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謎生物と初授業



きょとんとした表情で、マオさんが俺を見る。

そんなに見られても今の俺からは鉱石の山しか出ませんよ?とか思いつつ、俺は口を開いた。




「実は、ゴブリン討伐をしているときに洞窟を見つけて、そこでたくさんの鉱石掘ってきたんですよ。確か、鉱石採掘のクエストがあったような気がして………同時に受理してもらえますか?」

「………こ、鉱石採掘、ですか?しょ、少々お待ちください!」




バタバタと音を立てて、マオさんが裏に消える。

そして、少しして一枚の紙を持って出てきた。どうやら鉱石採掘のクエストの紙っぽい。

なぜ俺がそう断言できるのかというと、マオさんがそれを見ながら鉱石の種類と数を言っているからだ!




「……ええっと、鉄が20個、銅が10個で、もし……もしですけど、ミスリル鉄があれば特別ボーナスが付きます。って、えええ!?」




えっと?鉄20に銅10に………?




「モフ太、ミスリルって何個あればいいと思う?」

『………F級冒険者に見せかけるなら一個でも十分。』

了解(りょーかい)。」




最後にミスリル鉄……琥珀色に輝く綺麗な鉄をカウンターに一つ置くと、マオさんはがたがたと震えだした。

えええ……なんで震えてんの!?


大丈夫か、と声をかけると、マオさんは我を取り戻したらしい。

びくんっ、と言葉に反応し、なぜか敬礼して俺に言った。




「だっ、大丈夫です!ほ、本当にすごいですね!報酬持ってきますのでちょっと待っててください!」




弾丸のように言葉を並べた後、マオさんは大きな銀貨一枚と金貨三枚を箱の中にいれてカウンターの上に置いた。




「こちらが報酬の6000Gと特別ボーナスの2000G、合わせて8000Gです!」

「あ、ありがとう、ございます………」




そういえば、ポケットの中に財布あるかも。転移前に外に出たのも買い物しに行くためだったし。

ごそごそと探るけど、服の中にない。


マジか!?俺、どっかで落とした!?


すると、モフ太が呑気な声でのんびりと言った。




『リュウのお財布ならバックのポケットに入れといたよー』

「は?てめぇ、また勝手に………」




とぶつぶつ呟きながらバックを探ると、確かに俺の黒い長財布が入っていた。

ったく、いつの間にって話なんだけど。


はあ、とため息をつきながら俺は硬貨を財布の中にしまう。

お札とか百円玉とかは後で整理することにしよう。




「…………あの。」

「へ、あ、はい?」




財布をバックの中に入れて前に向き直ると、マオさんがなぜか顔を赤くしながら俺に話しかけた。

なんかまだ用事あったっけ?という俺の考えは、マオさんの言葉でよく分からない意味で打ち砕かれた。




「な……」

「な?」

「な………名前を………教えていただけませんか?」

「……………え?」




な、名前ぇ?なぜ?

と思いつつ、俺は言う。




「でも、冒険者登録の時に名前、書きましたけど…………」

「あ、いや、そういうんじゃなくて………」




数秒悶えた後、マオさんは言葉を絞り出した。




「し、私的に……気になって。冒険者登録の用紙は、見てもカードに打ち込んだら奥のバックヤードに閉まって、ギルマスしか触れないので………」




……………ほぉ?

よく分からないけど、俺はこちらでの名前を口にした。




「………リュウ、ですけど?」

「!!」




すると、マオさんの顔がぱっと明るくなり、営業スマイルじゃない素の笑顔で笑った。

よく恋愛小説とか少女漫画である一陣の風が吹く的な感じの場面が俺の目の前で起きている………ような気がする。




「ありがとうございますっ!………あっ、私はマオと言います。よろしくお願いします!」

「あ、よ、よろしくお願いします。」




今更知ってますとは言えないので、よろしくと返す。

マオさんは、これから冒険者ギルドに来るときは自分の受付に来てほしいと謎の懇願をしたあげく俺が頷くまで持久戦を持ち込んだ。まあ、別に断る理由もないし、俺は首を縦に振った。

そして、冒険者ギルドを出るまで、俺の耳にはマオさんのご機嫌な鼻歌が小さく聞こえていた。



だがしかし。

………こんな名前のマンガあったような気がするな。


いや、そんなことはいい。

そんな終始ご機嫌だったマオさんとは正反対の人間が、いや、生物がここにいた。




「おい、モフ太。なんで不機嫌なんだよ。」

『べぇつにぃ?もう暗いなーって思ってるだけだもーん。』

「それにしては毛の色が黒っぽいんですけど?」

『影でそう見えるだけだよ。』




つーん、とした態度をギルドに行った時からとり続けるモフ太。

毛の色もどこか本気怒りモード(弱)の灰色に見える。

なんか、感情で色変わるって……信号機に見えるんだけど(笑)




