level45
「全く…人使い荒いわね…」
「…悪い。でも、セシリア以外、対応出来る人が居なかったから…」
「分かってる。冗談よ」
そう言って笑うセシリア。
しかし改めて考えると、ついさっき迄殺し合いをしていた俺達が共闘するなんて、少し不思議な気分だ。
そんな俺達の様子を見た擬龍蜂は、忌々しげにセシリアに訊ねる。
『…貴様、何者だ?
余の上位構造世界帯探知をどうやってかいくぐった?』
「さぁ?貴方の耳にでも聞いてみたら?」
そう言ったセシリアに対し、擬龍蜂は笑みを浮かべて続けた。
『…いや、必要無いな…。
これから貴様は死ぬのだから!!』
そう言って擬龍蜂は胸一杯に空気を吸い込む。
『龍の息吹!!』
瞬間、淡い光を放つ蜂の濁流が、俺達を飲み込むべく迫る。
迎撃をしようとするセシリアだが、俺はそれを止めた。
「セシリア!!左だ!!」
俺の声を聞いたセシリアは、僅かに左を向き、それに気付いて素早く上体を反らした。
『チイッ!!』
舌打ちする擬龍蜂。
奴は龍の息吹に紛れて蜂散弾を放っていたのだ。
紙一重でかわしたセシリアは、そのまま俺とビィを小脇に抱えると、素早く飛び上がり、近くに有った樹の上へと登った。
『…凄い運動能力…!節子先生格好いい!!』
「…神託者だもの。
それよりどうする?
逃げるべきかしら」
息吹を回避し、ビィに褒められ満更でも無い顔を浮かべるセシリアに、俺は方針を告げる。
「…駄目だ。奴は予想以上にヤバい。
俺の術を見ただけで再現しやがった…。多分、記録に有った擬龍蜂オーデンヴァルトよりも高い知性を持っている。
このまま逃がしたら、いずれ手の付けられない化け物に成る。
師匠が帰って来るのを待ちたい所だけど、それを黙って見ているとも思えない。
…やるしか無い。俺達で…」
『蜂爆破!!』
俺達の会話を遮り、奴が術を仕掛ける。
「セシリア!迎撃してくれ!!」
「わかったわ!」
そう言うとセシリアは、俺と戦った時に使った炸裂する火球で奴の術を迎え撃つ。
炸裂した蜂の群と炎は、互いを打ち消しながら消えていった。
「セシリア!その調子で迎撃を頼む!苦手だろうが、炎をメインにしてくれ!!
ビィ!砂塵の竜巻で散開している蜂達を削ってくれ!
淡い光を放っていない奴を狙ってな!!
奴は強大な力を持っているが、蜂達の数を減らせばそれだけ弱まっていく!
行くぞ!!!」
『「了解!」』
そう言って二人に指示した俺は、素早く血操術でセシリアの体に背中合わせで自分の体を固定する。
「………………何してるの?」
突然背中に貼り付いた俺を、怪訝そうに見るセシリア。
俺は彼女に事情を説明する。
「君の温もりを感じていたい!!」
「……………………………………………………………………………………………………………………………………」
更にじっと俺を見つめるセシリア。
正に食い入る様な視線だ。
これはもう、間違えようも無い。
―間違いなく俺に気がある。
「言っとくけど、貴方に気は無いわよ」
―間違いだった。
「…奴にぶち込みたい一撃が有るんだ…。
その為にこれ以上、無駄な許容量の消耗は避けたい。
決定的な隙を作るまで、このままで居させてくれ」
そう言った俺にセシリアは息を軽く吐いて頷いた。
「…いいわ。最後は格好良く決めてよ?」
「ああ!」
『“蜂機銃掃射”』
奴が呪文を唱えると、周囲を散開していた蜂達が奴の眼前に集まり、そして文字通り機銃掃射の如く俺達へと迫る。
「!」
追われる様に樹から飛び降りる俺達を見て、奴は笑みを浮かべる。
しかし俺の言葉でその顔は驚愕へと変わった。
「セシリア!!地面にぶち込め!!」
『!?』
セシリアは俺の言葉に従い、地面へと炸裂球を撃ち込む。
―ドゴォォッッ!!―
轟音を立てて地面を抉る炸裂球。
すると、地中から俺達を狙っていた大量の蜂達が悲鳴を上げて絶命した。
…大した奴だ。
俺の術をこんな風に使うとは。
茫然とするオーデンヴァルト。
「ビィ!!
後方全体に砂塵の竜巻を強めに撃ってくれ!!」
『了解!!』
巻き上がる砂塵。
するとその直後、淡く光を放ち始めた蜂達が、術を発動する前に飲み込まれていく。
「セシリア!!真上に炎を!!」
「了解!」
燃え盛る炎。
奴の命令に従い、俺達を真上から強襲しようとしていた蜂達は、その中に次々と自ら飛び込んで行く。
その後も幾度と無く繰り広げられる俺達の攻防。
しかし、俺はその全てで奴の攻撃を先読みし、そして潰していった。
その光景を見ていた擬龍蜂は、感情的に怒声を上げた。
『…馬鹿なッッ!?
