謎生物と戦利品
外に出ると、心配そうにこちらを見るレイラちゃんと仕事帰りのマティアさんがいた。
マティアさんは、俺の背後にあるゲートを訝し気に見ながら言った。
「あの……その穴は…………」
「気にしないでください、これはアグリさんの仕業なんで。」
俺の言葉にぽかーんとする二人を連れて、再び俺達は空間の中に入る。
シードラゴンのドロップ品は回収済み。後で二人にも渡すつもりだけど、まずはあの魔法反応からだ。
きっとまた別の空間への入り口だろう。だって、部屋にあった入口の色と同じだからな。
「わっ……ひろぉい!」
「ここは…………まさか!」
「ああ、そのまさかです。」
俺はゆっくりと歩きながらもう一つの出入り口に向かう。
レイラちゃんは珍しそうに、さっきからひっきりなしに辺りを見回している。
口元を手で隠すマティアさんに、俺は笑って言う。
「ここは、アグリさんが二人のために使った、最後の魔法ですよ。」
ーーーーー
二つ目の入り口があったのは、まさに、アグリさんの部屋から通じる一つ目の入り口の真反対に当たる場所だった。
一つ目の時と同じように、レイラちゃんが手を触れる。
ただ、さっきと違うのが、ゴゴゴゴ……という地響きの音とともに、大きな扉がせりあがってきたことだ。
なんだあれ。
『ひょえー、空間魔法ってほんとすごいねー!』
「感心してる場合かよ!ほんと呑気だな。」
にひひ、と笑うモフ太をぽこりと殴って、俺は扉に手を触れる。
その瞬間、ぴりっ、と弱い電流が俺の体の中を走った。
いって!こっちにも防犯システム効いてんのかよ!
右手をぶらぶらとさせて痺れをとっている間に、マティアさんが扉のとってに手をかけた。
今度はぎぃーっと音をさせながら扉は開く。
「………ウソ………」
「すごい、すごーい!いっぱい金貨があるー!」
そんな声を聞いてちらりと中をのぞいて、俺はすっかり目をみはった。
特にモフ太はきらきらと目を輝かせて。
なんせ、中には文字通り金銀財宝の山があったからだ。
例えるなら、よく海賊の宝って表現される金貨の山。まさにあれそっくり。
そりゃあモフ太がよだれを垂らすわ。
「たぶんここ、アグリさんの貯金箱みたいなもんだったんだろうと思います。これまで稼いできたクエストの報酬をずーっとここに貯めておいたんでようね。ゲートの解放条件やらシードラゴンやら扉の電流やらは、全部ここのお金を不審者とかに盗まれないようにするために。」
事実、この部屋に俺達が入れないのもその証拠だろう。
どうせシードラゴンは無理やり引っ張り込まれて警備させられてたんだろうし。
ある意味シードラゴンが一番の被害者かもな。
『あのお金があったら、おうちたてられるよ…リュウ!』
「お前みたいなやつから金を守るためにアグリさんはシードラゴンまで使ったんだよ。」
ぐふふ、と気味の悪い笑いをするこの毛玉は本当に神様の使いか?
金銭欲にまみれてんぞ。
「あの、リュウさん!」
すると、いつの間にか部屋の外に出てきていたマティアさんとレイラちゃんが、きらきらとした瞳でこちら見ている。しかも、満開の笑顔で。
「本当に、ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
ぺこり、と頭を下げ、二人はそう言った。
白い空間に二人の声がこだます。
いや、俺はそこまでたいそうなことはしてないし、シードラゴンだって倒したのはモフ太だし。
「いやいやいや、俺そんな大したことはしてないですよ?!」
「なにをおっしゃいますか!レイラに勉強や魔法を教えていただき、それにこのお金があればレイラを学校に行かせてあげられます!本当にありがとうございます!」
おお、学校か……!
にこにこと笑うマティアさんを見ていると、俺はとてもほっとした気持ちになる。
「お母さん、私、学校行けるの?」
「………レイラは行きたくない?」
「ううん。行きたい!私、学校に行きたい!」
嬉しそうに飛び跳ねるレイラちゃんに、涙を流しながら頭をなでるマティアさん。
………なんだ、超絶ハッピーエンドじゃん。
それにしてもアグリさんはめんどくさいことしたよな。こんなところに全財産隠しやがって。おかげで二人は大変な思いしてたんだからな。
それにあのシードラゴン、もし気づかずに二人が入ってたらどうするつもりだったんだ?いくら弱ってても戦闘ができない二人には難しい相談だぞ。
「それにしても、よかったですね二人とも。これでひもじい思いをする必要はないですよ。」
「何もかもリュウさんのおかげです。何度感謝してもしたりません。」
こうして俺たちは、無事二人の親子をハッピーエンドに導くことができたのだった。
まあ俺がしたことといえば、レイラちゃんに勉強と魔法を教えて、シードラゴン倒して、アグリさんのお金見つけたことくらいだし。
『ね、リュウ。あのお金どうにか貰えないかな。』
「あーのーなぁー、あれはマティアさん達のお金だぞ。それくらいはわきまえろって。」
「いえ、これまでのお礼も兼ねてお渡しいたします!いくらくらいがよろしいですか?」
『三分の一とか……』
あほか。
邪魔な毛玉は無視して、俺はマティアさんに全然いらないことを伝える。
だって、あれはアグリさんが二人のために貯めていたお金だし。貰うのはなんだか気が引けるし。
俺の右肩の上でぶーぶー不満をたれる毛玉はさすがにちょっと欲張りすぎだ。
「ですが、それはちょっと私としても心苦しいんですが……」
「でも、なんか悪いんで………」
申し訳なさそうに下を向くマティアさんに悪い気もするけど受け取るわけにはいかない。
「とりあえず、ここからでませんか?お金は必要な時に取りに来るってことでどうでしょう?」
「………そうですね。レイラ、ここをでよっか。」
「はーい」
白い空間を戻り、俺達はアグリさんの部屋に帰還する。
お金は少しずつ持って帰ることにしたらしく、二人は今は、何も持って帰ってきていない。
ふいー、なんかめっちゃ疲れたなぁ……なんか肩の荷がおりたっていうか。
ってか、なんで俺は異世界に来ていきなりドラゴンと戦ってんだよ。展開にしては早すぎるだろ。
今まで俺がしたことといえば、図書館で本読みまくって、なんかカテキョして、ゴブリン倒して、そんでドラゴン倒しただけだぞ?
なんだこれ。
異世界転移というか異世界転生系のテンプレといえば、エルフ耳とかケモ耳美少女の冒険者と出会って一緒に旅して、そのままハーレム創造の流れだろ!
それなのに、共に旅しているやつといえば、一人称がボクのただの白い毛玉だし。
しかもこのもふもふは金の亡者だし、謎に魔法特化だし。地味に欲まみれだし。
………とんでもない異世界転移だな、ほんとに。
『ねぇリュウ』
「なんだよ、モフ太。」
二人の後を追って一階に降りていると、モフ太が肩元でそう鳴いた。
ちらりとそちらを見やると、ジト目のもふもふは言った。
『………ものすごぉく失礼なこと考えたよね。』
「気のせいだろ。」
まあその通りですけどネ。




