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level34




アイゼンがその二人組に出会ったのは、今から約3年程昔の話だ。


当時、彼は大きな獲物を狙っていた。


体長4メートルにも成る雄の突撃猪ガー・ブーで、随分と探しまわった相手でもあった。

森の中域で一度接近した時は取り逃がしてしまったが、それでも徐々に自分の縄張りへと追い込んでいた。

無論、オーガである彼は罠等使わないが、それでも勝手知ったる自分の縄張りである。


巨躯である突撃猪ガー・ブーが通れる山道や、エサ場は把握しており、捕獲は時間の問題だった。


しかしその突撃猪ガー・ブーは、彼が狩る前に奇妙な二人組に横取りされたのだ。

一人は顔立ちの整った小鬼。

もう一人は妖精という変わった組合せの二人組だ。


獲物の足跡を追って来たアイゼンは、二人組の足下に自分が狙っていた突撃猪ガー・ブーが倒れているのを見付けて怒り、二人組に声をかけた。



『ゴゴデ…ナニジデル…。』



アイゼンに気付いた二人組は、此方を一瞥すると、何事かを小声で話していた。



アイゼンは子供を殺さない。

しかし、ここは彼の縄張りであり、勝手な振る舞いを許すつもりは無い。



『ゴゴ…オデノナワバリ…。

オマエダヂ、ナニジデル』



そう言ってアイゼンは彼等を睨みつけた。


“これで怯えて逃げるだろう。

獲物を横取りされたのは腹立たしいが、糧は獲られる。”


そう思った彼だったが、その予想は大きく裏切られた。



「先手必勝!!」



その声と共に小鬼が此方に向かって来たのだ。


アイゼンは驚いた。

自分と相手の実力差なら、向こうに勝ち目等無い。


何故此方に向かって来たのか、全く理解出来なかったのだ。


しかし、彼の疑問は直ぐに解消された。

此方に向かって来た小鬼は、少しジャレたと思ったら距離を置いてこう言ったのだ。



『ごめんなさぁぁぁぁい!!許してぇぇぇぇぇ!!!堪忍して…堪忍して…!!

後生だからぁぁぁぁ!

病気の兄弟と両親と祖父母と犬と犬に付いてるノミがランダバ躍りながら僕の帰りを待ってるんですぅぅぅぅ!!』



そう。この小さな鬼は、親兄弟の為に狩りをしていたのだ。

アイゼンには親も兄弟も居ないが、他の魔獣や動物を見て、親子と言う概念を理解していた。


そして、それを微笑ましく思っていた。



『…ゾウガ…。オヤギョウダイガマッデルノガ…。』




「“ランバダ”って言えやぁァァァァッッ!!」



アイゼンの言葉に、間髪入れずに意味の分からない言葉を挟んだら小鬼だったが、親兄弟の為に必死に成っているのだけは理解出来た。



『ナラ…ゾノイノジジハヤル。モウグルナヨ…。』



アイゼンはそう言ってその小鬼と妖精を見逃してやった。


それからである。

この二人組が度々アイゼンに絡んで来る様になったのは。


小鬼の方はいつもアイゼンにジャレ付き、妖精の方はそれを見て笑っている。


落とし穴を使ったり、上から丸太を落としたり、色々なイタズラを仕掛けるが、アイゼンにとっては正に児戯に等しかった。


一度、小鬼の父親タナスを見た事があるが、随分な年寄だった。

きっと、この父親ではこんな遊びが出来ないから、自分になついているのだろう。


たまにイタズラの度が過ぎる事があるが、そう言う時は軽く叱ってやれば、「今日の所は見逃してやる!」だの、「戦術的撤退だ!」等と言って逃げ出し、そして暫くしてから再び現れて、「今日こそ食ってやるぞ!クソ鬼が!!」と啖呵を切った。


