level32
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“現実逃避”
現実に求められたり、何かしなくては成らない物事から意図的に注意や意識をそらす為の行為や心理状態。
困難な状況から目を背け、不安から逃れようとする事。
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俺はふと冷静になり、ある事に気付いた。
あの時は冷静さを欠いていたから気付かなかったが、間違いない。
俺は重要な事を見落としてしまっていた。
「…ビィ、お前…いつから見てた…?」
そう、俺が気付いた違和感。
それは、“ビィが何時から見ていたのか?”である。
基本的に俺は、ビィが知っている知識の大半を知っている。
生まれて直ぐに俺から言語を学び、時間もほぼ共有している為だ。
無論、俺の知らない知識もあるだろうが、しかしこの場では重要ではない。
奴は言っていたのだ。
“君が言ってた好血の乱とは完全に無関係だよ”と―
俺はその言葉を思い出し、今の質問をぶつけたのだ。
「ねぇ…ちょっと」
俺がビィに視線をぶつけていると、違う方向から声が聞こえた。
俺は一度ビィから視線を外し、声の方向を見る。
そこに居るのは、緩やかなウェーブを描く艶やかな金髪と、海を彷彿とさせる蒼い瞳。
すっと通った顔立ちの美少女。
“セシリア=アルバーン”。
彼女とは先程、“母親を吸血鬼に殺された少女”と“劣化吸血鬼”とに別れて、宿命的激闘を繰り広げた仲だ。
その激闘の後、言葉を交わし和解。
そして、「うーん…。やっぱり吸血鬼はケースバイケースで虐殺ね!」と言う結論を出したクレイジージャーニーであり、この世界で初めて出来た人間の友人である。
「…なんか、凄まじく失礼な事考えてない?」
「いや、あんだけ泣いて出した結論がケースバイケースでの虐殺だなんてクレイジーだと思っただけだ。」
「滅茶苦茶失礼な事思ってんじゃない!!
しかも微妙に否定出来ない内容だし!!
せめてオブラートに包みなさいよ!!
それより、“どうするのか?”
ってずっと聞いてるでしょ!?
何とか言いなさいよ!!」
またそれか。
彼女はさっきからずっとそればかり。
口を開けば、どうするの?どうするの?と壊れたステレオの様だ。
しかし、今、俺はそんな事を考える余裕は無い。
“ビィが何時から見ていたのか?”
それこそが一番重要なのである。
俺は再度、気持ちを切り替え、ビィを睨み付けた。
『最初からさ。明智君。』
なん…だと…?
なんと、奴は最初からずっと見ていたと答えたのだ。
信じられない屑野郎だ。
親の顔が見てみたい。
『森の様子がなんかおかしくてさ、それでユーリに知らせようと思って来たら、二人がお茶してて、そこからだよ。
そしたらタナスじぃの家が吹き飛ぶじゃない?
なんか面白そうだから、ずっと見てたんだ♪』
なんて野郎だ!
もっと早く助けろや!
結構長い間フルボッコだったんだぞ!?
俺は昂る感情を言葉に乗せようと息を吸い込むが、俺が言葉を出すより先にセシリアが叫んだ。
「それよ!だから、それを“どうするのか?”
って言ってるの!!周りを見なさい!!」
また始まった…。
仕方ない。
少しだけ付き合うか…。
俺はそう思い、周囲を見渡した。
師匠の家は吹き飛び、ほぼ全壊。
周りの森は焼け焦げた上に、急速に凍りついてバキバキ。
地面も正に焼け野原。
なんだ、救い様の無い有り様じゃないか。
俺は改めてビィに文句を言おうと息を吸い込む。
「ビィ!!てめぇもっと早く助けろや!
結構長い間フルボッコだったんだぞ!?」
『ひゃひゃひゃひゃひゃ!!
知ってるよ!見てたもん!
でも、本当にヤバい時は助けたげたじゃん?
感謝してよね?』
「ありがとう!!」
『どう致しまして。』
俺とビィが和解し、互いに握手を交わした途端、セシリアがキレた。
「どするのかって言ってんでしょうがァァァァァァッッッ!!」
俺とビィは炎に包まれた。
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「んで、どうするの?」
俺達二人を正座させた炎と氷の魔女は、腕を組みながらそう言った。
するとビィが挙手する。
『はい!節子先生!ボクは無関係だと思います!!』
なんて奴だ…!
事実だけど、この空気でそれを言うとは…!!
俺が感心して見ていると、セシリアこと節子先生はこう言った。
「はい、ビィ君。それは認められません。
貴方は確かに当事者ではありませんが、ここまでの惨事になる前に止める事も出来た筈です。
なのにそれを放置した。
確かに私達程は責任はありませんが、無関係を気取るのは無理です。」
尤もらしい事を言う節子先生。
しかし、それは見当違いである。
そう、彼女は俺の顔を見た瞬間、間髪入れずに魔術で吹き飛ばした。
止める事等不可能だったのだ。
ビィもそれに気付いている。
『でも、節子先生!
ボクが居ても止めれ無かったと思います!!
節子先生は間髪入れずに家を吹き飛ばしたじゃないですか!』
ドヤ顔のビィ。
しかし、続くセシリアの言葉に息を飲む事に成る。
「そうね。でも、私はそう報告しません。
ビィ君に煽られたと言います。
孫に甘いじぃじは私を信じて折檻するでしょう。」
『…!!』
なんて奴だ…。
躊躇無く不正を働くと言い切りやがった…。
この少女…出来る!!
恐らく、俺が被害者だと主張しても、彼女は俺に襲われたとか平気で言うだろう。
そしたら勿論、俺はケチョンケチョンにされてしまう…。
どうやら、ここは全員で協力して乗り切るしかない様だ…。
―そこまで考えて、俺はビィが言っていた事を思い出した。
「…ビィ、お前さっきなんて言った?」
俺の質問に、訝しげな表情でビィが答える。
『いや、ボクが居ても家が吹き飛ぶのは止めれ無かったって言ったけど…。』
「いや、そうじゃない。
“森の様子がおかしい”って言ってただろ?
どういう事だ?」
そう言われてビィは、ハッとした顔で答えた。
『そうだった!!なんか森の様子が変なんだよ!
生き物が全然居ないんだ!
あ、なんか見慣れない蜂が結構居たけど、それ以外の生き物が見当たらないんだよ!』
「蜂…?」
……………!!!!
俺は師匠の書庫で読んだ魔獣の生態を纏めた本の内容を思い出し、それに描かれていた蜂の姿を血操術を使い再現。
そしてビィに確認させた。
「まさかとは思うが…この蜂か?」
『あっ!そうそう!!この蜂だよ!!
この蜂が結構居たんだよ!!』
気になったのか、セシリアが除き込んで来る。
「随分器用なのね…。少しだけ見直したわ」
俺の血操術の蜂を見た後、そうセシリアは呟いたが、俺はそれに反応する余裕が無かった。
「…直ぐに森に行くぞ…。
このままじゃヤバい事に成るかも知れない…。」
そう言って立ち上がる俺に、ビィは疑問をぶつけて来た。
『ちょっとユーリ!どういう事か説明してよ!!』
その質問に端的に俺は答える。
「“軍勢王ノヴゴロド”の高位眷属…。
“擬龍蜂オーデンヴァルト”だ。」




