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明けない夜、その2


シェリスが真祖血族の討伐に迎い、2時間近くが経過していた。

セシリアは、この屋敷で一番見晴らしの良い時計台の屋根に登り、街を見つめていた。


いつもなら、「そんな危ない所に登るんじゃない!!」と、母に叱られるのだが、今はその母が心配で登っているのだ。



「母さん…」



セシリアは力無く呟いた。

母はまだ帰らない。







ーーーーーーーーーーーーーーーー






あれから約2時間、街から聞こえていた悲鳴は徐々に減りつつある。

王宮を守護する王宮守護隊ロイヤルナイツが事態の収拾に当たり始めたのだ。


その全人員を神託者オラクルで固めた王宮守護隊ロイヤルナイツは、その過剰とも言える戦力で、劣化吸血鬼達の討伐のみを敢行した。


一般の兵士には、住人達を幾つかの拠点に集め、そのままそこの警備に当たる様に指示。


王宮守護隊ロイヤルナイツにも真祖血族ブルーブラッドとの交戦を避ける様に指示を出した。


意識的に絶対的強者である真祖血族ブルーブラッドをその討伐対象から外し、王宮守護隊ロイヤルナイツの消耗を抑える事で、これ以上、敵劣化吸血鬼レッサーヴァンパイア達が増えるのを防ぎ、かつ効率的に敵の個体数を減らしていったのだ。


そんな王宮守護隊ロイヤルナイツの中で、一際目を引く一人の人物が居る。


緑色の瞳に、同じく淡い緑色で肩口までかかる髪。

薄い桃色の唇は、健康的な艶を携え、生命の力に溢れている。



“ニーナ=ファルガンバール”



王宮守護隊ロイヤルナイツの守護隊長である。



「ハァッ!!」



ニーナは剣を振るい、これで何体目か数えるのも億劫に成った劣化吸血鬼レッサーヴァンパイアを屠る。

その様子を、まるで恋人を見つめる様な目で見ていた女性が、ニーナに声を掛けた。



「さ、流石隊長ですぅ~!

システィ、見惚れちゃいますぅ~!」



肩口まで伸ばした金髪に、少し目尻の下がった青い瞳。

少し小さめな身長と相まって、庇護欲を駆り立てられる様な容姿の女性。



“システィアナ=レイルクローク”



王宮守護隊ロイヤルナイツの副守護隊長である。



「…システィ。貴様何故此処にいる?

私はルンドドルーク方面の劣化吸血鬼レッサーヴァンパイアの掃討指揮を命じただろう…。

ここが真反対の場所だとは流石に分かっているよな…?」



ニーナは軽く頭に手を置き、かぶりを振りながらシスティアナに訊ねる。



「あ~!ニーナ隊長酷いですぅ~!

システィは、システィは、ちゃんとお仕事終わらせてからここに来たんですよぉ?

愛しのニーナ隊長に何かあったらいけないと、心配で心配で、頑張って終わらせて来たんですよぉ?」



システィアナは両の拳を胸の前で握りしめながらそう言った。



「そうか…。」



ニーナは力無くそう応える。

システィアナは典型的な術師タイプの魔術師で、広域での殲滅性能が極めて高い。


確かに彼女ならば、この短時間に任務を終わらせて此処に来る事も可能だろう。


だからこそ彼女は聞いた。



「システィ、()()()()?」



システィアナはそのふざけた態度とは裏腹に優秀な部下だ。

不足の事態が無い限り、命令を無視し、職場放棄をする等有り得ないのだ。


システィアナは笑みを浮かべ、こう続けた。



「流石隊長ですぅ~!

システィ、ますます惚れちゃいますぅ~!」



「それは止めてくれ…。私達がそういう関係だと誤解されるだろう…?」



「確かにぃ、()誤解ですねぇ?」




―ゾワッ―




背筋に悪寒が走る。

彼女の目には、確かに恋慕の色が見える。

そう、システィアナは同性愛者なのだ。


話を切り換える為、ニーナはシスティアナを急かした。



「そういう冗談は必要無い。

もう一度聞くぞ、何があった?」



「冗談じゃないのに…。」



システィアナはいじけた様な顔をした後、ニーナに向き直り続けた。



「端的に言います。()()()()()()()()()()()()()()()()です。」



「…どういう意味だ…?」



ニーナは訊ねる。

劣化吸血鬼は、この街の各所で発見されており、間違いなく万を越えて居る。


それを理解した上で、システィアナは“少ない”と言ったのだ。



「はい、このエル・フェルダンは人口200万を越える大都市です。

そして、現在はその半数以上が生死不明の状態にあります。

にも関わらず、王都内で確認されている劣化吸血鬼の数は多く見積もっても3万にも満たない数です。

この状況は、なにがしか別の目的を隠す為の陽動と愚考します。」



ニーナが目を見開く。

確かに妙だ。もし混沌王がこの国を滅ぼす事を目的としているならば、その全兵力を使えばもっと容易に事を運ぶ事が出来ていたはずだ。


王宮守護隊ロイヤルナイツのみで事態が収束に向かっているこの状況は、明らかに異常だと言えた。



「…確かに妙だな…。

奴等は何を考えている…?」



ニーナはひとりごちる。

システィアナはその様子を見て更に続ける。



「現在、通信系魔術にジャミングが入り、上手く状況の把握が出来ていませんが、偵察能力の高いアレックとバルトに命じて周辺の探索を行わせていました。

そして、最後の定期連絡時に報告があったのですが、制圧された北門から、大量の劣化吸血鬼レッサーヴァンパイアが北西に進路を取り移動しているとの事です。」



ニーナに動揺が走る。

それが事実ならば、混沌王はこの街の侵略を目的としていない可能性が非常に高い。



「…つまり、エル・フェルダンでの奴等の目的は…」



「恐らくは劣化吸血鬼レッサーヴァンパイアの確保かと。最終的な目的は依然不明ですが…。

いかがします?」



ニーナは考える。

混沌王は、間違いなく確保した劣化吸血鬼レッサーヴァンパイアを録な目的には使わないだろう。


しかし彼女は王宮守護隊ロイヤルナイツなのだ。


少しだけ長いため息を付き、彼女は結論を出す。



「我らは与えられた任務をこなす。

システィアナ。お前には陛下への報告を頼む。」



「ハッ!!」




エル・フェルダンの夜は、まだ明けない。





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