【燈璃】 15# この馬鹿姉貴は放っておけない
翌朝、目覚めたらわたしのそばに柚璃が寝ている。昨夜わたしは一人で自分のベッドで寝ていたはずなのに、いつの間にかこいつはここに?
まあ、昔から柚璃はいつもオレの寝室に入り込んで添い寝していたから、今の状況は別におかしくない。今のわたしの寝室は昔のオレの寝室そのままだし。
そして今彼女はオレの体をギュッと抱きついている。普通なら気持ちよくて嬉しいはずだけど、今はなんか苦しい。だって今の柚璃はなんか体が大きく見えて、力もいつもより強い。実際にオレの方が小さくて弱くなっただけだよね。
「離せ! 馬鹿姉貴!」
オレはこの馬鹿姉貴の頬を摘んで起こそうとした。
「トモちゃん……?」
やっと彼女は起きて、オレの体は解放された。
「姉貴泣いてたの?」
今気づいたけど、柚璃はさっき眠っていた時から泣いていたようだ。何か辛い夢でも見たのかな?
「いい夢だよ。また燈樹お兄ちゃんと会える夢。そしてお兄ちゃんは『ずっとお前のそばにいる』って」
オレが柚璃の夢に出たのか。まったく、柚璃は本当にオレがいないと駄目だよね。
「オレ……わたしはずっとここにいるよ。心配かけちゃってごめん」
「大好きよ〜。お兄ちゃんも、トモちゃんも」
そして今回オレの方が泣いて柚璃の胸を借りてしまった。やっぱりこの体は涙脆い。女の子だし、しかもまだ子供だからかな。
今柚璃はまたオレを抱きしめている。でも今回はちゃんと手加減してくれて彼女の優しさを感じた。
こうやって姉に甘えて泣いているのもなんか悪くない気がする。昔柚璃もしたのと同じように。『姉』ってこんな感じだよね。
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オレはつい泣きすぎて、柚璃の着ている寝間着をびしょ濡れにしてしまった。しかも濡れたのは胸の部分で、今は透けて中身まで見えてしまった。
「ごめん、姉貴の寝間着を濡らしてしまって」
なんというだらしない格好だ。でもこれは間違いなくオレの所為だから、とりあえず謝らないとね。
「別にいいよ」
「でも……見えてるぞ」
「あっ!」
オレが言わないと気づかないのか。まったく無防備すぎるよ。
「一応オレは元男だから、お前もっと警戒した方がいいよ」
「は? まさかトモちゃん……興奮したの?」
「そ、それは……」
言えない。妹の体を見て興奮するなんて……。今は姉だけど。
「そうか。元男の子だもんね。でもね、トモちゃんなら別にあたしは構わないよ。もしトモちゃんが望むのなら、あたし今すぐ脱いで見せてあげても……」
「巫山戯るな! 馬鹿かお前!」
何てこと言ったんだ。この馬鹿妹が。この場でひとまずオレは兄としてこの馬鹿妹を説教しないといけなさそうだ。
「ご、ごめん。あたしって、心配ばかりかけたよね」
オレの言いたいことをいっぱい言い出して説教が終わったら、柚璃はなんかしょんぼりした顔になった。オレが言いすぎたかな?
「でも、とにかくありがとう。柚璃……いや、姉貴、オレ……わたしが泣いてる時いつも慰めてくれて」
厳しすぎるのもよくないか。それに今わたしは妹だから、やっぱりお兄ちゃんモードはもうここまでだ。また妹モードに戻る。
「トモちゃん……」
「さっきも抱き締めてくれて……気持ちいいよ」
恥ずかしいけど、つい素直に言ってしまった。本当に暖かくてお母さんみたいだ。こんな風に優しく抱き締められたらなんか落ち着いて安らげてきた。
「よかった。やっぱり抱いてもらって嬉しいよね」
「まあ……」
今でももっと抱き締めてもらいたいけど、やっぱり恥ずかしいから素直に言えない。
「ちょっと物足りないけど」
「……なんか失礼なこと言ってる! 少なくとも、トモちゃんより……あるからね」
う……確かに今のわたしの体よりあるよね。まだ子供だから仕方ないし。なのになぜかそう言われると悔しい感じが……って、そんなことあるものか! やっぱりオレは男だぞ。こんなことで落ち込んでたまるか!
「子供の体と比較して意味あるのか?」
こんなことしてもお前が虚しく感じるだけだと思うぞ。
「うっ……。で、でも、しょうがないよ。まだ中1だから。高校生になったらきっともっともっと!」
いや、それは無理だと思う。こいいうものは遺伝子関係だと聞いたよ。お母さんもそうだったね。お前がお母さんとそっくりだから、結局お前もお母さんと同じになる運命だよ。もっと後悔したくなければ素直に諦めろ。
と、言いたいところだけどさすがに単刀直入に言うと酷すぎて傷つけちゃうかもね。他の言い方にしよう。
「お、大きくなってどうするのよ?」
「トモちゃんだって、数年後きっと大きくなる」
「そんなの要らないよ。むしろ困る」
なんで女の子ってこんなに胸のこと気になるの? やっぱりオレにはそんなの要らない。このままでいい。
「そうか。トモちゃんが……お兄ちゃんがロリコンだもんね」
「だーかーらー、違うって!」
別にオレはロリコンじゃない! ロリコンはお前の方こそ。
「と、とにかく、今日学校に行くんじゃなかったの? 早く支度しないと遅刻してしまうぞ」
もうこの話は終わりにしよう。
「そうね。……ではまずシャワーね」
そんなことを言っていながら、柚璃は自分の濡れた寝間着を手で掴んで引っ張って揺らした。
「うん……」
柚璃のそんな行動を見てどうしてかオレはつい反応してしまった。駄目だ。変なこと考えてはならない。
「まだ変なこと考えているの? もうトモちゃんが女の子なのに」
「うるさい! 心がまだ男だってば! 馬鹿姉貴! さっさと出ていけ!」
すごく恥ずかしくてそのままの勢いでオレは柚璃を部屋から追い出してしまった。
「この馬鹿、まったくだ……」
こんな駄目な姉貴は一人で放っておいたらどんなことをやらかすかわからなくて心配してしまうので、これからオレ……わたしは妹としてちゃんとそばにいて監視していながら支えてあげるよ。
今立場が逆転になって、もう兄ではなく妹になっちゃったけど、やっぱり今でも柚璃のことを心配して見守ってあげたいと思っている。
燈璃の一人称は『オレ』と『わたし』、気分や場面や相手によってどっちも使います。
大体自分が今『妹』という立場になっていると強調したい時に『わたし』を使うが、時々元の『お兄ちゃん』という立場として話したい時は『オレ』。




