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level47



擬龍蜂のが俺とセシリアに伸びる。

その形は粗いが、腕としての役割を果たすレベルまでは修復出来ていた。


咄嗟にかわすセシリア。

それを予期していた擬龍蜂は、そのまま一回転し、尻尾を彼女に目掛け振るう。

一瞬出遅れたセシリアだが、ビィが大地の槍をセシリアと尻尾の間に放ち、僅かに出来た時間でセシリアは後方へと回避する事が出来た。


…大した奴だ…。

この短時間で失われた右手の再生を成し遂げるとは…。


“擬龍蜂オーデンヴァルト”。


軍勢王ノヴゴロドの高位眷属にして、最も色濃く、その力を受け継ぐ魔獣でもある。

軍勢王は、自らの眷属達のマナと魔力。

そして、知性と処理能力の全てを一手に引き受ける事で、絶対的な干渉力を発揮する最強の魔王の一角だ。


かつて、大桷黒稲子ダイカククロイナゴから魔王へと到った個体は、その体を500メートルを越える巨人へと変え、世界の再生へ王手を掛けていた。

公式な記録では、光の民達が協力する事で打ち破ったとされるが、実際の所はが協力して倒したと、師匠の所蔵していた本には書いてあった。


奴もその特性を引き継いでおり、眷属の力を自身の物とする事が出来る。

そして、魔王と成る為に膨大な数の眷属を産み出していた。

もし、その眷属達を率いていれば、俺達は数分と持たず死んでいただろう。


だが、“結果”には“もしも”等存在しない。



『グヌゥッッ…!』



擬龍蜂が唸る。

奴が使用する龍化魔術は、体を形成する蜂達のマナと魔力で賄っている。

しかし、度重なる戦闘での負担で、徐々に蜂達が疲弊し、周囲には奴がと呼んだ彼等の死骸が散らばっていた。


それに対して此方の消耗は軽微と言える。

俺はこの戦闘中はセシリアの背中で休んでおり、かつ、り気無く蜂達の死体を食べて回復に勤めていた。

そのセシリアは、奴の巣を強襲して膨大な経験値を獲得しており、今だ底は見えない。

ビィは普通に疲弊しているが、それでも奴と比べれば軽微と言える。


そう、既に戦場の天秤は此方に傾いていた。

奴はそれを理解しているのだ。



「セシリア、ありがとう。もう大丈夫だ」



心配げな視線を向けるセシリアに、俺はそう言って離れ、奴の前に立った。



「お前の敗けだ。オーデンヴァルト」



俺は端的に事実を言う。

確かに奴が本来の力を振るっていれば、俺達に勝ち目は無かった。


だからこそ、奴は慢心し、油断し、驕り、侮り、過信し、結果、自らの首を締めた。



“擬龍蜂オーデンヴァルト”は俺達に敗れたのだ。



「大きな敗因は、お前が“情報”の重要性を浅くしか理解していなかった事。

それと、“仲間”を軽視していた事だ。

…お前は確かに強い。術の使い方は巧みで、学習能力も高く、そして“数の力”を理解していた。

だが、それでもお前はずっと一人で戦っていたんだ。

無数の眷族を引き連れ、軍勢の王と成っても、お前はそれを仲間とは思わず、ただの消耗品としてしか扱わなかった。

…お前がもし、仲間の命を多少でも慈しみ、消耗を避ける戦い方を最初から意識していれば、或いは結果は変わっていたかも知れないな」



そう、奴が最も愚かだったのは、兵達を使()()()()()()()点だ。

確かに当初、潤沢に存在していた兵達の運用方法としては正しかったかも知れない。

しかし、個体数が減り、その影響が出始めるまで使い方を改めず、そしてこの状況に追い詰められて初めて消耗を避け始めたのだ。

その為、これまで消耗を抑えた戦い方等した事が無い奴は、不慣れな状態での戦闘を強いられる事に成った。

それに、奴の力を考えれば、眷族に高い知性を授ける事も出来た筈だ。

そういった個体に巣の警護をさせておけば、改竄された情報に踊らせられる事も無かった。

奴は結局、道具としてしか同族を見る事が出来ず、それが故に今に至ったのだ。


俺はもう一度奴に告げる。



「お前の敗けだ。我が敵、“擬龍蜂オーデンヴァルト”。

最後に言い残す事はあるか?」



そう言われた奴は、じっと此方を見つめ、そして―



『…最後、か…あるぞ。

答えは、“馬鹿め”だ!!』



「!?」



奴がそう言った瞬間、周囲に散らばっていた蜂達のが連なり、縄と成って俺の全身を拘束した。

…驚いた。

この術に関しては奴の羽音は聞こえなかった。

ここに来て、羽音以外の指示方法を身に付けたのだろう。



『どうだ?余が最も多く見た、貴様の種族技能スキルを、擬死させた眷属を用いて模倣したものだ!

