level53
『ゾロ○先生は牝なんだべか?』
―ゴスッ―
俺はイシーシの言葉にスッ転び、頭を木にぶつける。
俺達は食べ物を探しながら森を歩いていたのだが、殺されないと分かり安心したイシーシはそう訊ねて来たのだ。
因みに右の牙が発達しており、若干力強い首領猪をイシーシと名付け、左の牙が発達しており、若干器用な首領猪をノシーシと名付けたのだ。
「…てめぇら…こんな超絶イケメンが牝に見えるのか…?」
全く、無礼な奴等だ。俺は女では無く、超絶イケメンなのだ。女は主食であり、性別では無い。
『ん~…。分かんないだよ。
○ロリ先生と同じ種族なんて見た事ねぇし、ご飯さくれる言うから、乳が出るんだと思ったんだべ』
『んだんだ。じゃあ、ゾロ○先生は雄だども乳が出るだか?それとも、乳さ出る牝を知ってるだか?』
…論理的思考が出来ている…やはり賢いな。
若干の差異はあるが、二匹共高い知能を持っている。
師匠の書庫に、高位の干渉を受けた個体以外で、こんな賢い猪が居るという記録は無かったし、魔獣の生態を記した本にも書いて無かった。
まぁ、師匠の家に無かっただけで、他の場所…例えば国営の図書館なんかには、そんな記録が有るかも知れないが。
「…悪いが乳は出ないし、牝に心当たりも無い。だから他の食い物を探してる」
『そうなんだべか!?だども、オラ達母ちゃんの乳以外食べた事無いべ!?』
『そうなんだべか!?だども、オラ達も自分が何を食べれるか知らないんだべ!?』
困惑する二匹の首領猪。確かに生後一ヶ月程度と推測される奴等は今だに離乳期を迎えてはいない筈だが、俺は母乳なんて当てがない。
しかし、進化種であるコイツらは、既に立派な歯がはえている。普通の食料でもいけるだろう。
「…大丈夫だ。俺はお前達の種族が何を食べれるのか知ってる。それに最初に食べる飯は、比較的お前達の母乳に似た味がする筈だ。…多分な」
『『ゾロ○先生凄いべ!!』』
「ハッハッハ!!もっと褒め称えても良いぞ?」
『『ゾ○リ先生バンザイ!ゾロリ先生バンザイ!!』』
「ハッハッハ!!」
いや~!実に気持ち良い!
相手が猪とは言え、やはりちやほやされるのは最高である。そう言えば、異世界に来てちやほやされたのはこれが初めてだ。異世界と言えば都合の良いアバズ○ビッ○がわんさか居て、勝手に俺に惚れて行くと思っていたのだが、そんな都合の良い話は無いらしい。
まぁ、この世界の神は人格的存在では無く、現象的存在なのだから、異世界チーレム物みたいには行かないか。
そんなこんな話をしていると、俺が目指していた場所に着いた。
「着いたぞ。ここだ」
俺達の目の前には、倒木が等間隔で並んでいる。
ここは3年前に俺とビィが倒した突撃猪が、俺を追って木を倒しまくった場所だ。
目の前の木は、倒れてから数年経過し、綺麗に朽ちている。
俺の予想通りならばアレが居るだろう。
『…着いたぞって、ゾロ○先生。ここには何も無いでねぇか』
『んだんだ。木さ倒れてるだけでねぇか』
不満を訴える二匹だが、俺はそれを無視して倒木に近寄る。
『『どしただゾ○リ先生?』』
同時に疑問符を浮かべる二匹の前で、俺は彼等に見やすい様に倒木の表面を剥がした。
『『~~!?』』
二匹の顔には驚愕が浮かぶ。
そこには15㎝程の幼虫が所狭しと並んでいた。
「大王髪切の幼虫だ。さぁ、食え」
“大王髪切”
“堅牢王アルハンブラ”の中位眷族だ。
成虫に成ればその体躯は5メートルにも成り、その強固な触角をムチの様にしならせ、周囲の物を切り刻む。
甲殻も硬く、まともに戦うには骨の折れる相手だが、成虫に成れる個体は少なく、大半は幼虫のまま死んでしまう。
この森には定住していないが、時折産卵の為にメスが来る事があり、俺は一度この周辺で見た事があった。
当たりを付けて来たのだが、どうやら大当たりだった様だ。
俺は自分の超絶イケメンな推察力に酔いしれていたのだが、そんな俺を、つんざく様な悲鳴が襲う。
『『キャ~~ッッ!!イヤァァァァッッ!!気持ち悪いベェェェッッ!!!』』
…なん…だと…!?
