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level25





―“炎よ眼前の全てを灰とせよ”―





この世界で最もメジャーな魔術体系。系統魔術に置いてその難易度と干渉力から“上級”にカテゴライズされる魔術だ。


効果は前面への超高温・高圧の火炎放射。

其れなりの使い手が使えば簡単に建物を瓦解させる事が出来る。


そして彼女は、間違いなく一流の使い手だった。









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー








俺は崩れ落ちそうな師匠の屋敷から転がる様に逃げ出し、距離をとって彼女と向かい合う。



「…いきなり何をしやがる!

殺す気か!?」



俺はそう声を荒げた。


周囲には吹き飛ばされた屋敷の残骸。

彼女の放った魔術は、爆炎となり屋敷を飲み込み、そして焼き払ったのだ。


ざっと見ただけでも半壊状態。


炎はまだ息を続け、このままならどうなるか想像に固くない。


―洒落に成らないぞ…これは…!


俺の内心の焦りとは裏腹に、この情況を作り出した炎の魔女は、しかし何事も無かった様にこう言い放った。



「…冗談はよしてよね…。

私は貴方を殺す気なんて無かったわよ?」



と―。

なんともまぁ、ふざけた台詞である。

この情況下でそれを信じる馬鹿は居ないだろう。

しかし、彼女の続けた言葉で、それが真実だと俺は思い知らされた。



―無論、悪い意味で。



()()()()()だったのよ。

よく生きていたわね?

薄汚い吸血鬼が!!」



そう言った彼女には憤怒と言うべき表情が浮かんで居た。


俺はあの瞬間、地系統の中級魔術である、“大地の壁”を発動し、壁を作ってなんとか凌いだのである。

ギリギリだったが、無詠唱が可能に成るまで練習していたお陰で助かったのだ。



「よくも騙してくれたわね?

タナス様にどうやって近づいたの?

何が目的?」



冷たい―何処までも冷たい憎悪の目で彼女はそう言った。


目の前の俺の命等、ゴミ程の価値しか見出だせない様な…。


いや、ゴミだと思っているのだろう。



…俺を見る、両親の目にそっくりだから。



「騙してねぇよ!!

俺は元々レッサーヴァンパイアで、師匠はそれを知った上で弟子にしてくれた!!

お前は勘違いでこんな真似してんだぞ!?」



無意味かも知れないが、事実を告げる。

僅かな希望にかけて―。


しかし返礼は灼熱を持って返された。



ゴウッ!



解き放たれた炎の蟒蛇うわばみは、屋敷の残骸を飲み込みながら俺を飲み込む為に這いずり進む。



「くそッ!!」



そう悪態をつきながら、魔術で作り出した壁を足場にして空へと逃げる。



―しかし、



「グァァァァアッ!?」



余りの激痛に表情が歪む。

炎の蟒蛇うわばみは、そのあぎとを空へと伸ばし、俺の右足を飲み込んだのだ。


体勢を崩した俺はそのまま地面へと落下し倒れ込む。

その姿をさも楽しそうに見つめながら、彼女は俺に語り掛ける。



「どうかしら?

私達の苦しみの何分の一かでも味わえたかしら?」



俺の焼けただれた右足が、上位構造世界帯アストラルサイドに従い急速に回復を始める。


なんとか話せる迄に回復した俺は、彼女に悪態を吐き捨てた。



「く…そ…がッッ…!

人の話を聞けよ!ヒステリックババァ!!」



それを聞いたセシリアは、冷たい笑みを携え一歩前へと進む。



「そうね…()()なら聞くわよ?」




――――!――――



のやろう!



「そうかよ!!」



そう吐き捨てた俺は、彼女の足下に、先端を丸めた大地の槍を繰り出す。


しかし、彼女はそれを僅かな動作だけでかわし、こちらに向かって炎の球を放つ。



「ッチ!!」



俺は迫る火球を防ぐ為、再度大地の壁を作り出しその裏に隠れる。しかし、



―あの球はヤバい―



不意に頭を掠めた思考に従って俺は素早く後ろへと距離をとった。

この世界で磨かれた自分の勘に従って回避したが、それが正解だったと直ぐに分かる。


球が壁に接触した途端、轟音と共に炸裂し、壁を簡単に吹き飛ばしたのだ。



壁の裏に隠れてたら死んでいた。



彼女は俺の様子を見ながら、面白そうに語り掛ける。



「へえ?良く避けたわね。

見た目だけなら下級魔術と変わらないのに。」



と―



「っせーよ!!超絶イケメンは見切りもパーフェクトなんだよ!!」



強がりを吐くが、正直ヤバかった。

さっきの術は上位構造世界帯アストラルサイドの精神干渉も含めて、完全に偽装していた。

凄まじい魔術の精度である。


彼女は両手を上に挙げ、こう続けた。



「じゃあ、今度は偽装無しの下級魔術にするわね?