“油断”が貴様の敗因だったな!!』



そう言うと奴は胸一杯に空気を吸い込む。

自分を追い詰めた敵を、跡形も無く葬る為に。



『ユーリ!!危ない!!』



ビィが叫ぶ。

しかし、俺は微動だにせず、静かにに向き直る。


…奴は選択を間違えた。

消耗し、基点と成る雄蜂を自身の周囲に集めた事。

そして、最後の最後で再び彼等に負担を強いる戦い方を選んでしまった事だ。


龍の息吹き(ブレス)”。


確かに強力な干渉力を持つ術だが、龍化魔術を前提とした術であり、その消耗は激しい。

結果、今の奴は基点の無い上、最低限の力で龍化魔術を維持する事と成り、かつて無い程不安定な状態と成ってしまっているのだ。


…そして奴は勘違いしている。

自身の高い学習能力が災いし、()()()()()()()()()

俺は静かに()()









『散会セヨ。我ガ同胞ヨ』











―ザアァァァッッ!!―



瞬間、()()が揺らぎ、驚愕を浮かべるオーデンヴァルト。


そう、俺の持つチート。

翻訳チートは、ただ聞くだけの力では無い。

“聞き”、そして“伝える”力なのだ。

俺の言葉チートに、統制が揺らぐ蜂達。

しかし、これだけの条件を整えても、奴の強固な支配力を完全に打ち消す事は出来ない。


だが、それで十分だった。

ほんの僅かな時間だが、彼等は今、“龍”では無く、ただ王に従うだけの“蜂の群れ”と成っていたのだから。



「“炎よ眼前の(ヴィラジェティスル)全てを灰とせよ(テノアーシェ)”!!」



セシリアの炎が蜂達を飲み込む。

燃え盛る蜂達は、それでも王に従い必死にその場に留まろうとする。

しかし、その献身が彼等の身を焦がして行く。

そして、その献身を見た彼等の王は―



オトリトナレ!!』



の怒号が響いた。

そのめいに従い、生き残った蜂達が一斉に四散して行く。

その姿は、軍勢でも群れでも無く、ただただ逃げ惑う羽虫のそれだった。



「ユーリ!!逃げられるわよ!?」



叫ぶセシリアを尻目に、蜂達を囮にして逃げ去るオーデンヴァルト。



…やっぱり王の器じゃねぇな…。

俺はそう一人ごちると、精神を集中させ術式を組み始める。


ベースと成るのは、俺が最も特異とする“血操術”。

そして、奴が行使していた“龍化魔術”だ。


俺の血操術は、確かに劣化品であり、血の太さも強度も針金程度でしか無い。

しかし、編み込めば相応に強固にも出来るし、形状も自在だ。


そして、奴の龍化魔術は、擬似的にだが龍の力すら再現してのけた。

完全な模倣は不可能だが、最低限術として成立させられるくらいなら、どうにか出来るだろう。



俺はこの二つの術を使い、新たな術を産み出す為、イメージする。


やがてゆっくりと、上位構造世界帯アストラルサイドから、現実世界アッシャーサイドへと干渉が降り始める。

俺から流れ出た血は、体に添う様に背中へと流れ、筋肉の繊維、その一本一本をなぞる様に忠実に再現して行く。



―鋼鉄の様な、その腕を―



―岩山の様な、その背中を―



…心優しき、この森の王者を。




『…アイ…ゼン゛…!』




ビィの涙ぐむ声が聞こえる。

俺はその様子を見ながら、新たなこの術式に名前を授けた。




「“鬼神装きしんそう愛染明王あいぜんみょうおう”」




俺はそのまま弓を手に持ち、鬼神アイゼンと共に構えた。



「…今日は色々ムカつく事ばかりだった。

先ず師匠!!てめぇ、最初からセシリアと吸血鬼との因縁を俺に話しとけ!!そしたらもっと上手く立ち回ったわボケ!!」



そう。師匠が予め俺に話しといてくれたら、こんな痛い目見ずに済んだのだ。



「次にビィ!!もっと早めに助けろ!!めっちゃ痛かったんだぞ!?」



そう。もっと早く助けてくれても良かったと思う。



「そんでセシリア!可愛いから許す!!」



そう。可愛いは正義ジャスティス



「俺自身にも色々言いたい事は有る!だがな!!俺は自分に甘い超絶イケメン!だから許す!!

そして、今日!いや、この世界に来て一番俺を激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームさせたのはなぁッッ!!」



そう言い放ち、深く息を吸い込んで、俺は叫んだ。







「俺にダチを殺させた!!!てめぇだオーデンヴァルトォォォォッッ!!」






は弓を強く引き絞る。

一人では微動だにしなかった弦は、滑らかに張りつめて行く。



そして―




―“鬼神剛破弓きじんごうはきゅう”―




俺の掛け声と共に解き放たれ、音を置き去りにした鬼神の弓矢は、逃げて行く小さな雄蜂を貫いた。






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