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level40



渓谷をゆっくりと歩く巨大な影。

支配下に居る同族を使役し、強靭な龍の肉体に擬態した魔獣。


擬龍蜂オーデンヴァルトだ。


彼はゆっくりと、獲物を追っていた。

この渓谷に逃げ込んだ無礼者は、体を引き摺りながら移動している。


時折何かに怯えた様に後ろを振り向き、そして必死に逃げ回っている。


―面白い―


彼はそう思い、笑みを浮かべる。

まだ彼の目に直接は映らないが、斥候として放った兵達の視点で、無礼者の不様な姿を見る事が出来た。


自分に怯え、必死に逃げ回る姿は、彼を侮辱した無礼者には似合いの姿だ。


彼はそう思い、その口角を更に上げる。


逃がしはしない。しかし、もう少し楽しみたい。


そう思った彼は、本来なら容易く追い付くであろう距離を、わざとゆっくりと進んでいるのだ。



「!」



不意に獲物を見ていた斥候の視点が消える。


直前の視点から、獲物が斥候に対して投石を行った事を知った彼は、少しだけ苛立ちながら一人ごちる。



「…生意気な下郎だ…」



そう言った彼は、獲物を見失った付近に居た別の斥候に、奴を見張る様に命じる。


しかし、新たに送った斥候の視点からは、獲物が消えていた。



消える筈が無い。

彼はそう考え、更に周囲を探らせて、()()を見付けた。


周囲を囲む岸壁。

岩の影に隠れて見えなかったが、そこには入り口の小さな洞窟があり、下へと続いていたのだ。


恐らく獲物はここに逃げ込んだのだろう。


彼は再び口角を上げ、呪文を唱え魔術を発動する。



「“暗視ナイトビジョン”」



暗視ナイトビジョン



文字通りの暗視の魔術で、暗闇でも周囲を見渡す事が出来る様に成る。

とは言え、流石に昼間と同じ様にとはいかず、色彩等は理解出来ないが。


かつて彼を襲ってきた冒険者は、昼行性の蜂の性質を理解しており、この魔術で夜襲をかけた。


無論、返り討ちにしたが、彼はその有用性を理解し、捉えた冒険者から言語と共に学んだのだ。



「…浅知恵だな…」



彼はそう言って目の前にまで来た洞窟の入り口を見る。


確かにこの入り口は狭く、彼の巨躰では入れない。

更に入ったところで、中は暗闇であり、通常の蜂ならば右往左往するだけだろう。


しかし、彼は“擬龍蜂オーデンヴァルト”なのだ。


彼は龍化の魔術を解き、軍勢を率いて洞窟へと進む。


「さて…余を侮った代償を払って貰おうか。

その恐怖と絶望で、な」




ーーーーーーーーーーーーーーーー




俺は必死に足を引き摺り、洞窟を進む。


この洞窟の入り口は狭いが、中は比較的広く、そして長い。

上手く行けば擬龍蜂から逃げる事が出来るだろう。


俺は歩を進め、どんどんと奥へと進んで行った。






―ピチャン―



俺の顔を、水滴が濡らす。


あれからどれくらい経ったか分からないが、俺は洞窟の奥まった場所まで来ていた。


しかし、奴の気配は無い。


俺はそこに座り込むと、ガチガチと歯を鳴らしながらうずくまった。


奴から逃げ切った。


そう思ったが―



「どうした?もう逃げないのか?」



「!?」



不意に奴の声が響く。

瞬間、先程までは聞こえていなかった筈の、大量の蜂達の羽ばたきが聞こえてきて、入り口を背にして集まり出す。


やがて一匹の、巨大な龍の姿へと変わっていった。



「オーデンヴァルト…!?」



「クハハハハハハッ!

どうした?亡者にでも会ったか?」



そう言って笑う奴に、俺は震えながら叫ぶ。



「…そんな!蜂の羽音なんて聞こえなかったのに!

それに、ここは暗闇だぞ!?

どうしてここが分かったんだ!!」



奴はニヤリと口角を上げると、得意気に俺に話す。



「単純だ。“静寂サイレンス”、そして“暗視ナイトビジョン”を使って追跡していたのだ。」



「…馬鹿な!?蜂が人の魔術を使ったと言うのか!?」



そう言って驚愕の表情を浮かべた俺に、奴は続けた。



「何故人の魔術が使えぬと思い込んだ?

術理さえ理解出来れば、この程度の魔術など容易い。

それとも貴様はその程度の事も理解出来ないのか?」



「…!」



俺は顔を歪め、奴を見る。



「…良い顔だ。

その顔が見たかったぞ?」



そう言って笑う擬龍蜂。

俺は苦し紛れに奴を目掛けて魔術を放つ。



「“砂塵よ舞え(サズルナダルフェ)”!!」



瞬間、周囲に有ったを巻き込み、砂嵐が奴を襲う。


舞い上がった砂が視界を埋めつくし、俺はその隙に逃げようとするが―



「―フンッ」



そう言って振るった奴の腕が俺に当たり、俺は壁際まで弾かれた。



「グハッ!ゲホッ!ゲホッ!」



俺は気道に絡んだ血を吐きすてる。



「下らんな。目眩ましのつもりか?

