謎生物とメガネ男子
誤字などありましたら、お知らせください。
『夏祭りなう!優香の浴衣むっちゃ可愛いよっ!もったいなーい(笑)今から来れば花火見れるし、涼太もおいでよ~』
わざわざ写真添付されて送られてきたメッセージアプリのメッセージを一瞥して、俺はスマホと共に右手をベットの上に下ろした。
写真には三人の少女達が写っていて、右端にカメラを持っていたとされる夏樹、真ん中ではにかむ優香、綿菓子を食べる桜。桜以外の二人は浴衣を着ていて、背後では屋台を花火が上がっている。
俺ー桐生涼太ーは、愛用している度の入った黒縁メガネを外すと、空いていた左腕を目に当てた。
………んなこと言われても行くかよ。
口から大きなため息が漏れる。
外からは小さな花火の音が聞こえてきた。
眼鏡をはずすと、ほとんど物が見えない。眼が悪いのは小さいころからずっとだった。
いつもならぼやけているけれどみえる天井は、照明を切っているからか真っ暗で全然見えなかった。
…………夏樹のやつ、今頃にやにやしてるんだろうな。俺が行くかどうか迷っていると思って。
不名誉な気分がしたので、俺は手探りで眼鏡を探すと、付けなおして俺はメッセージアプリを起動させてから、意地の悪い幼馴染に返事を返した。
『行かねぇよ。女三人衆で楽しんでこい。』
すると、十秒とかかる前に既読がつき、しばらくしてポコン、と音がしてスタンプが送られてきた。
それはウサギが両手を腰に当てて怒っている絵だった。
とりあえず俺はそれを一瞥してベットから立ち上がった。
よし。何か買いに行ってくるか。
机の上から財布を取ると、玄関を開けて近くのコンビニに向かった。
マンションから外へ出ると、あちらこちらでぽつりぽつりと浴衣姿のリア充が目に入る。
花火はもう終わったのかな。
そんなことを考えていたら、楽しそうに花火を見るあいつらの姿が思い浮かんだ。
…………いや、いい。別に気にする必要はない。
俺は頭を振って雑念を追い払う。
と、その時。
「ッキュウウウウウウウウウウ!!!」
「っ!いってっ!」
突然俺の頭に"何か"が落下してきて脳天を叩いた。周りの奴らは何事かと俺のほうを見てくる。
うげっ…………ったく、なんなんだよ…………
何が落ちてきたのかと頭をがりがりとかく。
すると、ふいに髪の毛の質感とは違うもふもふとした感覚が俺を襲った。
ぞわり、と体が震える。
そのまま、俺はそのふわふわを掴んで、恐る恐る下へと下ろす。
レンズ越しに映ったそのふわふわは、俺の思考を破壊するには十分すぎた。
ーーーーー
慌てて路地裏に逃げ込んだ俺は、ずれ落ちた眼鏡を直してもう一度掌の中の白いモフモフを凝視した。
「キュ?」
そう小さく鳴いたもふもふは、黒曜石のような小さな瞳で俺を見つめてきた。
っぐは……………
な、なんなのこの生物…………
軽く悩殺されながら、俺はそいつに問いただした。
「………お前、何者?」
「キュ!キュキュッ!!」
………………。
な、なんて言ってんだ?
そう思った瞬間、俺の脳内でその言葉が文と声として変換された。
"ボクはキミを迎えに来たんだ!"
「…………はあ?!」
「キュキュゥ!キュキュキュッ!」
"今からリュウにはボクと一緒にクレイドールに来てほしいんだ!"
今度は時間差なく言葉が文に変換される。
はあ?!く、くれいどおる?意味わかんないんだが…………
すると、もふもふが小さく笑ったように見えた。
次の瞬間。
「キュゥーーーーーー!!!!!」
「おわっ?!?!」
そいつが甲高く鳴き声をあげ、白い体毛が金色に光り輝く。
気が付くと、俺もその光に吸い込まれてしまっていた。
いや……意味わかんないんだがぁ!!!!!!
気が付くと、俺は見知らぬ街にいた。
日本というよりは外国よりで、ラノベによく出てくる異世界チックな感じだな。
………って、いやいやいやいやいや!冷静に判断してる場合じゃねえ!
手のひらに乗っかって、もうあの金色に光っていない白いモフモフに問いかけた。
「おい、ここどこだよ!説明しろ!」
「キュキュキュ。」
"ボク、説明したよ?クレイドールに来てもらうって。"
いや、知らねぇよ!