『気持ち悪いべ!!なんだべかその気色悪い幼虫は!!そったら物食べれる訳が無いべ!?』
『んだんだ!そんな物食べ物じゃ無いべ!!ゾロ○先生、オラ達を騙しただか!?』
口々に不満を上げる猪達、超絶イケメンがこれ程の労力を裂いて探してやった飯に不満があるとは…。
まぁ、仕方無い。進化種とは言え、奴等は正に乳飲み子なのだ。ここは大人の対応だ。
そう思った俺は、紳士にパロ・スペシャルとスピニング・トゥーホールドを極め、二匹を黙らせた。
『関節が…!!関節がぁぁぁっっ!?』
『変な方に…!!変な方にぃぃぃぃ!?』
「よし、大人しく成ったな。次に俺を怒らせたら阿修羅バスター極めるからな」
『『ひぃ~~ッッ!!』』
そう言って叫ぶ二匹の前で、俺は一匹の幼虫を掴み、そして口に入れる。
『『~~ッッ!?』』
驚愕する二匹の首領猪。俺の食性は“魔族全般の体液”なのだ。当然この幼虫も食べられる。
栄養と成るのは体液だけだが、わざわざ種族技能である吸命で体液とそれ以外を選り分けなくても、そのまま食べてしまう方が費用対効果が良い。
…少し物足りないが、結構旨いな。栗カボチャのポタージュスープみたいだ。
この体に成って、変化した味覚に感謝せねば。
『うわぁ…本当で食べてるだよ…』
『えんがちょだべ…』
「よし、阿修羅バスターだな」
『『待ってけれ!食べるだよ!食べさせて頂くだよ!!』』
最初からそう言え。
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「んで、お前らどうやって進化種に成ったんだ?」
そう言って俺は二匹に疑問をぶつける。
あの後、結局二匹は大王髪切の幼虫を食べ、今は少し横に成って休んでいる所だ。
最初はおっかなびっくり口にしたが、その味を気に入ったらしく、凄い勢いで食べ始めた。
全て平らげる勢いだったが、それをするともう産卵に来る成体が居なくなるかも知れない事を教え、なんとか抑えさせたのだ。
『…分かんないだよ…』
イシーシはそう言い、ノシーシは頷いている。どうやら嘘はついていない様だが、しかし理由も無く進化種に成れる訳が無い。
もう少し詳しく聞いて見るか…。
「…じゃあ、お前達が進化したのはいつだ?最近の事だとは思うが、可能な限り詳しく知りたい」
『それなら簡単だべ』
『んだんだ。昨日の夕方だべ』
…昨日の夕方…?…まさか…!?
『昨日の夕方に二人で森を走ってたんだべ。森の中さ怖い龍が出て、母ちゃんも他の兄弟も殺されたんだべ』
『んだんだ。オラ達は逃げる為にとにかく走り回ってたんだべ。そしたら何でか分からないだども、急に存在力が上がって、色んな事が分かる様に成ったんだべよ』
「…森の南西にある、渓谷の近くか…?」
『方向までは分からないだども、渓谷の近くだったべ』
『んだんだ。崖が見えたべ』
…間違い無いな。納得がいった。
コイツら、俺が倒したオーデンヴァルトの経験値で進化したんだ。
そう、あの時に俺が放った矢は間違い無く奴を葬った。しかし、その後に直ぐ俺は倒れてしまい、経験値の回収は出来なかったのだ。
コイツらは偶然そこに居合わせ、そして経験値を受けた。
生後一ヶ月程度の弱いアストラル体だったコイツらは、オーデンヴァルトのアストラル体の影響を強く残してしまい、高い知能を持った状態で進化・安定し、今に到ったのだろう。
まぁ、オーデンヴァルトは軍勢を支配する力に特化しており、他のSSの連中程の経験値は無かっただろうが。
「…まぁ、大体の理由は分かった。でも、どうしてお前達だけ助かったんだ?他の兄弟達は殺されたんだろう?」
そこも不思議だった。乳飲み子のコイツらが、真っ当な方法でオーデンヴァルトから逃げ切れるとは思えない。何か理由が有る筈だ。
『んだ。オラ達も殺されそうに成ったんだけんども、そん時に強い鬼が出て来てオラ達を助けてくれたんだ』
『んだんだ。オラ達を庇って、体に穴さ開いてしまったども、必死に逃がしてくれただよ…』
―――――!―――――
『んで、今日に成ったらあの悪い龍さ居なくなってて、そんで進化した力を試してたんだべよ』
『んだんだ。そしたらゾロ○先生と会ったんだべ』
「…そうか」
そう言って俺は少しだけ空を見る。どうやらこの出会いは、心優しき我が友の導きという事らしい。
…アイゼン、やっぱりまだまだお前には勝てそうに無い。
『どしただゾロ○先生。凄く嬉しそうな顔して?』
『どしただ○ロリ先生。凄く幸せそうな顔して?』
俺は口元を抑えて、二匹の猪に向き直る。
「何でも無い。その龍の化け物はな、お前達を助けたオーガが倒したんだ」
『『そうだったんけ!?』』
「あぁ。俺も何度か戦った事が有るが、一度も勝てなかった。まぁ、奴は龍を倒した後に森を去ったがな」
『『へぇ~~!!』』
感心した顔をする二匹。
俺はその様子を見て決意する。コイツらなら、間違い無く適任だろう。
「イシーシ、ノシーシ…。
お前達には去って行ったオーガに替わり、この森の王者に成って貰う」
『『へっ!?』』
呆然とする二匹の首領猪。
アイゼン、見てろよ?
俺はお前よりも強くて優しい王者を育てて見せる…!!




