序章
―絢爛豪華―
正にこの場に相応しい言葉だと、私は思う。
壁には一面に有名画家の絵画が並び、天井には、まばゆいばかりの七色光晶のシャンデリア。
床は白の大理石で出来ており、まるで光の宮殿の様に輝いている。
招待客達も、それぞれ自慢の服に身を包み、この場に華を添えている。
…しかし、一つだけ、この場に相応しく無いものがある。
招待客達の視線も、その一点に向けられていた。
そこに居るのは一人の少女。
丸みをおび、潰れた団子の様な鼻。細く、糸の様な目。体つきはだらしなく、無理矢理通されたそのドレスと相まって、縛り付けられた薫製肉の様に見える。
周囲の目は明らかにこう言っていた。
“なんて醜い主催者なのだろう”と―
そんな事、言われなくても分かっている。
自分が醜いのは、毎日鏡を見る私が一番分かっている。
それでも私がこの場に居られるのは、私に勇気をくれた、あの無礼な執事のおかげだ。
私は彼の気持ちに応える為にスカートを握り締め、必死に耐える。
……だけど…やっぱり辛い。
この場で私に向けられる視線は、好奇か侮蔑のみ。
それを示す様に、舞踏会の体裁をとっているにも係わらず誰も私を踊りには誘わない。
“社交界デビュー”前の予行演習として行われる、この“五大都市舞踏会”では、そこまで厳格な決まりは存在しない。あくまでも予行演習であり、成人前の子息、息女達の社交の場として扱われるからだ。
しかし、だからこそ。
家々に縛られない、個人として参加するという体裁を持つこの舞踏会だからこそ、最初に踊りに誘うと言う事はある意味合いを持つ事に成ってしまう。
“私は貴女に好意を持っている”と―
だからこそ誰も私を誘わないのだ。
こんな、醜い私だから。
私が必死に耐えていると、会場がどよめいた。
一人の男性が、動き始めたのだ。
周囲の視線が私から逸れ、その人物へと注がれる。
その髪は聖別したミスリルの様に美しい白銀で、切れ長の凛々しいその瞳は、夜空を思わせる紫紺。
目鼻立ちはクッキリとし、町中を歩けば誰であろうと目で追ってしまうだろう。
彼は確か、父の知人である高名な魔術師の御弟子だった筈だ。
この会場で初めて見た時は私も心を奪われた。
…身の程知らずにも、だけど。
彼は周囲の人達に道を開けて貰う様に頼み、ゆっくりと此方に向かっている。
同時に、私の近くに居る淑女達が色めき立つ。
恐らく、自分が踊りに誘われる事を想像し、興奮しているのだろう。
…私の妹もそうだ。
性格はともかく、その容姿だけならこの会場で一番美しい。
きっと、彼も彼女を目指しているのだろう。
軈て、私達の前に開けた空間が出来る。
彼が踊りに誘う女性の前に来たのだ。
満足そうな顔を浮かべる妹。
…癪に触るけど、確かに似合いのカップルかも知れない。
私がそう思った時、妹の顔が驚愕に染まった。
「一曲踊って頂けますか?」
恭しく一礼をした彼が、そう言ったのだ。
…私に向かって…。
私はこの時、知らなかった。
まさか彼が。
この、貴公子と呼ぶべき彼が。
あの時、ズボンとパンツを脱ぎ去り、MAXフルチ○コ状態で命乞いをしていた、私の執事と同一人物だったなんて―




