level26
「…芸が無いな…違う術で来いよ…。」
鷹揚な態度でそう言った俺に対して、炎の魔女は言葉を返す。
「…そっちこそ、また地系統の魔術?
地系統なんて干渉する対象の質量と容積が変わるだけで、全部同じ術じゃない。」
「金属の性質変化も地系統だぞ?
それに有物干渉の地系統は、防御性能が高いんだ。
事実格上のお前の術も防ぎきっただろ。」
「“防がせて貰えた”とは思えなかったのかしら?
その貧弱な壁を壊すのなんて容易いわよ?」
「ハッ!何度だって防ぐさ。
ビィがな!」
『そうだね。これ僕の術だもんね。
何でカッコつけてたの?』
そう、あの時咄嗟にビィが地系統の大地の壁を発動し、炎から俺達を守ったのだ。
防御性能の高い、地系統に特化した妖精と友人に成っていなければ間違いなく消し炭にされていた。
正に人知を越えた幸運。
整った顔立ち。
超絶イケメンである。
『なんか不愉快な事考えてない?』
「うん。」
『次から隠そうね。』
「がんばる。」
―ゴウッ!―
そんな二人の会話に、火球が割って入る。
しかし、俺の蹴りあげた土の塊が火球に衝突し、影響範囲に入る前に炸裂させた。
俺は火球の使い手に向かいこう話し掛けた。
「…もう少し余裕を持てよな。
ここはギャグパートだろ?」
「…そうね。
貴方達を殺してから笑い話にするわよ。
間抜けな二人だった、とね。」
「そこは一緒に笑いあおうぜ。
一人で高笑いしてると頭おかしい人だと思われるぞ?」
「…それでいいわ…。」
そう言った彼女の目には、狂気の色が浮かんでいた。
…まだシリアスパートみたいだな。
『あれだけ論破されたのに、まだ続けるつもり?
僕達を殺したってなんにも成らないでしょ?』
そう言ったビィだが、返って来たのは言葉では無く炎だった。
『!?』
咄嗟に魔術で防ごうとするビィだが、俺はそれを遮って血操術でビィを手繰り寄せ、素早くその場を離れる。
その直後、俺達がそれまで居た場所は紅蓮に包まれた。
『…ナイスユーリ。助かったよ。』
「お前は俺が居ないと駄目な奴だからな。」
『調子が戻ったみたいだね。滅茶苦茶ムカツク。』
このままいつものやり取りを続けたいが、状況的にそれは出来ないだろう。
俺はセシリアに話し掛けた。
「…ビィがさっき言ってた通りだ。
俺は3年前に異世界から来たんだ。
4年前の事件には関わっていない。
当然情報も無いし、俺を殺した所で何の意味も無いぞ?」
「意味なら有るわ。」
彼女はそう言って俺に向き直り、続ける。
「吸血鬼が一人減る。」
「…!」
彼女の目には、全く迷いが無かった。
さっき迄とは違い、俺からの情報入手は考えていない様だった。
“ただ、純粋に吸血鬼を殺す。”
彼女はそれだけを思い、俺を見ていた。
『なっ!?
何を言ってるか分かってるの!?
それじゃただの虐殺じゃないか!!』
「…そうね。
そう言われても仕方ないわ。
…だけど、私はそれでも構わない。
吸血鬼は一人足りとも生かしておかない。
それが、母さんに対して、私が出来る唯一の贖罪だから…。」
『なに無茶苦茶言ってるの!?』
ビィはそう言って更に続け様としたが、俺はそれを止めた。
「止めとけビィ…。
何言ったって聞きゃあしねぇよ。」
『でも!!』
「いいから見てろ…。
女の扱いは教えてないだろ?」
『…』
そう言うとビィは何も言わずに引き下がった。
俺は小さな友人に感謝しながら、狂気に包まれた炎の魔女にこう切り出す。
「…どうしてもやるのか?」
「勿論よ。
生き残りたいなら、私を殺しなさい。
それが出来ないならじっとしてなさい。
楽にしてあげるわ。」
「ハハッ!
可愛い娘の願いは、出来れば全部叶えたいんだけどな。
それは両方ごめんだぜ。」
「安心なさい。
前者は無理でも、後者は叶えられるわよ?」
そう言われた俺は逡巡し、彼女にこう切り出す。
「…そうだな。
よし、俺はこの場から動かない。」
「は!?」
軽口で返されると思っていたであろうセシリアは、驚愕の表情を浮かべていた。
「…大人しく死ぬ気になったの?」
「そんな訳ないだろ。
俺は実の両親に命乞いしたって生き残りたい程の超絶イケメンだぞ?」
「それ関係あるの?」
「超絶イケメンに無関係な事柄なんて、自分にとって都合の悪い事実だけだ。」
「それはただの糞野郎じゃない?」
そう言ったセシリアに向かい、俺はこう告げる。
「…セシリア、俺と勝負しようぜ?」




