謎生物と物理攻撃力
モフ太が消え去って、俺はクエストボードを探した。これでも前はRPGゲームのカンスト勢だ。(1つだけ)だいたいギルドにはクエストが書かれたボードがある。
思惑通り、入り口から少し離れた左側の壁に黒板サイズの大きなコルクボードが設置されていた。
「さて、な〜にかクエストは〜っと、」
ちなみに、全種族言語がある俺には、何語であっても日本語で書かれているようにしか見えない。
そしてその中で、俺に出来そうなクエストがいくつかあった。
【森のゴブリン討伐】と【鉱石採掘】、【森のオーク集団の討伐】、そしておつかいクエストが2つ。
でも、やっぱり討伐クエストは報酬が高い。
多分、もうモフ太は街に出たくないだろうし、おつかいクエストは却下だろうな。
そんなことを考えていると、涼しげな表情で、くつろいできたのだろうモフ太が帰ってきた。
『なんかあった?』
「ああ。それと、それと、それとそれ。」
『ふうん……じゃあボクこれがいい!』
それぞれのクエストの紙を指差すと、モフ太は少し考えてから【森のゴブリン討伐】のクエスト用紙を指差した。
なぜ?!
と感じたのは一瞬だけだった。ゴブリン討伐のクエストが、俺の指し示したクエストの中で一番報酬の金が高かったからだ。
「欲深いなぁお前。ちなみに1Gは何円なの?」
『うるさいなぁ別にいいじゃん!……1Gは100円くらいだよ。』
ふむ。ということは、このクエストの報酬5000Gは……50万?!すごいな……
頭の中で踊る一万円札を振り払い、俺はクエストボードから紙を剥ぎ取った。そして、ギルドの受付に持っていく。この世界では、クエストを受けるには、クエストボードに貼られたクエストの紙を受付に持って行って、登録をしてもらわないといけないらしい。
「このクエストを受けたいんですけど。」
受付嬢に紙を渡す。
それを受け取ると、その女ー名札に【マオ】と書かれていたーは俺を見て言った。
「冒険者登録はお済みですか?」
「あ、いやまだ、です。」
「それでは新規登録を行いますね。私の名前はマオと言います。どうぞよろしくお願いします。」
どうやらこのマオさんはよくいるハッチャケ系のキャラではないようだ。落ちついていて冷静だ。
彼女は手際よくカウンター下から一枚の灰色をしたカードと半紙程度の紙を取り出した。
「この冒険者ギルドでは、クエスト受理や冒険者登録を行ったりしています。冒険者登録を行うとクエストを受けることができます。登録をしなくてもクエストは出来ますが、こちらから渡す報酬をお渡しすることができません。
冒険者にはランクがあり、一番下がF、一番上がSSSです。もっとも、SSSランクはもちろん、Sランクの冒険者は片手で数えられる程しかいませんが。
これは冒険者カードです。ランクごとに色が変わります。Fランクは灰色、Eランクは緑、Dランクは黄緑、Cランクは青、Bランクは水色、Aランクは赤色、Sランクは白色、SSランクは白銀、SSSランクは黄金です。クエストの成果によってランクが上がっていきます。それでは、ここに必要事項を記入してください。」
マオさんは、さっき出した紙を俺の前に置き、ペンを取り出してその横に置いた。
その紙は、名前とかの個人情報を書くような異世界版履歴書みたいなやつだった。
俺はモフ太に教えてもらいながら埋めれるところを埋めておく事にした。どうしてそういうかというと、出身地や魔法適性とかも聞かれていたからだ。俺の場合出身地は日本という名の異国だし、魔法適性が0だから。
所々空白な紙を提出すると、マオさんは少し怪訝な顔をしたけれど、なんとか受理してくれた。マオさんやさしぃ。
「それでは、この冒険者カードに魔力を流してください。」
!?なん、だと…………
紙に書いた内容を何やら打ち込んだ後、マオさんはそう爆弾発言をした。
