幾ら合法でもロリは流石に4
俺と女ドワーフのマールリの旅路は順調だったが、思いの外大変なものだった。
尤もそれはマールリのせいでは決してなく、彼女は文句も言わずに良く歩いたし、食事が森から採取出来る恵みばかりでも、やはり文句も言わずに平らげる。
では一体何故に大変だったのかと言えば、俺が彼女の扱いに、勝手に苦慮していた事が原因だ。
俺は一人旅なら慣れているし、傭兵団に長く所属していたから、団体での行動にもやはり慣れている。
女の扱いは、経験豊富と言う訳ではないが、しかし皆無と言う訳でもない。
だが流石に、女一人を連れて野宿を繰り返し、長期間の旅をすると言う経験はこれまでになかった。
何せ見た目は子供、と言うと失礼に当たるが、人間の少女の様にしか見えないドワーフの女性だ。
体力の問題や、水浴び、排泄等、些細な事全てが気に掛かってしまう。
勿論彼女はドワーフなので、見た目よりも遥かに体力はあるが、それ故に限界がどの辺りにあるのか、俺には全く測れないのだ。
互いの信頼関係が出来上がっていれば、会話の中から相手の様子を探りもするが、残念ながら俺とマールリの会話は少ない。
また当然の如く彼女は可能な限り俺を頼ろうとはしなかったので、俺は勝手に彼女の扱いに苦慮していた。
但しそれもゴルドリア王国を抜けるまでの話で、警戒の厳しい国境を越える時、流石にマールリも見兼ねたのだろうか、
「そんなに気を遣わなくて良い。私は、大丈夫」
そんな風に言ってくれた。
寧ろ気遣ってくれたのは彼女だろうに。
以前のマールリなら、『前より扱いは良いから、大丈夫』なんて少しの棘を含んだ言葉を吐いた筈。
でも今回の言葉は、含みなく俺を気遣う物だ。
だからだろうか、その時から、俺は少しだけ彼女に対する接し方を、悩まなくなった。
そうなると、二人旅では必然的に役割を分担し、お互いを助け合った方が効率は良いので、徐々に少しずつ、俺とマールリの間には言葉の数が増えて行く。
多分、自惚れではなく、俺と彼女が打ち解けて来たって事なのだろう。
そんなある日、不意に彼女は問うた。
「どうしてあの日、私を助けようとしたの?」
……と。
そして畳み掛ける様に、
「東側で、会えるならもう一度会いたい人って誰なの?」
もう一つ。
それは上手く口にするのがとても難しい問い掛けだ。
助けた理由は単に見過ごせなかったから。
しかし何故見過ごせなかったのかと問われれば、それは俺と言う人間を知って判断して貰うより他にない。
俺は偽名を名乗って町に入る様な人間だが、それでも旅の仲間として打ち解けて来た彼女に対して、嘘や誤魔化しはしたくなかった。
故に俺は、自らの人生を彼女に語る。
物心ついた時には既に傭兵団に居た事。
傭兵として人間、亜人を問わず、多くの命を奪った事。
エルフの娼婦、ミスティラとの出会い。
彼女を手に入れる為の剣闘士としての戦い。
森での別れ。
犬人であるタウーニとの、新たな出会い。
ジャージャーニ族の居住地での暮らし。
迫る亜人狩りの脅威に対し、時間稼ぎに残った事。
旅は長い。
語る時間は幾らでもある。
そして全てを聞き終えて、マールリは俺に言った。
「アスィル。貴方は刃物ね。鞘に収まり、初めて安らぐ。鞘がなければ、誰かを傷付ける。貴方の鞘に会えると良いわね。でも少しの間は、私が貴方を見ててあげるわ。ドワーフはね、刃物の扱いも得意なの。鞘ではなく、鍛冶師としてだけどね」
それはドワーフ特有の言い回しだったのだろうか?
俺にはその言葉の意味が、ハッキリとは理解出来なかったけれど、彼女の見せた笑みは、今までになくやわらかな物だった。
それからも俺とマールリの旅は続き、結局は町に入れそうにないトルスタリア共和国も越えて、ポルドヌス山脈へと辿り着く。
すると不意に、マールリはここから先は自分が案内すると言い出し、俺はそれを了承する。
何でも彼女曰く、ポルドヌス山脈には亜人の中でも限られた者しか知らない、東への通り道があると言う。
西側の人間に利用されぬ為、本当に一部を除いては秘匿されてる通り道。
でも何故それをマールリが知るのか。
少しばかり不思議に思ったが、そう言えば俺は彼女がドワーフである事以外、何も知らないと漸く気付く。
けれども今更、それを問うのも無粋だろう。
マールリがどんな出自であったとしても、俺の旅仲間である事に変わりはない。
そう考えて、俺は黙って後に続く。
或いは彼女は、もしかすれば自分の事も問うて欲しかったのかも知れないけれど、生憎とその時の俺にはそんな風に気は回らなかった。