level49
晴天。まさにそう呼ぶに相応しい天気だ。
青い空。白い雲。穏やかな風は、春の到来を感じさせる。
今日と言う日は、確かに旅立ちに相応しい。
しかし問題がある。
…俺は旅立っていないという点だ。
「よし、状況を整理しよう。俺は置いていかれた。以上」
…虚しい…。誰も突っ込まないし、誰も笑わない…。ついでに言えば、言ってる俺も面白いとは思っていない…。
そう、俺は置いていかれたのだ。
討伐適正ランクSS、擬龍蜂オーデンヴァルトと言う強大な敵を打ち破ったにも関わらず、なんと放置されたのだ。
飛び去ったグリフォンは、此方に一瞥もくれず、背に乗せた裏切り者達を運んで行く。
…間違いない師匠の差し金だ。昨日のハゲいじりの復讐に違いない。
額は常人よりも遥かに広い癖に、心の広さは猫の額程も無い。これは正に“矛盾”と言う言葉の一つの完成形と言えるだろう。
許せん…!!あのハゲジジイ!!
俺は今だかつてこれ程の怒りを抱いた事は無い。
正に激おこスティックファイナリアリティプンプンドリーム状態だ。
絶対に許さない。もう二度と口も聞かない。そう俺は硬く誓った。この誓いは絶対に破らない。俺の怒りは本物なのだ。
そうして俺が固い誓いを立てた直後、師匠からビィの精神感応で連絡が入った。
『ユーリか?』
「師匠ですか?僕は一人でとても寂しいです。早く迎えに来て下さい。師匠に会いたいです。」
『…かれこれ3年程お前さんの師匠をしとるが、時々無性にお前さんが可愛い時がある。
今がその時じゃ』
「ならさっさと迎えに来いハゲ。後頭部の髭擬きを抜くぞ」
『…かれこれ3年程お前さんの師匠をしとるが、時々無性にお前さんを半殺しにしたい時がある。
今がその時じゃ』
軽いジャブである。
しかし、実際なんのつもりで置いて行ったのか知りたい。
師匠は質の悪い冗談をかます事は有るが、無意味な冗談はあまり言わない。
まぁ、あくまでも“あまり”ではあるが。
『おほん…、まぁ、色々ゴタゴタはあったが、これを期に居所を街中に移そうと思うてな。
その為に色々な手続きと根回しをしてこようと思ったのじゃ。…お前さんも街に居られる様にのぅ。
しかし、今のままお前さんを連れて行けば、門番に止められるじゃろうし、要らぬ誤解も招く。
じゃからお前さんは暫くそちらに居ってくれ。
二日程で招く事が出来ると思う』
流石師匠。なんと街に住む事に成る様だ。
良かった。俺もそろそろ街に行きたかった所なのだ。そう、俺は超絶イケメン。街に行けばナンパしまくりお持ち帰りしまくり。最終的には男しか居ない臭い街へと変わるだろう。
しかし、一つ問題がある。
「師匠、その間俺は一人ぼっちで寂しいです。ビィを帰して下さい」
そう、俺は寂しがり屋なのだ。元居た世界でも、俺は常に誰かと一緒に居たいタイプの人間だった。
学校の往き来は友人と。帰ってからは社会人の彼女と。と言う具合に、誰かと一緒じゃないと寂しいのだ。
師匠やセシリア達は仕方ないとしても、ビィは返して欲しい。
しかし―
『ノポポイ』
不意に中性的な妖精の声が聞こえる。
我が友、地妖精のビィだ。
「ビィか?何度も言わせるな。ノポポイは金色の○ッシュを知らない読者には意味が分からないんだ。
多用は避けなさい」
『ノポポイ』
この妖精…出来る!
まぁ、冗談はさて置き彼はどうやら此方に帰るつもりが無いらしい。
「ビィ…我が儘を言うんじゃ有りません。ビィが帰って来ないと、俺が寂しいでしょう?大した用事は無いけど、帰っていらっしゃい」
俺は諭す様にそう言った。
全く…寂しんボーイである俺を置いて街に行くなんて、ふざけた話だ。しかし、これで帰って来てくれるだろう。
そう思ったのだが―
『ノポポイ』
「…貴様、三度目だ…。三度も金色のガッシ○ネタを使ったんだぞ?最早Googl○で検索して元ネタを見て貰うしか無い程の愚行だ。次は無い。
早く帰って来なさい」
『やだよ、ボク街に行きたいんだもん』
「“ノポポイ”って言えやァァァァァァッッ!!」
俺の渾身の突っ込みにも怯まず、ビィは飄々と言葉を返した。
『だってだって!街には人がいっぱい居て、色んな物が有るんでしょ?
