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level24




「フンフンフ~ン♪」



俺は鼻歌を歌いながら茶葉を取り出す。

この国で飲まれるお茶の一種で、元居た世界の紅茶と似た―いや、普通に紅茶である。


初めて見た時は嬉しさで小躍りしたぐらいだ。

超絶イケメンの俺は紅茶好きなのだ。


この茶葉は、糖蜜の様な甘く力強い薫りがする物で“ヴィーテ”と呼ばれる茶葉だ。

湯の温度は茶葉の様子を見て変えるが、沸騰してから少しだけ冷まして入れる。


蒸らし時間は5分程。


周囲に甘く、良い香りが立ち込める。


これは客人に出す物なので俺は飲めないが、この香りだけでもテンションが上がる。

鼻歌を続けながら、次にお茶請けの御菓子を用意する。


本来ならばスコーンと無花果いちじくのジャムを出したい所なのだが、生憎と先ほど師匠とルイス氏に出した分で切らしてしまっている。


仕方ないので、俺用のクッキーを出す事にした。







ーーーーーーーーーーーーーーー







「どうぞ。」



そう言って俺は紅茶のポットとクッキーを差し出す。


しかし、セシリアは手を付けずに一瞥すると俺に向かってこう言った。



「…いらないわ。

貴方の入れたお茶なんて飲みたく無い。」



中々に強情である。

しかし、俺は師匠に留守を任された身。


まぁ、此方は出したんだから飲まれなくとも非礼とは成らないだろうが、それでもこの紅茶は飲んで欲しい。


それに、俺が焼いたウサギさんクッキーに釘付けな彼女は、後ひとおしで陥落するだろう。



「セシリア様、確かに御入れしたのは私ですが、それはあくまでも師父に留守を任されたからです。

これは、師父の心遣いなのですよ。

…受け入れて頂けないでしょうか?」



そう言ってセシリアを見つめる。

本人は必死に押し殺そうとしているが、間違い無い。彼女は甘い物も、可愛い物も、両方好きな様だ。

セシリアは少し逡巡し、覚悟を決めてこう言った。



「…分かったわ。でも良い事!?

私がこの紅茶に手を付けるのは、あくまでもタナス様の気遣いだからよ!?

貴方は関係無いんだからね!?」



…なん…だと…!?



リアルツンデレである。

まさかのリアルツンデレである。


元居た世界ではついぞ見る事が無かったが、異世界で拝める日がくるとは…。


流石ファンタジー世界である。



そしてセシリアは、おもむろに紅茶を飲み始めたのだ…。









ーーーーーーーーーーーーーーーーー







「ねぇ、貴方はどうしてタナス様の弟子に成れたの?」



紅茶と御菓子を平らげ、少しだけ穏やかに成ったのか、セシリアは俺にそう訪ねて来た。


意外である。

このままずっと黙っているかと思ったのだが…。


セシリアは続ける



「私が何度お願いしても、タナス様は“向いてないから”と絶対にお認め下さらないわ。

私だけじゃない。

タナス様の弟子に成りたいという人はそれこそ山の様に居るわ。

中には円卓リング(オブ)12勇者(トゥエルブ)にまでタナス様の弟子に成りたいと言う人が居るのよ?

