後編
「ん? さとセンセ、どうかした?」
「な、何でもないよ! そ、それよりも。そろそろ離してくれない?」
そう。未だに僕は香宮君に抱き込まれたままだ。何か落ち着かない。
「えー、さとセンセーあったかいし、このままでも問題ないでしょ?」
「いやいや! あるから! それに誰か来たらどうするの!」
「んー、俺達の仲の良さを見せつけちゃう?」
ニヤリと悪戯っぽく笑う香宮君の額をペシッと叩き『保険医と生徒の仲以外に見せるものはないから』と告げ、何とか腕の中から抜け出した。
「ちぇっ、つれないなー。でも―…」
香宮君がローファーを拾い上げ、来た時と同様窓枠に手を掛け――…
「ねぇ、さとセンセー?」
逆光になっているから表情は見え難いけれど…僕に真っ直ぐ視線を向けているような気がした。
「俺、本気だから。それだけは覚えておいてよ」
「な、にを―…?」
口からは、たどたどしくも勝手に香宮君に問い掛ける言葉が出ていた。
「オイオイ、さとセンセー? 本当に解ってない訳? まあ、ね。先生鈍そうだし? 一度ちゃんと言っておくかね」
そう言うと。香宮君は、ちょいちょいと僕に手招きをし、僕は彼の前まで足を進めた。
そして、彼は僕の耳元に内緒話をするように口を寄せてくると――…
「俺はね、佐藤先生の事が好きだよ…――大好き」
そう囁き、僕の頭を手のひらで引き寄せると、僕の頬にチュッと軽いキスを落とした。
「じゃ、またね? さとセンセー」
ひらり、と。窓枠から降りて、香宮君は夕焼け空の下帰って行ってしまった。
「なっ、ななな!!」
(いいい今の何!! いや、解っているけど!?)
…――その日以来。香宮君を見掛けたり、香宮君が保健室にやってくる度。
僕の胸の鼓動が早くなってしまう事。彼を目で追ってしまう事。笑っている顔を見ると嬉しくなる事。その原因と理由を。
(あああ、もう。本当にどうしよう――…)
僕はいっそ彼に告げてしまうべきか、彼の事を考え、大人として告げないままでいるべきか。
そんな事を考え悩み始めるのだった――…。
ここまでお読み下さりありがとうございました!!