アイゼンは、それも面白かった。


ある時、小鬼がいつものイタズラを仕掛け、それに失敗した後に、アイゼンにこう言った。



「アイゼン!今日の所は見逃してやるぞ!」



“今日の所は見逃してやる”はいつものセリフだが、その前の“アイゼン”と言う言葉は初めて聞いた。

その後も小鬼と妖精は、会う度に“アイゼン”と繰返し自分を呼び、彼等が自分の事をアイゼンと名付けた事に気付いた。



―悪くない―



彼はそう思った。



それからも小鬼と妖精は度々自分に絡んで来てはイタズラを仕掛けた。

時々戦いに近い遊びもし、その度にメキメキと小鬼は強くなった。

大人に成ればさぞ立派な雄に成るだろう。アイゼンはそれを嬉しく思い、そして気付いた。



自分はこの二人組が好きなのだと。




そして、今。

自分の耳元で、必死に呼び掛ける妖精の声が聞こえた―




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




『アイゼン!アイゼン!!』



ビィはそう言って倒れ伏したアイゼンに呼び掛けている。

彼の体には無数の穴が空き、そこかしこから出血していた。

鋼鉄を誇るアイゼンの体を撃ち抜き、ここまでの深手を負わせれるのは、恐らく―


俺がそこまで考えた時、アイゼンが声を出した。




『……妖精…ガ…?』




『アイゼン!良かった!生きてるんだね!』




ビィはそう言って喜んだが、アイゼンの顔には生気は無く、その声は水気を含んでいた。


肺が傷付き、血が中に溜まっているのだ。



「…ねぇ、あのオーガは…?」



セシリアはそう言って俺に話し掛ける。

彼女から言わせたらオーガは人食いの獣であり、ビィの反応が理解出来なかったのだろう。



「…奴の名はアイゼン、この森の王者だ。

…こんな言い回しが正しいのか分からないが、優しいオーガだ」



「…そう」



それだけ言ってセシリアはアイゼンを一瞥し、静かに口を閉ざした。




「…アイゼン、誰にやられた…。」




俺がそう訊ねると、アイゼンは苦しそうに答えた。




『龍…ダ…。蜂ノ…龍。』




「……そうか。」




それだけ言って、俺は天を仰ぎ見る。

その様子を見ていたビィが、抗議の声を上げた。



『ちょっと話は後にしなよ!!キズの手当てが先でしょ!?』



そう言ったビィは必死にアイゼンの傷を治そうと、光系統の魔術を使い続けている。


確かに簡単な傷ならばそれでも回復出来るだろう。


しかし―



『グブァッ!!』



アイゼンが大量の血を吐く。

地面を赤く染めている分も考えれば、既に致死量と言える量の血を失っているだろう。


俺は最後の望みをかけ、セシリアに訊ねる。



「…セシリア…復活リザレクションは使えるか?」



復活リザレクション


現実世界アッシャーサイドでの存在力を高め、肉体を文字どおり復活させる光系統の最上級魔術だ。


復活リザレクションをセシリアが使えるならば、あるいは助かるかも知れない。


―しかし―



「…ごめんなさい」



セシリアはそれだけ呟いた。


…これで確定した。


―助けられない。

俺達は、この優しいオーガを、アイゼンを助ける事は出来ないのだ。



『ちょっと何ぼぉっとしてんの!?

二人とも一緒に回復を手伝ってよ!!

早くしないとアイゼンが死んじゃうでしょう!?』


ビィは目に涙を溜めながら叫んだ。

―この優しいオーガを助けたいと。



「ビィ、もう止めてやれ。

…長引くだけだ。」



『…何言ってんの!?

アイゼンを見殺しにするつもり!?

何を諦めてるんだよ!!

さっきも叱ってやったばかりでしょ!!

“簡単に命を諦めるな”って!!

何も学ばなかったの!?』



「…ビィ。

さっきとは違う…。

違うんだ。」



『違わない!!』



そう言って、子供がいやいやをする様にビィは首を振る。



『ユーリはアイゼンを助けたくないの!?

アイゼンを見殺しにするの!?』



ビィは必死に叫ぶ。

俺はそれを聞いても何も答えてやれない。


―その通りなのだ。


見殺しにする以外、何も出来ないのだ。

俺は拳を握り、じっと耐える。

拳の先には、赤い血が涙の様に滴っていた。



『小鬼…』



不意にアイゼンが声を出す。



『アイゼン!喋っちゃ駄目だ!!』



ビィは慌てて止めるが、アイゼンはそれを無視し立ち上がろうとする。



『駄目だアイゼン!!

死んじゃうよ!?』



涙ながらに止めるビィを、アイゼンはじっと見つめる。

その視線には、有無を言わせぬ圧力と、

―そして、ありったけの優しさがあった。



『グゥ…!』



『…!』



ビィはもう何も言わない。

やがて血を吹き出しながら立ち上がったアイゼンは、俺に向かってこう言った。




『…小鬼…勝負ダ…』





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