表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/22

幾ら合法でもロリは流石に2



 多分もう、俺は大陸の西側では生きられないと思う。

 亜人の迫害、虐待は、ドルドギア聖教の勢力圏、大陸の西側では当たり前に行われてる。

 それを目の当たりにする度にこんな事を繰り返してたら、いずれは何らかの形で死ぬだろう。


 目を瞑る事は、きっと難しくはないのだ。

 だって無知だった頃の、ミスティラを知らず、タウーニに出会わなかった頃の俺は、そもそもそれ等を見もしてなかったのだから。

 でも今は、あんな光景を目の当たりにすると、見て見ぬフリをする事が辛く感じる。

 例えもう会えないとしても、彼女達に恥じてしまう。

 そんな感傷で、恐らくこの先も、同じ光景を見掛けたら、俺は同じ事を繰り返す。


 だから俺は生きる為に東を目指そうと、そう決めた。


 ただその前に、一つこの町でしなければならない事がある。

 金を吐き出して旅支度を整えながら、夜を待って俺は動く。


 目指す先はこの町の教会だ。



 フード付きの外套に身を包み、俺は教会の前に立つ。

 これから俺がする行動は、自己満足でしかなく、大きな意味は持ち得ない。

 そう、危険は大きいのに、あまり意味はないのだ。


 地を蹴って跳び、教会を囲む塀の上に手を掛けて、一気に引き上げて乗り越える。

 尤も危険が大きいとは言っても、それは後々の事で、この教会に忍び込むのは、まぁ容易い筈。

 王都の大教会辺りは財貨も溜め込んで居るし、衛兵がガチガチに守りを固めていて侵入を阻むが、ここは所詮大した規模の教会じゃない。


 こんな場所に忍び込む理由は、勿論あの女ドワーフを逃がす為だ。

 昼間に恥をかかされたあの僧侶が、傷の手当てを終えた後、女ドワーフに八つ当たりをする可能性は、多分酷く高いだろう。

 ドワーフはエルフに次いで高値で取引される亜人だから、まさか殺す事はないだろうが、それでもドワーフは頑丈であるが故に、酷い責め苦を負わされるかも知れない。

 そう考えると、俺は動かざるを得なかった。

 だって彼女がそんな責め苦に合わされるとしたら、それは俺が石を投げたせいだから。


 但し、これは本当に、単なる俺の自己満足だ。

 何故なら彼女が、昼間にあの行為を止めてくれ、今も助けてくれと、俺に訴え掛けて来た訳じゃない。

 それに彼女を逃がした所で、あの僧侶は別の亜人を使って、また同じ事をするだろう。

 だから本当に意味なんてないのだけれど、少し考えれば目を瞑るのが賢いってのもわかるけれど、残念ながら俺は酷く頭が悪いから。

 止まる事を考えられない。



 教会には数人、多分四人の人間が生活してる気配があった。

 一人は間違いなくあの僧侶。

 もう一人は、女で、やはり僧侶らしい。

 三人目は下働きか見習いで、下っ端だ。

 最後の一人、四人目は、教会内の雑事を取り仕切る、下働きのリーダーの様な立ち位置にいるけれど、実際には僧侶や女僧侶を守る為の護衛だろう。


 なので最初に、相手が襲撃を予測してない間に排除すべきは、四人目の護衛だ。

 他の三人はどうとでもなるだろうけれど、確かな戦闘技術を持った相手だけは、奇襲を仕掛けないと殺さずに無力化する事は難しい。


 そう、今回は出来る限り人死にを出さずに、あの女ドワーフの身柄を確保したいと俺は考えてる。

 これまでの人生で散々殺しをして来た俺が、今更何をと言う話ではあるのだけれど、この町中は、教会は、少なくとも戦場じゃない。

 相手は兵士じゃないし、傭兵でもない。

 殺す覚悟を持って武器を握り、自分から戦場にやって来て立ってる訳じゃない相手を皆殺しにするのは、あの亜人狩りをしていたグヴォード遊撃隊と変わらない行為に思えたから。


 俺は閉じられた窓の隙間から細い針金を差し込み、掛け金を外して教会内に忍び込む。

 あぁ、この手の潜入は初めてじゃない。

 体格が成長してからはあまりなかったが、まだ小さな頃は家屋への潜入も、傭兵団の長に命じられて幾度かやらされた。


 気配を殺し、足音を殺しながら教会内を進み、両手には一枚の布切れを構える。

 目標の護衛は、明日の仕事の準備だろうか?