むすっとした表情をするモフモフと睨み合う俺。
だけど、ここで睨み合ってても意味がないから、近くの公共施設を思わしき場所に入った。
白い博物館のような外見のその大きな建物はどうやら図書館だったようで、中にはたくさんの本棚が所狭しと並んでいた。
人気の少ない列に行くと、俺は小声でモフモフに言った。
「じゃあ、改めて詳しく説明してもらおうか。」
「…………キュキュッ。」
"…………分かったよ。"
あきれたようにため息をついてから、モフモフは話し出した。
もちろん長くなったからかいつまんで説明すると、
モフモフは、今俺がいる異世界【クレイドール】の創造神アスティリオスの使徒で、そいつに言われて俺をこの世界に転移させたらしい。しかも、その理由が「この子面白そうだから喚んできて!」だそうだ。迷惑千万も甚だしい。
このクレイドールっていう世界は他のラノベ異世界と同じように科学じゃなくて魔法が発達した世界。もちろん龍もいるし、エルフや人魚やユニコーン、獣人もいる。
そんで、俺が今いる街がいわゆる王都。名称は【アスティ】。
国は他にも5つあって、金鉱の盛んな【ラディ】、
国の大部分が森の【ファリィ】、
唯一海に面している【シーラス】、
獣人がたくさんいる【アニア】、
そして、悪魔や魔獣がうじゃうじゃいる【ディモン】に分かれている。
街の名前は神様の名前を取っているらしい。
どおりで王都がアスティなわけだ。
『っていうことだよ。で、今いるのが聖・国立魔法大図書館。クレイドールで最も大きい図書館だよ。』
「ほお…………」
目を細めながら、俺は我ながらの記憶力に驚いていた。
まるで何かを見ているかのようにさっきの話をすっかり覚えている。
すると、モフモフが俺の思考を読んだかのように言った。
『あと、アスティリオス様がリュウのために四つの固有スキルを用意してくださったんだ。』
「……固有スキル?」
『うん。ボクは【大精霊魔法】、【絶対防壁】、【神話】、【想像】。リュウは【完全記憶】、【全種族言語】、【瞬間移動】、【鑑定眼】の四つだよ。リュウがボクと話せてるのは【全種族言語】のおかげなんだ。』
まあ、内容がスキル名に反映されてる気がするから詳しくは聞かないけど、確かに俺は前の世界でかなり記憶力がよかった。それが反映されたんだろうな。
だが。
モフモフに教えてもらった情報じゃ足りない。
せっかくならこの世界の情報全部叩き込んでやる。せっかく【完全記憶】なんてスキルを与えてもらったんだからな。
そう決めると、俺はモフモフに言った。
「じゃあ、これからここの本全部頭に叩き込むわ。」
『ぜ、全部?!』
「おう。だから、お前はどうするモフモフ…………」
そこまで言ったところで、俺はあることを思い出した。
「そういえば、お前の名前知らないな。なんていうの?」
『ぼ、ボク?……ボクは■×@¥$”*}>#>だよ。』
……………は?
ほとんど奇声としかとれなかったその名前に俺は唖然とした。
すると、しょんぼりした表情でモフモフは言った。
『ボクの名前はアスティリオス様が直々につけてくださった神名で、いくら全種族言語があっても通訳出来ないと思う……言えるのはボクとアスティリオス様くらい。』
「ふうん……でも言えるっちゃいえるよ?マジ奇声だけど。」
『じゃあリュウが付けてよ。』
黒曜石の瞳が俺を見つめる。
うぅん……いい名前あるかなぁ…………
少し思案した結果、俺は提案した。
「モフ太郎、とか?」
『却下。』
安直な名前を告げると、いらっとした声で言われた。
「ん~………それじゃあ縮めて『モフ太』とかは?」
『…………さっきよりはましだけど………まず根本的に、ボク、一応「女」なんだよ!?』
……………。
今度は半泣き声で言われた。
へぇ。
モフ太って女の子なんだ。
「じゃあ、モフ太は結局何してる?」
『す、スルー?!』
いや、気にしたところで白いモフモフがあって男か女かわかんないし。
なんか、モフ太が一番言いやすい。一人称「ボク」だし。
近くの棚から十冊ほど本を抜き出してから、俺はもう一度モフ太に聞いた。
「で、どうするの?」
さすがにあきらめたようで、モフ太は俺の肩からよじよじと頭のほうへよじ登って、髪の中に体をうずめると言った。
『………頭の上で寝てる。落ちる心配はないよ。魔法かけてるから。そんなに重くもないから気にせず本読んでて。』
「おう。了解。」
そう答えてから少しして、頭の辺りから小さな寝息が聞こえてきた。
俺はどこか気が抜けて、小さく笑ってしまった。
向こうの世界では、そこまでアウトドアではないけどインドアでもない中間位置を取っていた俺は、本を読むのは普通に好きだ。だけど……………
「…………こまかっ…………」
俺の小さなつぶやきが、いつもと変わらないようで全然違う図書館に吸い込まれていった。