確かに視界は悪く成ったが、この距離なら匂いだけでも何処に居るかは分かるぞ?

まぁ、見苦しく足掻くのは、貴様に良く似合っているがな。」



そう言って喜色の浮かぶ声を出したオーデンヴァルト。

顔は見えないが、恐らく醜く笑みを浮かべているのだろう。



「さぁ、もう打つ手は無いのか?

醜く足掻かないのか?

クハハハハハハッ!

今の余は機嫌が良い。

もう一度命乞いの機会をやろうか?」





もう…駄目だ…。




もう限界だ…!!









「ブヒャヒャヒャヒャひゃひゃひゃひゃひゃ!!ひーっ!ひーっ!アハ?アハハハハハハハハハ!!ブフゥッ!!ひゃひゃひゃひゃひゃ!!ブヒャヒャヒャヒャひーっ!ひーっ!ブヒャヒャヒャヒャひゃひゃひゃひゃひゃ!!ひーっ!ひーっ!アハ?アハハハハハハハハハ!!ブフゥッ!!ひゃひゃひゃひゃひゃ!!ブヒャヒャヒャヒャひーっ!ひーっ!ブヒャヒャヒャヒャひゃひゃひゃひゃひゃ!!ひーっ!ひーっ!アハ?アハハハハハハハハハ!!ブフゥッ!!ひゃひゃひゃひゃひゃ!!ブヒャヒャヒャヒャひーっ!ひーっ!ひゃひゃひゃひゃひゃ!!ブヒャヒャヒャヒャひゃひゃひゃひゃひゃ!!ブヒャヒャヒャヒャブヒャヒャヒャヒャひゃひゃひゃひゃひゃ!!ひーっ!ひーっ!アハ?アハハハハハハハハハ!!ブフゥッ!!ひゃひゃひゃひゃひゃ!!ブヒャヒャヒャヒャひーっ!ひーっ!

……!?

ゲホッ!ゲホッ!!がはっ!!グホッ!!」



笑いすぎて気管にが入り、むせかえる俺。


ヤバい。結構小麦粉盛り過ぎた。


暫く茫然としていた擬龍蜂だったが、やがて我に返ったのか俺に話し掛けて来た。



「…恐怖で気がフれたか?

これからお前の身に起こる悲劇に絶望したのか?」



そう語る擬龍蜂。

しかし、その余裕も今の俺にはツボである。



「ブヒャヒャヒャヒャひゃひゃひゃひゃひゃ!!ひーっ!ひーっ!アハ?アハハハハハハハハハ!!ブフゥッ!!ひゃひゃひゃひゃひゃ!!ブヒャヒャヒャヒャひーっ!ひーっ!」



「何がおかしいッッ!!」



激昂する擬龍蜂。

だが、これは仕方ない。



笑ったっていいじゃない。


だって面白いんだもの。


ミッツマ○グローブ。



「あーいや、悪い悪い。

なんか、()()()()()()なのに随分余裕だなぁと思ったら可笑しくてさ」



そう言って俺は、ポケットから金属で出来た10㎝程の棒を取りだし、前後に折り曲げ始める。


いやはや、()()()()()()()()()とは思わなかった。

かなり分の悪い賭けだったのだが、()()()()も中々の物の様だ。

流石超絶イケメン。



「…何を言っている?

()余裕を笑う?」



「ブフゥッ!」



いや、セーフだ!笑ってないぞ。俺は。

ちょっと口から空気が洩れただけ。


訝しげに此方を見つめる擬龍蜂。

まぁ、小麦粉のせいであんまり顔は見えないが、俺は奴に向かい話し掛ける。



「これか?これはストリチウムって金属だよ。

こいつは通常の状態だと、衝撃にもそれなりに強い普通の金属なんだけど、こうやって前後に折り曲げ続けて摩擦熱を加えてやると、その熱に自分で反応して、どんどんと温度を上げる性質があるんだ」



「貴様…さっきから何を言っている…」



俺は鷹揚に続ける。



「まぁ、聞けよ。

こいつはその性質から、各種の実験に使われる為に錬金術師を中心に結構世の中に出回ってる物なんだけど、実験以外にも使い道があるんだ。


ほれっ、見てみるか?」



そう言って俺はストリチウムを奴の足下に投げる。

困惑を浮かべた擬龍蜂に、俺は教えてやる。



「それはな。

()()()()だ。

じゃあ、俺は巻き込まれたく無いから逃げる。


また後で連絡するわ」



茫然とする擬龍蜂を無視し、俺は呪文を唱える。



「“大地よ我を受け入れよ(ダグズラディバーセ)”」



そうして俺はその場から姿を消した。





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