 細々とした作業をしていて、まだ起きていた。

 俺は後ろから近寄り、布切れで彼の顔を覆い、声を封じてから腕を喉に巻き付ける。

 窒息ではなく、喉を走る血管を絞めて、脳への血を止めて意識を奪う為だ。

 殺す心算なら、それこそブラックジャック辺りを作って殴る方が手っ取り早い。


 意識を失った護衛を彼自身のベッドに寝かせて部屋を探り、見付けた鍵を数本懐に入れる。

 どれもこの部屋の鍵じゃない。

 恐らくは、僧侶や女僧侶の部屋の合いカギと、女ドワーフを閉じ込めてる場所の鍵だろう。


 まぁ後は簡単だった。

 僧侶も、女僧侶も、下働きも、全員同じ様に意識を奪えば良いだけだ。

 勿論、殺しはしない。

 殺しはしないが、あの僧侶には酒瓶を片手に、全裸で教会の敷地の外で寝ていて貰おう。


 あの僧侶は悪趣味な人間だったから、彼自身の悪趣味な姿を、皆に見て貰えば良い。

 醜態が醜聞になって広まれば、今の地位だって危うくなる。

 例え事実が無根であっても、それを誰もが信じてくれるとは限らないのだ。

 本当は女僧侶も同じ格好で添えた方がより民衆の好奇心を煽るが、……それでも女を晒し物にするのは、あぁ、悪趣味が過ぎるだろう。



 俺は全てを片付けてから、女ドワーフが閉じ込められている部屋の扉を開く。

 彼女は、碌な手当も受けずに床に転がされていたが、侵入者に気付いて身体を起こした。

「……誰?」

 当たり前だが、その目に満ちるのは警戒の色。

 夜更けに見知らぬ人間が部屋に踏み入って来て、警戒せぬ筈はない。

 あぁ、いや、そもそも彼女にとっては誰であっても、どんな状況であっても、人間ならば警戒の対象なのかも知れないが。


 さて何と彼女に説明しようか。

 俺は僅かに思案する。

 助けに来たなんて言うのは、流石におこがましい。

 彼女を捕まえたのは人間で、俺もまた人間だから。


 だから、そう、

「君をこの町から逃がす。その後は仲間の元に送り届けよう。悪いが拒否権はない。……あぁ、いや、町から出た後にどうするかは任せるが、取り敢えずこの場所からは逃がす」

 端的に目的のみを告げる。

 もしも町から出た後、人間の俺と一緒に居るのは嫌だと彼女が言えば、それはもう仕方がない。

 無事に仲間の元に戻れる事を、ドルドギア聖教以外の神に祈って、その場で素直にわかれよう。

 そう思って、居たのだけれど……。


「逃がす? 人間が何から私を逃がそうとするの。仲間の所って、何処? 皆殺されるか、奴隷として連れて行かれたのよ」

 俺が背負おうと思ったのは、思ったよりも遥かに重たい物だった。

 それも一度背負ったなら、途中で決して放り出せないであろう類の代物である。


 思わず、俺は言葉を見失う。

 ドワーフがエルフに次いで高値な理由は、高い鍛冶技術を持つ事と、屈強な戦士が数多く揃い、守りの硬い地下王国に籠るから、安易に亜人狩りで捕まえられないからだ。

 なのにまさか、彼女を送り届けるべきドワーフの地下王国が既に陥落しているとは、流石に予想外だった。

 この辺りで大規模なドワーフ狩りがあったって噂は聞いてないから、彼女は恐らく、かなり遠い地で人間に故郷を滅ぼされ、人手を何度も介してゴルドリア王国まで連れて来られたのだろう。


 あぁ、そんな事もあり得るのかと、俺は衝撃に首を振る。

 エルフの籠る森の結界は、ドワーフの地下王国よりも更に強固な守りだ。

 しかし決して、絶対に破られないと言う保証がある訳じゃない。

 考えもしなかったけれど、森に帰したミスティラにだって、大陸の西側に居る以上、ドルドギア聖教が大きな勢力を持ち続ける以上、結局は本当の意味での安寧を得られた訳ではなかった。


 だが今はそれを嘆き、足を止めて居られる状況じゃない。

「わかった。でもそれでも、今は町を出るのが優先だ。これを着てくれ。悪いが急ぐから、抱えて移動する」

 俺は自分が纏うそれと似た、けれどもサイズは幾分小さなフード付きの外套を、彼女に向けて放る。


 どんなに重くても、俺はこの荷を背中に背負おう。

 例え彼女が望む故郷じゃなくても、より良い何処かへ送り届けよう。

 だって彼女の唇は震え、瞳には涙が一杯に溜まり、とても見てはいられなかったから。

 背中に背負えば、それがどんなに重くても、少なくとも流す涙は見ずに済む。


 俺の目は、少しばかり良く見えるが、それでも前しか見えない普通の代物だ。

 眼前に広がるのが困難ばかりでも、前に進む間は後ろの涙から目を逸らせるなら、足を動かす価値は充分にある。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