『………なんか変なこと考えたでしょ。』

「気のせいだろ。」




今度は黄緑に毛の色変えて肩の上からこっちを見てくる。

やばい、これ以上こいつ見てたら笑ってきて………ぷっ


笑いを耐え切れず、俺は小さく噴き出す。

すると、突然首筋がひんやりとして、背筋が震えた。




『…………首って、人間の弱いところなんだよ?』

「分かった。分かったから、武器(ツララ)をしまってくれ!」




モフ太が先端の(かなり)尖った凶器をしまうのを横目で見届けてから、俺は命拾いをした、と手で首をさすった。ほんとマジこえぇ………


だが、一悶着あったことでモフ太の気は晴れたらしく、報酬のお金を少し使って簡単な食料を買うと、俺達はマティアさん宅に帰った。



ーーーーー



が。

俺の仕事は、夜にもあった。




「じゃあ、始めようか。レイラちゃん。」

「……………よろしくお願いします。」




ぺこりと頭を下げるレイラちゃん。

そう。今日は俺の家庭教師としての初めての授業日だったのだ!


それをしったのは帰ってきた直後のことで、俺は顔面蒼白で教材を作ったわけだ。

もちろんモフ太の魔力を使って、だが。

おかげで、帰宅から一時間後には俺の手元には数冊の教科書とノートが完成されていた。




「じゃあ、今日は座学からだね。」

「………ざがく?」

「勉強のことだよ。実技が魔法や武術を使うこと。」

「………わかりました。」




うーん……なんだろうこの溝は。

決定的な溝が俺とレイラちゃんの間にある気がする。


怖がらせないようになるべく優しい言葉を選びながら、俺はレイラちゃんとの授業を始めた。

そして、少しして気づいたことがある。



……………文字が、書けないのか。

しかも、一部文字が読めてない。



たどたどしく文字を移すレイラちゃんを見ながら、俺は頭をかき、思案する。

富裕層と貧民層の格差が激しいってのは本で読んだが………確かにこりゃあひどいな。

神様がだれか送りたくもなる。




「…………よし。レイラちゃん。」

「?」

「今日は教科書を見るのはやめて、一つずつ文字を書いてく練習をしよう。それで、明日、一緒に図書館に行こう!」

「と、しょかん?」




レイラちゃんがきょとんと首をかしげる。

俺が知ってる中で、最も文字を覚えるのに適していて、尚且つ知識も増やすことができるもの。それは【本】だ!


教科書をグダグダ読んでいても飽きるだけ。…………俺がそのように。


しかし、本は違う。

本は確かに文字ばっかりのもんもあってだるいかもしれないが、物語分野は最強だ。主人公とその他のキャラとの関係性、ストーリーを追うごとに変わっていく登場人物たちの感情の起伏の読み取り、ミステリーものであればヒントを集めて自らで事件を解決する楽しさ、そしてそれらを踏まえた上での作者が用意した最後のクライマックスでの驚き………。

これほど楽しいものはない。あ、ゲームは別だな。


だからこそ、本は読むべきなんだ。

文字を楽しく覚えることができる。それが素晴らしい。




「図書館に………行くんですか?」

「うん。で、その上で紹介しときたいやつがいるんだけど…………」




が、こんな時にやつがいない。

俺はレイラちゃんに一言断りを入れると、隣の部屋に入る。そして、ベットの上でのんびり寝ている毛玉をたたき起こして言った。




「お前に頼みたいことがある。」

『ふぇ?』




半分開いた黒目は、不思議そうに俺を見ていた。

俺の考えた最高のプラン、お前にも協力してもらうぜ。


ふっと笑う俺に、モフ太は目を開いてびくりと灰色の体を震わせた。








レイラちゃんの部屋に戻ると、彼女は律儀に勉強をしていた。

いやー、いい子だ。本当にいい子だ。


レイラちゃんは俺が部屋に入ったことに気づくと、びしっと背筋を伸ばした。




「そんなに固くならなくていいよ。」

「……………」

「……………それより、紹介したいやつがいるんだ。ほら、出番。」

『…………はあ。』




俺がそう言うと、頭の上からモフ太が降りてくる。

白い毛玉が机の上に降り立つと、レイラちゃんが目をきらりと輝かせた。




「わぁ………真っ白でふわふわぁ!………触ってもいいですか?!」

「うん。いいよ。」

「やったぁ!」




歓声を上げると、レイラちゃんはおいでおいでと手を広げる。

モフ太は素直にそれに応じ、レイラちゃんに撫でまわされる。




「ふわふわぁ…………」

「明日図書館に行くんだけど、ちょっと俺は途中で抜けるんだ。だから、代わりにこい…この子がレイラちゃんを守ってくれるから。」

「用事……ですか?」

「ああ。」




用事………それは剣の製作をしてもらうことだ。

きっと剣を作ってもらうのはかなり時間がかかるだろう。だから、そう思った俺は、図書館に行くついでに少しだけ抜けて剣の製作を頼んでからまた図書館に戻り、終わってから剣を取りに行く。