どうして貴方だけ弟子に成れたの…?」



そう、寂しそうに彼女は言った。

彼女は恐らく俺よりも前から師匠と交遊があり、自身の言う通り弟子入り志願も何度もしていたのであろう。

それをいきなり湧いて出た俺みたいな奴に横取りされたのである。

当然の疑問であろう。しかし―



…答え難い質問だな…。



正直…俺も分からないのだ。



この3年間で師匠がどれだけ凄い人なのかは嫌と言う程思い知らされてる。

討伐適性ランクSSの魔獣ヴェラクルスの甲殻を素手でかち割った時は漏らした程だ。


俺の師匠は本当に凄い人なのだ。



―それこそ、胸を張りたくなる程に―。



…そして、だからこそ分からない。

側に置くだけなら使用人でも構わなかった筈だ。

何故師匠程の人が、神託者オラクルでも無い俺を弟子にしたのか。

それは弟子と成った俺にも分からない問い掛けだった。



「…すいませんが、それは私にも分かりません。

ただ、私がこの世界に身寄りが無い事は無関係では無いと思います。

…私はここしか居場所が無いのですよ…。」



そう俺が言った瞬間、セシリアは目を少しだけ見開き、そしてゆっくりと閉ざした。



「…そっか…。

貴方()御家族を亡くされてるのね…。

やっぱり、4年前の“好血姫の乱”で…?」



俺はゆっくりと頷く。



「…そう。」



そう呟くと、セシリアは静かに成った。

事実とは違う認識をされた気がするが、それで良いだろう。


…後で“好血姫の乱”について調べよう。


なにそれ?知らない。


俺が好血姫の乱について聞かれるかと内心ドキドキしていると、セシリアはおもむろに此方を見て続けた。



「ごめんなさい。

貴方の事情も知らないで失礼な事を言ったわ。」



そう言って頭を下げるセシリア。



「…!」



俺は一瞬呆気に取られた。

こうも素直に謝られるとは思ってもみなかったのだ。

ついさっきまでいがみ合って居た相手に、こうも素直に謝れるのは、彼女の生来の気質が真っ直ぐな事の照明であろう。

そして、彼女は“貴方()”と言っていた。

恐らくは彼女は…



「…ねぇ、謝ってるんだから、何か言いなさいよ?」



思考を続けていた俺にセシリアはそう続けた。


いかんいかん。

超絶イケメンは女の子を待たせる訳にはいかないのだ。

元々さして怒り等無い。素直に謝罪を受け入れよう。



「いえ、私は気にしていません。どうぞお気になさらずに。」



「…ありがとう。」



そう言うとセシリアは微笑んだ。



ドキッ!



彼女の笑顔を見た瞬間、俺の心臓が音を立てた。

…これは……この………トキメキは…!


俺がセシリアにみとれていると、セシリアはこう続けた。



「ねぇ、仲直りしたんだから、その仮面取ってよ。

実は結構気になってたんだ。」



慌てて俺は冷静に成る。

まぁ、確かに仮面を付けっぱなしなのは結構失礼に当たる。

しかし、事情が事情だけに取る訳にはいかないのだ。

俺は彼女に対してしおらしく続ける。



「…すいません。

それは師父に許されていないのですよ。」



「…そっか。」



そう言うと、セシリアはあきらめたのかそっぽを向いた。


良かった。簡単に諦めてくれた。

やはり素直な子だ。







―と、そう思ってしまった。


俺はこの時完全に油断していたのだ。

…彼女がとった行動は、本人にしたら軽いイタズラ程度の気持ちだったのだろう。

しかし、その行動は少しだけマシに成った俺達の関係を、根本からくつがえしてしまうものだった。




「隙有り!!」




そう言ってセシリアは俺の仮面に手を伸ばす。

俺は慌てて体を翻すが、しかしオラクルである彼女の動きは早く、その指先に仮面が触れてしまう。


仮面はゆっくりと俺の顔から弾かれた。




カラン…。




乾いた音を立て、ゆっくりと仮面が地に落ちる。



そして、俺の顔がセシリアの前に晒される。

()()()()()()()



―艶の有る白髪―



―発達した犬歯―



―黒い眼球―



―真紅の瞳―



劣化吸血鬼レッサーヴァンパイアと呼ばれる異形の姿が。



「いきなり何を…!」



言いかけて俺は口を閉ざす。


上位構造世界帯アストラルサイドに強烈な精神干渉が起きていたのだ。


やがて、その干渉は現実世界アッシャーサイドまで降り始める。




「“ヴィ()眼前ジェティス()全てを(テノ)灰とせよ(アーシェ)”!!」




瞬間、俺の視界は炎に染まった。




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