level27
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―そこには瓦礫が並んで居た。
上を見上げると、ドーム状の屋根があり、そこには幾何学模様が張り巡らされている。
これは魔方陣と呼ばれるもので、その模様に合わせて魔術的効果を発動する事が可能な代物だが、現在ではほぼ失われた技術だ。
この屋根に張り巡らされた魔方陣も、現在では再現不可能だろう。
“超魔導文明”
魔族が表れるより以前、隆盛を極めた幾つかの文明を指して呼ばれる呼称だが、この巨大な廃墟は、その内の一つ。
“アンデクローク文明”の遺跡なのだ。
そんな遺跡を、ルイスとタナスは歩いていた。
「…何度来ても凄い遺跡ですね…。
これが人の手によるものだとは信じ難いですよ。
神々の手によるものだと言われた方が納得出来ます。」
「フム…。
しかし、それが故に魔族が生まれたとも言える。
これ程の物を作り出す文明が互いに殺しあった時代を思うと、寒気がするわい。」
「確かに。」
会話しながら歩く二人だが、目的地に着いたらしく、その歩みを止めた。
「あったぞ。“ゲート”じゃ。」
“ゲート”
空間を歪曲し、指定された座標にあるゲートと繋ぐ事の出来る魔術機器だ。
タナスは、このゲートを使って自らが招致された“会議塔”へと向かう為にこの遺跡に来たのだ。
「わざわざ手間をかけたのぅ。」
そう言って、自らをこの場に連れて来てくれた義理の息子に礼を言う。
「いえ、これもエルバレスタ侯爵としての勤めですから。」
そう言って頭を下げた後も、しかしこちらから視線を離さないルイスにタナスは切り出す。
「…どうした?」
「何故吸血鬼を弟子にされたのですか?」
間髪入れずに答えるルイス。
その目は一切の迷いも無く、確信を持っていた。
「…気付いておったか。」
「私が気付いている事にもお気付きでしたでしょうに。
あの仮面は“祓魔の仮面”。
上位構造世界帯探知を阻害する物です。
人の形をした白髪。
それに祓魔の仮面を着けさせていれば、嫌でも気付きます。
セシリアは祓魔の仮面の事は知りませんし、タナス様がまさか吸血鬼を手元に置くとは思わないでしょうから、気付く事は無いと思いますが。」
「どうかのぅ?案外イタズラで仮面を外して、大騒ぎしとるかも知れんぞ?」
「だとしたら大騒ぎでは無く修羅場に成っているでしょうね。
あの娘は吸血鬼は根絶やしにすると言って憚りませんからね。」
そう言ってタナスを見つめるルイス。
しかし、その口調とは裏腹に、その目は確かな怒りを抱いていた。
自らの妻を殺した吸血鬼。
大切な娘に大きな傷を残した吸血鬼。
オールドランドの民を虐殺した吸血鬼。
その吸血鬼を、娘が最も尊敬するタナスが弟子とした事に対して、ルイスは怒っていた。
「フム…理由は三つ程あるかのぅ…。」
そう言って口髭を弄りながら、言葉を選ぶタナス。
「まず、奴はその食性を魔族としておる。
光の民を糧とはしとらん。
そして、自らの有り様も分からず、行き場も無くさ迷っておった。
助けてやる必要があったんじゃ。」
「その様な事は関係有りません!
喰らう喰らわぬ等、真祖血族の命の前では何の意味も有りません!
奴等はその食性に関わらず、人に仇なす“魔族”なのですよ!?」
激昂するルイスだが、タナスはそれを見つめながら続ける。
「…二つ目はそれじゃな。」
「!?」
ルイスは困惑し、タナスを見つめる。
「…お主達父娘の目は、娘の事件以来雲っておる。
シェリスを失った悲しみを、吸血鬼への憎しみに置き換えておる。
彼等とて元は被害者なのじゃぞ?
それに目を瞑り、怒りに駆り立てられておる。」
「それのどこが悪いのですか!?
吸血鬼は敵なのです!!
奴等を憎む事の一体何に問題があるのですか!?」
ルイスは叫んだ。
彼の心には、吸血鬼への憎悪が溢れていた。
シェリスを失った悲しみが。
そして、シェリスを置き去りにしたセシリアに対する怒りが。
彼の心に陰を落としているのだ。
ルイスとて馬鹿では無い。
セシリアに罪が無い事は理解出来ていた。
泣きながら許しを乞うセシリアが、誰よりも傷ついている事も理解出来ていた。
―しかし、理解する事と納得する事は違う。
彼はその心に巣くった、娘への怒りのやりどころを求め、吸血鬼への憎悪へと変えていたのだ。
「…悪いとは言わん。
復讐も一つの生き方じゃと思う。
しかし、年寄りは我が儘なのじゃよ。
…大切な義理の息子と孫に、前を向いて生きて欲しいのじゃ。
…シェリスの分までな…。」
「…」
ルイスは黙る。
タナスの瞳には、自分と同じ大切な人を失った悲しみがあったからだ。
タナスは続ける。
「ユーリ…ワシの一番弟子はな、妙な魅力のある男じゃ。
強がりで意地っ張りな癖に、平気で情けない真似をする。
その上優秀で、気配りも出来るが、傍若無人に振舞い、…そして寂しがり屋じゃ。」
「…要領を得ません。
何ですかその人物像は…。」
そう呟いたルイスに、タナスは笑いながら応える。
「はっはッは!ワシにも分からん。
見たことも無い変わった男じゃて。
…しかし、どことなく似ておるのじゃ。
拾った頃の養娘にのぅ…。
あやつならば、憎しみと悲しみに捕らわれたお主達を変えてくれるやも知れん。
そう思ったのが二つ目じゃ。」
ルイスはため息を一つつき、諦めた様に天井を仰ぎ見る。
この義父は、こうなったら聞きはしない。
諦める他に無いのだ。
しかし、先程までの怒りは彼の中から消えていた。
自分達の事を慮ってくれている。
たとえ、それが余計なお世話でも、ルイスにはそれで十分だった。
「…しかし、それならば使用人でも構わなかったのでは?
わざわざ弟子とし、“一番弟子”の号まで与えずとも良かったでしょう?」
そう言ったルイスに、不適な笑みを浮かべたタナスが続ける。
「…じゃから三つ目の理由があるんじゃ。
奴は―」