よし。これは仕方ない。
「あの、ちょっと待ってもらって良いですか?」
「???良いですけど………」
俺はマオさんに断りを入れてカウンター下にしゃがみ込む。
咄嗟に良い考えを思いつき、俺は小声でモフ太に話しかけた。
「モフ太、おいモフ太!」
『なぁにぃ……?』
「今だけ、共有、出来ない?」
『…………はあ!?なんで!?』
…………まあ、予想通りか。
「魔力を流せって言われてるんだよ。俺は魔力適性0だろ?だから、今だけリンクして俺に魔力かしてよ。」
『………………あのね、どうしてカードに魔力流すか知ってる?国を超えるときにの検問で身分証明するためなんだよ。後は領土外……魔獣がいる魔獣域に行くときに誰がいつ行ったか調べるため。あのカードはリュウ名義なんだから、そこにボクの魔力があったらおかしいでしょ!!』
「大丈夫。誰も見てなきゃさ。」
そろそろマオさんが怪しんでくるな。
俺はラストアタックを決めにいった。
「モフ太は共有が嫌なんだよな?」
『うん。もちろん。』
「じゃあ、俺がカードに触るタイミングでお前が俺の手に隠れてカードに魔力を流せばいいだろ?どうせこれからモフ太の魔力=俺の魔力的な感じになるんだからさ。このままだと、金は手にはいんないし、二人にも迷惑かけることになるぞ?」
『……………迷惑をかけるのはダメだよ…………分かった。そうするよ。』
よし。勝った!
ぐっ、小さくガッツポーズをすると、俺は立ち上がって不思議そうな顔のマオさんに笑って言った。
「お待たせしてすみません………………今からやりますね。」
「え、ええ……………」
『準備オッケーだよ!』
よし。
俺は黒い箱の上に載せられた灰色カードに手を重ねた。下にいる白い毛玉が、小さく俺の手のひらをくすぐってくるけど気にしない。
黒い箱に白い魔法陣が展開される。
けどそれは一瞬のことで、カードに吸い込まれるように魔法陣は消えていった。
「あの、これでいいですか?」
「…………………。」
おや?反応がないぞ?
マオさんは箱を見つめたまま呆然としていて動かない。
目の前でひらひらと手を振ると、はっと我を取り戻したようで取り繕いだした。
「は、はい大丈夫です!」
「?それならいいですけど…………じゃあ、カード貰っていきますね。」
了承を貰ったので、俺は箱の上からカードを取り上げる。
これでようやくクエストに行けるな。
そう思った瞬間。
突然俺の視界がぐにゃりと歪み、気味が悪いくらいにぼやけた。
辛うじてカウンターの線や、マオさんらしき人影が視える。
俺は、この現象を知っていた。
目の近くを何かがこすり、カラン、とその何かが落ちる音がした。
ぱちぱち、と瞬きをする。
………何も、変わらない。
その時。
モフ太が言った。
『ごっ、ごめんリュウ!メガネ、おとしちゃった!』
その言葉に、俺は少しだけ眉根を寄せた。
俺はかなりの遠視だ。メガネがないと、全体的に物が見えない。
メガネを探そうと床にしゃがみこむと、手に冷たい感触があった。
『はい、これ。ごめんねリュウ………上に登ろうとフレームに足をかけたらそのまま落ちちゃって…………』
「あ、ああ。サンキューモフ太。」
手探りでメガネを掴むと、俺はそれをかけなおす。
すると、ぼやけていた視界が一瞬にしてクリアになる。
そこには、顔を真っ赤にしたマオさんの姿があった。
…………え?なんかあったの?
まったくもって身に覚えがないので、一応俺は聞いてみた。
「あの……なんかあったんですか?」
「え、あ、いや……な、んでもない………です。」
たどたどしくそう言うと、マオさんは突然いつも通りの笑顔で言った。
「では、お気をつけていってらっしゃいませ!」
「あ、はい……………」
な、なんか急にキャラ変わってね?!