完璧な計画だ。


ちなみに鍛冶屋の場所は決まっている。マオさんにいい鍛冶屋を聞くと即答で教えてくれたからだ。

場所も丁寧に教えてくれたから、迷う心配もない。




「解りました………あの、この子の名前って………?」

「モフ太って言うんだ。」

『ボク女の子なんだけどね!!!』

「わぁ……男の子なんですね………でも可愛い!」




そういえば、慣れすぎて忘れていたけど、モフ太の声は普通の人には「キュキュ!」と鳴いているただの生命体でしかない。ま、別にこいつが女でも男でも白い毛玉の謎生物にしか見えないから大丈夫だろう。

この言葉の食い違いに、唯一二人の声をすべて日本語として受け取れる俺は苦笑を漏らした。




「よし。面通しも済んだし、勉強の続きをしよっか。」

「はい!」




心なしか、レイラちゃんとの溝が若干浅くなったような気がして、俺はもふもふの偉大さを改めて身に染みて実感した。



ーーーーー



次の日の朝。

無事マティアさんの承諾を受け、魔法大図書館にやってくると、レイラちゃんは「おお……」と感嘆の声を漏らした。




「図書館に来るのは初めて?」

「ううん……一回だけ来たことある…ます。」

「くすくす…言葉がおかしくなってるよ」




レイラちゃんの敬語も抜けかけてきていて、俺は小さく笑った。

早速席を確保すると、俺はモフ太に見張りを任せて物語の棚へ向かった。

もちろん、各本がどの棚にあって、棚がどの位置にあるかもだいたい把握している。物語関連の棚は一階部分の左奥一帯だ。

その中でも子供向けの本だと……あそこだな。


一番奥から三番目の棚へ向かい、俺は本を物色する。

そして、目ぼしいものを数冊とって、一冊レイラちゃんに手渡し、残りの二、三冊を俺が持って席へ向かう。もちろん途中で俺も読む本をとりながら。




「じゃあ、ゆっくり読んでいこうか。分からないところは俺に聞いて。」

「はい!」




まだ開館直後だからかそこまで人はいない。

笑顔のレイラちゃんを見てほっこりしながら、俺は本を開いた。






〈モフ太視点〉


…………はあ。

心の中で大きなため息をつきながら、ボクは目の前の光景を退屈になりながら見ていた。


時折レイラちゃんがリュウに質問をして、それにリュウが笑顔で答える。

そんな光景がもう数十分ほど、間隔をあけながら起こっている。


なんでこんなにイライラするのか分からないけど、もし感情を表に出せばリュウに悟られるし、言葉を発すればまたリュウに何か言われる。うぅ……イライラする!

今日はリュウが頭の上に乗せてくれなかったからテーブルの上での留守番だ。………固い。


ボクは悟られないように魔法を使い、ボクくらいの大きさの白いクッションを出した。

…………柔らかい。


ついつい寝入ってしまいそうだけど、もちろん我慢。

リュウの作戦(?)……というかレイラちゃんのために起きていないといけないから。近頃視線を感じるし、あまり気を緩めず、警戒を続けなくちゃ…………




「おい、モフ太。」

『!?なに?!』




急にリュウの顔がドアップでボクの視界に入り、ボクは跳ね上がる。

「何やってんだよ」と毒づかれながら、リュウは言った。




「俺、鍛冶屋いってくるから……レイラちゃんのことよろしくな。」

『あ、もうそんな時間………了解。寄り道しないでよね。』

「ハイハイ」




ふんっと小さく笑い、リュウはレイラちゃんに用事を済ませてくる旨を伝えて図書館を出て言った。

二人っきりになり、ボクは警戒レベルを少し上げる。

レイラちゃんはかなり真面目で、静かに物語を読んでいる。どんどん一冊にかける時間も減っていて成長していることが目に見えてわかる。


…………やっぱり、リュウは先生に向いてるや。


そんなことを考えながらクッションに身を預けていると、




「……………[意外と、その姿になじんでるじゃないか。]………」




その言葉で、ボクの思考はフリーズした。


そ、の………口調………。

毛の色が灰色になるのが視界の端で見えて、魔法が暴発していないことを確認する。




「[くすっ………ねぇ — ? お願いがあるんだ………]」




体全体が震え、()()()と同じ感覚がよみがえる。

レイラちゃんのはずの彼女は、もう彼女ではなくて。


彼女の目は、何もかも見透かす、あの「緑」の瞳に変わっていた。





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