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幾ら合法でもロリは流石に6



 目を覚ますとそこは見知らぬ場所で、俺はベッドに寝かされており、そしてベッドサイドに置かれた椅子の上で、マールリが泣いていた。

 不思議に思って身体を起こせば、

「っ!! 無事?! 大丈夫!?」

 驚きに目を見開いて泣くのを止めたマールリが、身を乗り出して問うて来る。

 その勢いに、少し驚く。


 まぁ無事かと問われれば、手を握り、開き、肩を回して身体の調子を確かめるが、問題はない。

 意識を失った事は覚えてる。

 多分、町にも寄らない長旅が続いて疲れて居た上、不意に現れた格上の強敵に追い詰められて、精も根も使い果たしたのだろう。

 いやいや、あのドワーフは強かった。

 出来るなら、もう二度と戦いたくない。

 しょっちゅうそんな事を言ってる気もするが、紛う事なき本音だ。


「無事だ。大丈夫だ。ドワーフほどじゃないが、俺は結構頑丈だから」

 取り敢えず、安心させる為に俺は無事を告げる。

 首も胴の上にちゃんと付いてた。

 つまり何一つ不具合はない。

 この場所に問題があったなら、すぐにでもマールリを連れて逃げる算段に移れるだろう。


 けれどもマールリは俺の言葉に首を横に振り、

「ごめんなさい。ごめんなさい」

 そう言ってまた泣き出す。


 ……実に困った。

 状況がわからないから、かけるべき言葉もわからない。

 でもそれを問いただす事は、今はしようと思わなかった。

 泣きたい時は、泣けば良いのだ。

 涙は、心に感情を溜めて置けなくなった時に、一緒に溢れて流れ出る。

 無理に止めれば、抱え込めない感情も心に溜まったままになってしまう。


 だから精一杯に泣けば良い。

 泣いて泣いて、涙が出なくなるまで泣いて、落ち着いたら事情を話してくれればそれで良い。

 俺はマールリの頭に手を伸ばし、撫でてやりながら彼女の涙が尽きるのを待つ。


 しかし一体どの位寝てたのかは知らないが、随分と腹が空いてるので、出来れば早目に終わってくれれば、少し助かるなぁと思いながら。



 さて、泣き疲れたマールリから事情を聞き出して見れば、別に然して大した話ではなかった。

 どうやらマールリは、自分が色々と詳細を話さなかったが故に、俺を危機に追い込んだと後悔してるらしい。


 彼女が話さなかった事は、大きくは二つ。

 一つはポルドヌス山脈を抜ける秘匿された通り道と言うのが、実は単なる道ではなくて、ドワーフの地下王国であった事。

 もう一つは、マールリがドワーフの始祖王の血を引く、由緒正しい血筋の姫であり、他のドワーフから見ればそれは一目でわかるらしい事。


 まぁ始祖王が何なのかは知らないが、由緒正しい血筋の姫だったからこそ、秘匿された地下王国の位置を知っていた。

 由緒正しい血筋の姫だったからこそ、それが人間と一緒に歩いてるのを見たドワーフ達が、何としても取り戻さんと奇襲を仕掛けて来た。


 成る程、確かに事前にそれ等を知っていれば、俺は奇襲を避け得たかも知れない。

 だが同時にその二つが大事な秘密で、安易に俺に明かす訳には行かなかった事もわかる。

 勿論ドワーフの奇襲がなくとも、地下王国に辿り着けばその二つの秘密は俺に知れるのだが、それまでに言い出す機会もなかったのだろう。

 故にそれは、今となっては既に終わった話で、別に大した問題じゃないし、俺もそんな事でマールリを責める心算は毛頭ない。



 でも話はそこで終わらなかった。

 そしてそこからは、俺にとっても、少しばかり寂しい話になる。

「本当は、通り抜ける許可を貰って、一緒に東側に行く心算だったの」

 マールリはそう言い、目を伏せた。


 通行の許可を得るだけなら、別に何ら問題はなかっただろう。

 人間である俺が、秘匿された地下王国内を通る事は割合に大きな問題だが、それでも恩人であると言い張れば何とかなるとマールリは考えていたらしい。

 それ位にマールリの血筋、貴種の血は、ドワーフにとって大きい物なんだとか。


 だが通行の許可を得る前に、ドワーフの奇襲が行われてしまう。

 俺とあの強いドワーフ、確かガードランと呼ばれていたアイツの戦いを止める為には、あちらが申し出た保護を受け入れるより他になく、マールリはこの地下王国の庇護下に入る。

 確かに一度庇護下に置いた貴種を、この地下王国が易々と手放したりしない事は、安易に想像が付く。

 外に在るなら兎も角、どんな理由があったとしても、自らの手の中に一度飛び込んで来たのなら、それを外に出す理由はなかった。

 ましてや幾ら恩人であっても人間と旅をし続ける事を許すなんて、あり得ない。


 つまり、そう、マールリと俺の旅は、ここで終わると言う話なのだ。


「貴方の鞘が見つかるまで、私が傍で見ているって言ったのに」

 流し尽した筈の涙が、また一滴零れ落ちる。

 あぁ、俺も寂しい。

 俺だって泣きたいくらいに、寂しい。

 でも俺の分まで彼女が既に泣いてるから、歯を食い縛ってそれを飲み込む。


 どうしても一つ、大切な事を聞かなきゃならない。

「俺の事は一切気にせず、正直な所を教えて欲しい。マールリはここで、幸せになれるのか?」

 もしもマールリが、首を横に振ったなら、俺はどんな手を使ってでも彼女をここから連れ出そう。

 あのガードランとか言うドワーフは厄介だし、他にも手強い相手は大勢居るだろうが、ドワーフ製の武器を盗み出して、正面から相手をせずにあらゆる手を尽くしたならば、二人で逃げる事位は、物凄く難しいがやり遂げて見せる。

 それが今後、東側で活動する際に多大な悪影響を及ぼすとしても、それは後で悩めば良い話だ。


 俺はそんな覚悟を決めて、マールリに問うた。

 しかし彼女は指で目元を拭い、笑みを浮かべて一つ頷く。

「えぇ、ここは約束通り、貴方が連れて来てくれた地下王国だもの。ここで幸せになれないのなら、私の幸せは最初から滅びたあの地にしかなかったの。でもきっと、そうじゃないわ。だって貴方との旅は、私、とても楽しかったから」

 成る程、なら、良い。


 約束通り、俺はマールリを安全な地、彼女を迎えてくれる同胞の居る地下王国へ、送り届けた。

 ならばマールリとの旅が終わる事に、俺は何の文句もない。

「あぁ、俺も楽しかった。ならマールリ、ここでお別れだ。俺は大切な友人として、君の幸せを願ってる」

 俺は手を出しだして、彼女はそれを握る。


 長い間二人きりで旅をしたが、俺とマールリは男と女の関係にはなってない。

 でもそんな事はどうでも良い位に、彼女との旅は楽しかったし、紛れもなく俺はマールリに好意を持ってる。

 だったらこの好意は、きっと友情と言う物なんじゃないかと、俺はそう思うのだ。




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