ボク、もう好奇心が止められないもん!早く行きたいんだもん!』
なんて事だ…齢三歳にして反抗期が来るとは。
確かに妖精としては成長の早いビィだが、三歳で反抗期は早すぎる。せめてイヤイヤ期を経由して欲しい。
…どうやら正攻法では言う事を聞いてはくれないらしい。
「…良いかビィ。街には人がいっぱい居る。良い人もいっぱい居る。だがな、悪い人もいっぱい居るんだ…。」
『悪い人?』
「そうだ。妖精は稀少な種族だ。それに、容姿も可愛らしい。そんな妖精は、ペットとして高い需要が有るんだ。そんなお前が一人で街に行ったら、誘拐されて売り払われてしまうかも知れないんだぞ?」
そう、これは事実だ。
妖精と言う種族はペットとして高い需要が有る。
明確な自我と高い知性を持っている種族にも関わらず、平然とそんなやり取りの対象とする人間の業には反吐が出るが、俺個人にどうにか出来る訳でも無い。
…だからこそ、側に居てやらないと心配なのだ。
『ノポポイ』
「このタイミングでか?お前、モノローグ的には結構良い事言った後だぞ?言葉にはしていないがな」
俺の心配を察した様に、師匠が語りかけて来た。
『案ずるな、ユーリよ。ワシもその点は考慮しておるわい。確かに野良の妖精ならば誘拐されるやも知れんが、正式な手続きを行った使い魔ならば誘拐はまずされまい』
“使い魔”
契約や制約等で対象と主従関係を結び、使役される霊獣や魔獣を指す言葉だ。
彼等は光の民と共に暮らし、その存在は一般的なものとして捉えられている。
オールドランド大王国に於いてもそれは同じで、様々な管理態勢が敷かれており、正式な手続きをすれば所有物として認められる為、盗難等の被害が有れば相応の対応が成されるのだ。
『ビィも大別すれば霊獣目に属す妖精じゃ。
ワシの使い魔として制約し、正式に登録すれば、街におってもまず誘拐されたりはせん。
じゃからビィも連れて行くんじゃ』
「…個人的には嫌です。友達に主従関係を結ばせるなんて…」
『…“嫌”と言う事は“反対”では無いと言う意味じゃな…?』
「…」
俺は何も答えない。
師匠の言ってる事は正論だし、理解出来る。
それが最も効率の良い選択肢だという事も。
ただ、俺はそれを肯定する気には成れなかったのだ。
それはビィを物として認める手続きに他成らないから。
『ユーリ、ユーリ。ボクはそんなの全然平気だよ?タナスじぃが良い人なのは知ってるし、使い魔契約はメリットの方が遥かに大きいもん。
そんな複雑に考えなくても、得をする方を選ぶだけだよ』
ビィはそう言っておどけて見せた。…まぁ、本当に気にして無いのだろう。これ以上俺が何か言っても、ビィは言う事は聞かないだろうし、俺の意見を押し付けるだけになる。俺は軽く溜め息を吐き、諦める事にした。
「…分かった。俺が行くまで変な遊びはするなよ?やるなら一緒にやろう」
『おっけー牧場!』
「師匠、ビィを頼みますよ。
そいつは賢いけど、それでも子供なんです。ちゃんと気にかけて下さい。賢い子供は、賢い老人の次に質が悪いんですから」
『ああ、分かっておる』
「セシリア、黒のパンツはどうかと思う。白にしなさい」
『ちょっとなんで知ってるのよ!?』
『殺すぞ貴様』
最後のはルイス氏だな。本当に殺されるかも知らないから、セクハラは程々にしよう。
そんな話を最後にビィの精神感応は切れた。効果範囲から出たのだろう。
まぁ、言うべき事は言ったし、俺は俺でやるべき事をやるとしよう。
…今回の事件は気になる事ばかりだったからな…。




