11# 学校に行く前に妹と朝のちゅっちゅしていい?
「トモちゃん、本当に家で一人で大丈夫なの?」
今あたしは学校に行くところだったけど、なんかトモちゃんのことを心配してちょっと躊躇ってしまった。お父さんもすでに仕事に出掛けた。だから今からこの家にはトモちゃん一人になってしまう。
「なんか過保護だな」
「まだ幼い妹を一人きりで留守番させるのはやっぱりなんか……」
「一応中身は子供じゃないんだけどね」
「まあ、それはわかっているけど、見た目は子供だし」
それに精神も見た目相応まだ子供だ。さっき泣いていたし。
でも仕方ないことだよね。トモちゃんは学校に通える日まで毎日一人で留守番させるということになるね。
どこかでうろうろしているよりも、家に残った方が安心できるはずだよね。
「わかった。でもその前に……ちょっと目を瞑ってじっとしてて」
「は? 絶対に変なこと考えているよね?」
「目を瞑らないとあたしはここから動かないよ〜」
「別に姉貴が休んでも、困るのはわたしじゃない」
やっぱり効かないね。そもそも燈樹お兄ちゃんは学校や勉強のことを大切にするようなキャラではなかったから。むしろ学校でちゃんと勉強して楽しんでいたのはあたしの方だ。
「じゃ、今日は休みで、トモちゃんの部屋で一日中邪魔するよ〜」
「うわっ、それは止めろ。……わかったよ」
これは効いたね! お兄ちゃんは静かに一人でいる方が好きだったから。あたしに付き纏われるのが嫌だというわけじゃないようだけど、あたしがうるさすぎるとすぐ叱られるのはいつもの流れだったね。
トモちゃんが目を瞑ったら、あたしはトモちゃんの顔に自分の顔を近づけて、そして……。
「ちゅっ……」
トモちゃんのほっぺたにちゅうをした。挨拶の代わりに『朝のちゅっちゅ』、これも妹ができたらやらたい事項の一つだ。
ちなみに、今のところはほっぺたやおでこだけにしておくよ。唇はやっぱり大切な時のためのとっておきでいい。
「あれ? トモちゃん、あまり驚いていないね」
実はトモちゃんの愕然とした顔も期待してたのにね。それなのに実際にただ呆れた顔をしただけ。反応が薄すぎるよ。
「こんなのは予想通りだから」
「えぇ? そんな……」
やっぱり中身はお兄ちゃんだからあたしの考えくらい筒抜けね。
きょとんとした反応を見たかったのに、やっぱりトモちゃんはあれほどチョロくないよね。
「なんかがっかりした顔だな。そんなにわたしを困らせたい?」
「あははは……」
あたしは苦笑した。実は『ちゅうされた妹の困った顔を笑いながら見つめる』ということも妹がいればやりたいことの一つ。
「毎日こうやってもいい?」
「いつもみたいにわがまま言って、やっぱりお前は厄介な妹だ」
トモちゃんは不躾な妹を見ているような視線で、お兄ちゃんの口調であたしを説教した。
そんな文句を言ったけど、別に拒絶はしているわけじゃないみたい。なら毎日朝のちゅっちゅの件はオッケーってことね〜。
「その『お前』呼ばわりはなんとかできないのかな?」
「今まで通りでいいよ」
「でも今一応あたしの方が姉だからね」
妹に『お前』と呼ばれる姉はなんかかっこ悪くて、さすがに癪だよね。
「姉になってもお前のイメージはあまり変わってないよ」
「あたしのイメージって……」
「ただ『馬鹿妹』が『馬鹿姉貴』になっただけだ」
「うっ……」
トモちゃんも『毒舌』というイメージは燈樹お兄ちゃんだった頃とは変わっていないのよね。
でもこんな姿でこんな罵倒の言葉は見た目とはギャップがありすぎて、むしろこんなトモちゃんもある意味でいけるかもね。もっと罵って……。
いやいや、これはおかしいよ。どうなってるの? あたしはドMじゃない……と思うよ。
「馬鹿姉貴、何かとんでもないこと考えている? 顔に出てるぞ」
「えっ?」
やだ、あたし今どんな顔なのか? 気になるけど、訊かない方がいいかも。知らなくていい気がする。
「もう、行ってくるね」
つい長い立ち話をしてしまった。このままだと遅刻してしまいそうだよね。
あたしはそろそろ家から出て学校へ向かおう。
いつものような朝だけど、色々変わってしまったね。先週までなら朝お兄ちゃんも一緒に出掛けていた。違う学校だけど一緒に途中まで歩くことになっていた。
それでも大丈夫よ。夕方帰ってきたらすぐトモちゃんの可愛い顔を見て、トモちゃんの料理が食べられるはずだから。そう考えるだけで、今日頑張るための気力が漲ってきた。
とりあえず今はしばらくのお別れね、トモちゃん。