お代は貴方の命でサービスしといたげる。」



ボゥ…



彼女の手の上に巨大な炎が生まれる。



その姿は太陽を掲げる女神の様にも見えた。



「ックソが!!クーリングオフを頼むぜ!!」



俺がそう吐き捨てると同時に、彼女の掲げた太陽が俺に向かって沈み始める。


あの魔術は、確かに系統魔術に置いては下級にカテゴライズされる“火炎球”である。

しかし、彼女の使うそれのサイズは、明らかに別物だ。



大地ダグズ()ディを受け入れよ(バーセ)



俺は素早く呪文を詠唱する。


この術はシンプルな地中移動の魔術である。

しかし、効果範囲を自分のみに限定する事で、干渉速度を上げたオリジナルスペルだ。



俺が地面に潜るとほぼ同時に、太陽が地面へと沈む。


先程の魔術とは違い、炸裂はせずにそのままゆっくりと時間を掛けて沈む様に消える。

あのままあそこにとどまっていたら、例え地面の中でも手痛いダメージを負う事に成っていただろう。



しかし―



「…どういうつもりだ?」




俺は()()()()話し掛ける。

穴に潜った後、そのままこちらまで掘り進めて移動していたのだ。


しかし、腑に落ちないのは先程の魔術である。


あれは殺すつもりが無かった。



威力は制限されており、恐らく直撃しても死ぬ事は無かっただろう。



「ずいぶん器用に避けるのね?」



しかし、彼女は意に返さない様に言葉を返す。



「…そりゃあな。基本、逃げる為に地系統を修得したからな。

それよりどういうつもりだ?

さっきの魔術、殺す気が無かっただろ。

話を聞く気に成ったのか?」



そんな訳は無い。

自分でも分かっているが、彼女の意図が何処にあるのか俺は知りたかった。



「…随分情けない理由で魔術を修得してるのね…。

まぁ、良いわ。

質問に答えてあげる。

貴方に聞きたい事があるのよ。

レッサーなのに高い知性を維持してるなんて珍しいからね。

だから殺すのは一旦いったん止めてあげる。」



「ハッ!スリーサイズなら秘密だぜ?」



軽口を返す俺。

彼女はそれを無視し、こう続けた。



「貴方を生み出した真祖血族ブルーブラッドは何処に居るの?」



俺は答えに詰まった。


答えたら殺されるのは目に見えている。

しかし、それを置いても単純に知らないのだ。


だが、この会話は続けたい。

師匠が戻るまで時間が稼げるなら何でも良い。



「…それを聞いてどうする?」



「殺す。」



間髪入れずに彼女が答える。


時間が欲しい。

このまま話を続けなければ。



「…どうして?」



「生かす価値が無いから。」



「~ッ!」



会話に成らない。

彼女の目には怒りしか見えない。

…これ以上の会話に意味は無いだろう。


俺が覚悟を決めると、彼女はこちらを見て笑う。



「…じゃあ、教えてくれる?」



此方は言う気が無い。

むしろ知らないから教えようも無いのだが。



「知らねぇよ!」



俺はそう叫ぶと彼女に向かって走り出す。

この3年間で鍛え上げた脚力は、大地を跳ね上げながら俺を彼女の下に導く。


彼女は迎撃すべく、此方に向かって手を構えようとする。



が―



「甘ぇよッ!!!」




彼女の足下から大量の赤い糸が伸び、彼女の四肢を縛って行く。


血操術。俺は地面の中から此方に来る途中に仕込んでいたのだ。

確かに俺の血操術は太さも固さも針金程度でしか無いが、それでも束ねればかなりの固さに成る。


驚愕に染まる彼女の表情。


しかし、俺は既に彼女の直ぐそば迄辿り着いていた。




「くらえ!!!」




そう叫んだ俺は右腕を彼女の腹部へと叩き込む。


これで怯んだ隙に、レッサーヴァンパイアの種族技能スキルの一つである麻酔の牙を打ち込むのだ。




―バキッ―




嫌な音を立てる。



俺のが―。



呆然とする俺に彼女が声を掛ける。



「驚いたわ…。

地面を移動した時に仕込んだのかしら?


…でも残念…」



そこまで言い、彼女は少し貯めてから俺に告げた。

俺と彼女との間にある、絶望的事実を―












「私と貴方では、存在力レベルが違うの」






彼女は四肢の拘束を焼き払い、俺の首に手を掛けた。



「!」



咄嗟に右足を繰り出す俺だが、彼女はその右足を左手で受け止め、そして―



―ベキッ―



「グゥッッ!?」



容易くへし折った。それこそ小枝の様に。



「これで動き回れないわね?

さぁ、教えなさい。

そしたら楽にしたげるわよ?」



「知らねぇ…ってんだろ!!!」



右腕と右足が回復を始める。

しかし、回復が終わる前に彼女は俺の腹部に拳を見舞う。



「グハッッ!!」



口の中から血の味がする。

彼女の拳は、俺の内臓にまでダメージを与え、俺の回復チートはオートでそちらの修復を優先させる。


致命傷を優先的に回復させる為だ。



「言う気に成った?」



彼女は笑う。



「だがら…じらない…!」



繰り出される拳。



「グゥッ!」



「言う気に成った?」



繰り返される、壊れたステレオの様な質問。

俺は力を振り絞り、叫んだ。



「じらない…!!

俺はタナスアート=ラファガの弟子、ユーリ=ネルタナスだ!!

それ以外知らねぇよッッ!!」



俺の怒声は、しかし俺以上の怒りの言葉で持って返された。



「黙りなさい!!薄汚い吸血鬼が!!

タナス様が知っててレッサーヴァンパイアを弟子にしたですって?

馬鹿も休み休みになさい!!

吸血鬼共がこの国で何をしたのか一番知っているのはあの方なのよ!?」



やはり通じ無かった。


しかし、これ迄と少し違い、その目には、この場には居ない誰かを思う光が見えた。


そして、彼女が続けた言葉は俺の心を貫く。










「私達の母様を…!!



じぃじの娘である、

“シェリス=ラファガ=アルバーン”を殺したのは貴方達吸血鬼でしょう!!」






――――え―――?――




そんな――




師匠はそんな事一言も――



俺の思考は動きを止め、彼女は三度目の拳を振り抜いた。



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