でぶらぶら散歩して気晴らししたり、可愛いものを見たりした方が具合はよくなるよ」
「そんなものなの? なんか言い訳っぽい」
「よし、このワンピースもいいよね。トモちゃんが着たらきっと可愛い。試着室に行こう」
またトモちゃんに似合いそうな服を見っけ。試着してもらいたい。
「お前、オレの言ってること全然聞いてない!」
「ほら、また『オレ』って」
「なんでこういうところだけ揚げ足を取るんだよ!?」
「試着室はあっちね」
「またスルーかよ!」
こんな調子で、トモちゃんはちょっと愚痴が多かったけど、結局着せ替え人形になってくれて、いっぱい服を試着して数着買ってきた。
「そうだ。夕飯を作る時もこんな格好でね」
やっぱりエプロンを付けるなら女の子の格好の方がいいよね。あ、でもメイド服があればその方がいいかもね。さっきはメイド服なんて全然見当たらなかったから残念。でも今後瑞ちゃんに訊いてみたらいいかも。
「嫌だ」
「お願い〜」
「まったく、今日のお前はいつもにも増してわがままだ」
たくさん文句を言われたけど、結局トモちゃんが女の子の服のまま台所に入ってお風呂に入る時までそのままだ。やっぱり幼女姿は心を癒す〜。
今度メイド服も着せてみていいかも。きっともっと眼福になる。
今朝は大変だと思っていたけど、結局『雨降って地固まる』ってことね。