何故如く余の攻撃を読む!?』
顔を歪める奴に、俺は事実を告げる。
「…最初からだ。俺は最初から、お前が何を狙っているのか全て把握している。
…まぁ、お前が生きていた事だけは予想外だったがな。」
『なん…だと…!?』
驚愕を浮かべる擬龍蜂。
俺達との攻防で消耗したその体は、目に見えて縮んでいた。
「…お前にとって俺は、相性としては最悪なんだよ。
俺が持っている“チート”は、お前の長所を全て短所へと変えている」
俺は自分の耳を指しながら続けた。
「俺が持っているチートの内の二つ。
“翻訳”、そして“選択式異常聴覚”。
この二つでお前の出す“羽音”の指示を全て把握しているんだ。
音を媒介として種族技能を使うお前では、俺の裏をかく事は出来ない。
…俺の腹を撃ち抜いた時みたいに、自分で動かない限りはな」
“選択式異常聴覚”
これは俺がこの世界に来た時に、小河を見つけるのに使ったチートである。
最初はただ聴覚が良くなっただけかと誤解していたが、このチートは文字通り自分の選択した音のみを広範囲から拾い上げる物だった。
俺は奴の羽音の指示を選択し、そして翻訳チートで理解する。
つまり―
「お前は最初から俺に全てを教えてくれてたのさ。
お前が一番気にしている、巣の在りかさえ、な」
『なっ!!まさか!?』
ーーーーーーーーーーーーーー
「それで、私は何をしたら良いのかしら?今言った作戦には、私は必要無いみたいだけど」
そう言って不満げな顔で俺を見るセシリア。
しかし、誤解である。彼女には一番重要な点を任せたいのだ。
「…セシリアには奴に隠れて別行動をとって貰いたい。具体的には、奴の巣の攻撃を任せたいんだ」
「巣の攻撃?」
セシリアはそう言って俺に向き直る。
擬龍蜂の知識が無い彼女には、どうも今一ピンと来ていないらしい。
「そうだ。奴は従えた眷族の数に比例して強くなる。
その力は、条件付きではあるが“最強の魔獣”と呼べる程なんだ。
とは言え、常に全力を維持するには消耗が高過ぎる。大体の場合は手頃な眷族の数で抑えて、残りは巣に待機させおく。セシリアにはそれを殲滅して欲しい」
「…蜂の巣退治か…」
洞窟崩しの方が面白そうなのに…と、小さく呟いた気がするが、気にしない事にする。
ここにいる面子で擬龍蜂の巣を殲滅出来るのはセシリアのみだ。
俺やビィの力ではどうにも出来ない。我慢して対応して貰わねばならない。
「…それと、こいつを被ってくれ」
俺はそう言って先程まで自分が被っていた仮面をセシリアに渡す。
「これは貴方が被っていた仮面よね?何故これを?」
訝しげに仮面を受け取ったセシリアがそう訊ねて来た。
「この仮面には、上位構造世界帯探知を疎外する効果があるらしいんだ。
セシリアは神託者だから、普通に近付いてもその存在力の高さから奴に気付かれてしまうかも知れない。だからそれを被って、可能な限りバレない様にして欲しいんだ」
「…随分警戒するのね」
「いや、まだ警戒が足りない」
「!」
驚いたセシリアに視線を向け、俺は更に続ける。
「作戦が成功したら、その場でビィに精神感応で連絡させる。
セシリアが巣の攻撃を開始するのは、俺達の作戦が成功して完全に奴の“耳”を分断出来た後だ。
作戦が成功すれば、まず擬龍蜂でも生きてはいないと思うが、生きていた場合は目も当てられないからな。
それと、念の為に巣から続く奴の“耳”の警戒網の複数箇所に、術式改竄で誤情報を流させる。恐らく常に同じ個体が“耳”をしている訳では無く、交代で情報網を維持している筈だが、移動距離と情報伝播の距離が伸びれば、何体かは改竄された個体が間に入る筈だ。
奴は知らないんだ。“伝言ゲームは長いほど失敗する”ってのをな」
そう、巣の情報を伝える蜂達の中で、一匹でも誤情報を伝えさせれば、後の蜂達は改竄しなくても間違った情報を運んでくれる。
奴の“耳”は中々の術だが、“情報の確度”と言う意味ではザルなのだ。
『でも、それなら爆破で”耳”を潰さなくても済むんじゃない?』
小首を傾げてそう言うビィ。改竄すれば崩落を誤認識させれると考えたのだろう。だが―
「奴が自分の周囲に散開させる“耳”の数を考えたらそれは不可能だ。
それに直近の“耳”を改竄すれば流石に違和感に気付くだろう。“他の個体と情報が違う”ってな。
そしたらこの作戦は失敗する可能性が上がる。
奴が自分の“耳”を信頼してるってのが重要なんだ。
“安心”し、“油断”させなきゃ、俺達に勝目は無い。」
ビィは納得した様に頷くが、セシリアはまだ今一つらしい。
「…分かった。でも、一度その擬龍蜂ってのを見せて貰えるかしら?蜂がそこまでの脅威になるなんて、今一ピンと来ないの」
「おっけー。途中までは進行方向が一緒だからな。遠巻きで良いなら一度確認しても良いと思う。
じゃあ、作戦開始だ」
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あわてふためくオーデンヴァルトに、セシリアが鷹揚に告げる。
「…貴方の巣は、私が全て破壊しているわ。
まぁ、正確には巣の中身だけだけどね。
貴方の“耳”が伝える巣の情報は、そこの性悪が改竄したものよ。
…全く、とんでもない奴だわ。
じぃじが弟子にしたのが良く分かる」
『…!!』
オーデンヴァルトが後ずさる。
その顔は、驚愕でも怒りでも無い。
初めて見せる、“恐怖”で歪んでいた。
『き…貴様何者だ!?』
絞り出す様にそう言った奴に、俺は何度目かになるこの言葉を教えてやる事にした。
「冷静沈着な判断能力と、それに伴う実行力。
そして何より整った顔立ち―」
そう、俺と言うイケメンを表すに、これ以上の言葉は無い。
「俺の名はユーリ=ネルタナス。
超絶イケメンだ」




