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1.復讐系または無関心系

1話没

 俺ーーリード・ライノールはどうやら魔力だけは多いらしい。


 なぜそんな曖昧な言い方なのか、それは魔力測定器で測りきれないと判断されたから。


 生まれた直後から五歳ごとに魔力は測られる。

 俺は生まれた直後から測りきれないくらい魔力を持っていたらしい。


 しかも、魔力というものは成人するまでどんどん増えていく。最初から測りきれなかったからどれくらいまで膨れ上がっているのかは全く分からない。


 だけど、測りきれない人など今まで存在しなかったから、史上初がその記録を更新するだけだった。


 満足な食事、理想的な学習環境。騎士爵だった俺の家は、他家からの多大な援助を受けて俺自身は王女様と婚約することになった。


 俺は物心ついた時から期待の中にいた。高魔力持ちの人は揃って強力なギフトに目覚めている。


 だから俺も強力なギフトを得る、そう期待されていた。


ーー嫉妬、重圧、期待


 俺にのしかかってくるそれらに耐えながら、期待に応えるために勉強もトレーニングもしていた。


 だけど、期待が大きすぎたのかもしれない。十歳のギフト判定の日、俺に下された判定は"無"。

 空欄。ギフトが存在しないと判断された。


 その事実は、期待の大きさだけ裏返って俺に襲いかかってきた。


ーー侮蔑、軽蔑、嘲笑


 仲睦まじかった王女様は「穢らわしい」と突き放し、俺に懐いていた妹も優しくしてくれた両親も俺を無能として扱った。


 全てが揃った理想的な生活は、何もない最下層の生活まで落とされた。

 王国最高は、王国最低まで落とされた。


 次の年、妹が全属性の魔法を使うことができる【賢者】のギフトに目覚める。


 俺は要らない存在となった。だから、要らない存在となった俺は、

ーーお前を勘当する。そして、国外追放することが決定した


 こうなることも知っていた。


ーー魔力しかない無能

ーーギフトを与えられない神から見放されたもの

ーー期待を全て裏切った敗北者


 勝手に期待されて勝手に失望される。期待してくれなんて頼んでいないのに、ただ普通でよかったのに。


 自分勝手だ。

 身勝手だ。


 何度も何度もそう思った。

 だけど、口に出すことはできない。口に出した瞬間、殴る蹴るの連続。


 誰も止めない。

 止めようともしない。

 辞めてと言っても止まらない。


 そんな日々が続いたからなのか、国外追放にするという事実に安堵を覚えてしまっていた。


ーーやっと死ねる。


 門を出て、森へ入る。魔獣が跋扈(ばっこ)する森の中。何のギフトも持たない俺はすぐに魔物に囲まれた。


ーーやっと楽になれる。


 俺を囲んだ狼型の魔物が飛びかかってきた。反撃する術も持たないし、そんな力も持っていない、


ーー痛い

ーー苦しい

ーー意識が眩む


 やっと楽になれる、これが最後の苦しみ。

 絶望よりも安堵が、誰かの期待を背負う息苦しさよりも自由という爽快さが俺の心を占める。


ーーどんな些細なことでも喜んでくれた両親。

ーー優しく接してくれた姫様。

ーー慕ってくれた妹。


 幸せな記憶が脳内を過ぎる。


ーー無能のレッテルに怒鳴りつける両親。

ーー穢らわしいと突き放す姫様。

ーー蔑んでくる妹。


 苦しい記憶が脳内に浮かぶ。きっとこれが走馬灯なのだろう。


 これで終わり。そのはず……だったのに。


 魔物が吹き飛び、身体に温かい魔力が流れ込んでくる。


「これって結構ギリギリだった? まぁ、()()()()けどね」


「なん……で……?」


 魔物につけられた傷が回復する。痛みが消え、苦しさが霧散した。

 どうして助けたのか、そう聞くために薄っすらと目を開く。しかし、滲んでよく見ることができない。


「おっと、血までは戻らないからね。すぐ意識を失うよ」


「……死な……せろ……」


「君が死にたい理由は何だい? 周りが手のひらを返したから? 婚約者が裏切ったから? それとも、無能だから? だから死ぬことで全てから逃げ出したかった」


ーーそうでしょ?


「……ッ!?」


「期待を全て裏切り見放されたことによって重圧から解かれた、自由になったと言いながらも諦めきれずに努力して、それでも努力は報われずに結局こうして死を選んだ」


ーー違うところはある?


 図星だった。全てがその通りだった。

 指摘され、激昂して飛びかかろうとしたが、血が足らずそれすらままならない。


 ずっと魔力だけが取り柄でギフトのみを期待されてきた。ギフトが目覚めなかった今、俺に残されたのは魔力と無能のレッテルだけ。


ーーだから死にたかった。

ーー楽になりたかった。

ーー全てから逃げ出したかった。


 なのに。

 やっと楽になれるはずだったのに。

 目の前の何かが俺を死なせてくれない。


 何故

 どうして

 分からない


 だけど、それを汲み取ったかのように何かが言う。


「君死を求める理由が無能だということならば、私がそれを否定しよう。

君が力を望むなら、私がそれを与えよう。

君が絶望しているというのなら、私は希望を与えよう。君は無能じゃない! それだけを覚えて今は眠りたまえ」


 そんな声を最後に意識が遠のく。だけど多分俺は死なないのだろう。

 身体が浮き上がる感覚がして、本当に意識が切れた。



ーーリード、良くやった。さすが俺たちの息子だ。

ーーリード、

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