どこぞのメイドカフェの店員かよ………
と思いつつ、俺は苦笑いでギルドを出た。
マオside
び……ッくりしたぁ……
カランコロンとドアのベルが鳴って、彼がギルドを出ていった。
私は貼り付けていた愛想笑いをはがし、思わずカウンターの下にしゃがみこんだ。
ドキドキとうるさい心臓を服を掴みながら押さえつける。
最初は地味な男だけだと思っていた。
大きな黒いメガネにくせのある髪。服もあまり見たことないものだし、頭の上には白い毛玉みたいなのがついているし。
だから、私はいつも通りのしゃべり方で対応していた。
だけど。
冒険者カードに魔力を流してもらったあの時。魔法陣が白かった。
あまり知られていないことだけど、魔法陣はその人の魔力の高さによって色が変わってくる。それを参考に冒険者カードの色が決まっているから。普通の冒険者なら青か黄緑に光るし、実際今までそうだった。私もそれくらいだし。
でも、彼の魔法陣は白……つまり、簡単に流してもらっただけでもSランク相当の魔力があるということ。
……………これは、一応ギルマスに報告しておかないと。
ふう、と一息ついてから立ち上がった私に、彼の顔が浮かび上がってきた。
キリリとした黒曜石のような黒い瞳。その瞳と同じ真っ黒な髪が、白い肌に映えて綺麗だった。どこか幼さの残るその顔立ちに、再び私の顔は熱を持った。
ああもう!こんなこと気にしてちゃダメ!
ふるふると頭を振って、あの人の顔を消すと、私はギルド奥のギルドマスターがいる部屋に向かった。
「クシュン!」
『大丈夫……?風邪ひかないでね………?』
「らいじょぉぶだよ……………んじゃ、外いこーぜ。」
『……………了解。………といいたいとこだけど、外門の場所、知ってるの?』
ぎくっ、と肩を震わせ、俺は歩みを止めた。
が、外門………知らねぇ。
じとーっとした目で、腕に掴まるモフ太が睨んでくる。
少し考えた後、俺は小さく口角を上げて言った。
「てへっ☆」
もちろん、この後俺のほっぺに小さな赤い痕がついたのは言うまでもない。
そして、俺はモフ太の案内によってなんとか外門にたどり着くことができた。
外門は、フランスの凱旋門くらいの大きさで、俺が横に設置された石の台にカードをタッチすると、ゆっくりと開いた。俺は毛玉の手にしては痛かった痕を少しさすりながら、初めて王都から外へ出た。
ーーーーー
『そういえば、リュウは自分のステータスみたことあるの?』
「…………そう言われりゃ、ないな。」
かといって、鑑定眼が自分に使えるかどうか分からない。
だけど、まあ試してみる価値はある。
鑑定眼は、俺が意識することと、鑑定する人の体の一部を見る必要がある。もちろん、そのことはここに来るまでに実証済みだ。
ということで、俺は自分の手を目の前に出し、鑑定眼を向けた。
【リュウ(リョウタ・キリュウ)】
種族:人間(転移者)
年齢:16歳
誕生日:ノベルの月24
武力:200000
魔力:0
知力:∞
固有スキル:完全記憶、全種族言語、瞬間移動、鑑定眼
魔法適正:無し
冒険者ランク:F
…………おや?
なんだあの武力の数字は?に、じゅう万?
大概異世界転生とかしたキャラがチート並の能力貰うのがテンプレなのは良くわかるけど(俺もそうだけど)、あの武力の数値はおかしくないか?ま、あ、魔法が使えないのがその代償ってことなら分からなくもないけど………
『リュウ?どうかしたの?』
「……………なあ、モフ太。俺のステータスが意味わからないんだけど?どういうこと?」
『???』
ハテナマークを浮かべるモフ太に、俺は地面にステータスをそっくりそのまま書き写した。
しばらくそれを見ていたモフ太だけど、大きなため息が、俺の耳に届いた。
『い、み分かんない………なんなのこの数字………』
「あのさ……一応モフ太のステータスも見てもいい?」
『………いいけど、気絶しないでね?』
気絶、だと?
どれだけ規格外のステータスか覚悟しながら、俺はモフ太に鑑定眼を使った。