level7
―言葉を飲み込むのに少し時間がかかった。
しかし、ジジイの言った言葉は俺の胸に刺さる。
そう、この世界は、魔法や異形の存在する世界なのだ。
客観的に考えて、
“異世界から転生して来た”
という可能性と、
“記憶を改竄された”
という可能性ならば、どちらの可能性が高いのかは言うまでも無い。
俺はジジイの言葉を否定する事が出来ないのだ。
「…頭は悪く無い様じゃのう。もう少し喚くかと思っておったが。」
「…成るべく事実を客観的に受け入れようとしているだけですよ…。現状貴方の言葉を否定するより、その可能性を考える方が有意義だと言うのも有りますが…。」
そう言って俺は考え込む。
今までの人生は全て嘘だったのか?
今まで居た、沢山の彼女達も、馬鹿をやった友人達も、本当は居なくて、俺はただの化け物だったのか?
押し殺そうとしても、自分への疑いは晴れる事無く俺の心を覆う。
「…まぁ、お前さんが化け物に襲われて右腕を失ったのは事実じゃと思う。
着ていた服に歯形が残っておったからの。」
そう言われて、はたと気付く。
そう、俺はこのジジイに助けられたのだ。
記憶の改竄が瞬時に行えるなら手詰まりだが、俺が起きてからの記憶は信用出来るかも知れない。
更にジジイは続ける。
「お前さんの話を聞いて、
ワシが最も違和感を覚えるのは、お前さんの話を聞けていると言う事実じゃ。
異世界から来たならば、何故この世界の言葉が分かる?。」
「――――!」
そう、そうなのだ。
俺はジジイと話が出来ている。
「…確かにお前さんは特別な存在なんじゃと思う。
普通はレッサーヴァンパイアなんぞに強力な回復力や知性なんぞ与えんからのぅ。
しかし、じゃからと言って“異世界から来た”なんて世迷い言を鵜呑みには出来ん。
それならば、お前さんを作った“真祖血族”が戯れに記憶を改竄し造り出した存在と考える方がよほど現実的じゃ。」
…そうなのかも知れない。
“真祖血族”と言うのが何かは分からないが、恐らくヴァンパイアの上位の存在なのだろう。
そんな存在の名を出し、『異世界から来たと言うより現実的』と口にする以上、この世界に於いても異世界転生の可能性は極めて低いはずだ。
俺は冷静に考え、その事実を受け入れようとし―
そして一つの可能性に気付いた。
「ご老人!」
「…タナスじゃ。
タナスアート=ラファガと言う。」
「僕は井上智也と言います。
これまでの話を理解した上で幾つか質問したいのですが、宜しいですか?」
「…構わん。」
俺は自分の考察を確かめる為に、ジジイ改めタナス老に質問をした。