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level17



森の木々の間を、高速で移動する人影が見える。


その人影は、自身の腕から伸びた血の様な色のロープを、木々の枝に絡ませて自在に移動している。

しかし、実はそのロープはロープ等では無い。


紛れもなく、その人物の血なのだ。


“血操術”


ヴァンパイアが使う、種族技能スキルと呼ばれる固有の魔術の一つだ。

種族技能スキルは、この世界に住まう者ならば、誰であれなにがしか保有している力である。

ただし、種族毎に保有する種族技能スキルは異なるのだ。


鳥が空を飛べる様に、魚が水中で呼吸出来る様に、“そうあれかし”と神々に授けられた力である。


そんな力を使いこなし、木々の間を行く人物は、10人女性が居たら、11人が恋をし、残る35億人が妊娠する超絶イケメン少年―


つまりこの俺、ユーリ=ネルタナスである。

そして、そんな俺の肩には、小さな妖精がいる。

勿論、ビィだ。



『…ユーリって、ふつうの魔術は下手なのに、種族技能スキルの使い方は抜群に上手いよね。

まぁ、劣化吸血鬼レッサーヴァンパイア種族技能スキルは全部ショボいけど。』



「仕方ないだろ。

劣化レッサーなんだからな。」



そうなのである。レッサーヴァンパイアの持つ種族技能スキルは、全てヴァンパイアの持つ種族技能スキルの劣化品なのだ。


今使ってる血操術…そのままズバリ血を操る術なのだが、ヴァンパイアが使えばその硬度を自在に高める事が出来、個体によってはオリハルコン並みの硬度で武器にも鎧にも出来るらしい。

しかし、俺が使えば太さも固さも精々針金ぐらいなのだ。


まぁ、延ばせる長さは結構ある為、それをロープ状態に編み込み操っているのだが。



『ユーリもヴァンパイアだったら、きっと目茶苦茶強かったんだろうね。

残念!』



「アホか。

ヴァンパイアって事はイコールで童貞だぞ?

まぁ、ヴァンパイア化してから卒業した場合は違うけどな。

童貞に甘んじるぐらいなら、レッサーヴァンパイアの方が良い。」



『ヴァンパイア化の劣化術式を使ったら、童貞でもレッサーヴァンパイアに成るみたいだけどね。』



「それは完璧な負け組だ。童貞の上にレッサーなんて最悪な展開だぜ…。」



『…前から聞きたかったけど、ユーリの世界って、どんだけ童貞の扱い酷いの?』



「凄い酷いぞ?童貞を捕まえて、“童貞が許されるのは小学生までよねー”とか言う二人組が居るんだ。」



『なにその修羅の国。』



そんなこんな話をしていると、目的としていた獲物が見えてきた。



「居たな…。」



突撃猪ガー・ブー”。


体長4メートルにも成る猪型の魔獣である。

その巨躰に見合った強靭な膂力と、名前の由来ともなった強力な種族技能スキルを保有している。

討伐適正ランクでは、“Cランク”にも成る強敵である。


…因みにレッサーヴァンパイアはDのマイナスぐらいだ…。


数日前、森を散策していてたまたま見付けたこの突撃猪に目を付け、ビィと二人で狩りをする準備を整えて来たのだ。



『居たね。後はあそこに誘導するだけ…。

先に行ってるからユーリ、頼んだよ。』



「オッケー牧場!」



そう言うとビィは飛び立っていった。





ーーーーーーーーーーーーー




『おい!豚野郎!!』




俺は樹上から突撃猪に声をかける。

奴を挑発して、誘導する為だ。


豚野郎…なんて嫌な悪口だ。

いくら心の広さまで超絶イケメンと言われる俺でも、自分が言われたら1時間は説教するだろう。

しかし、奴はちらりとコチラを覗くと、興味無さげに頭を振り、そのまま何処かに行こうとする。


なんて奴だ!


不味い…奴の心の広さは東シナ海に匹敵するレベルの様だ…。


しかし諦める訳にはいかない。

何とか誘導せねば…。



『おい!童貞!!』



俺はそう叫ぶ。

心の超絶イケメンたる俺は、ここまで酷い悪口を言ってしまうと心が痛む。

生まれて初めてだ。こんな酷い言葉を口にしたのは…。


これ程の屈辱的罵声を浴びせたのだ。

さぞや奴は怒るだろう。



…しかし―




『…』




奴は何も言わずに優しい目でコチラを見て来たのだ。



…!



間違いない…非童貞だ…!

あの余裕は童貞には出せない!!



『うんこ!バカ!アホ!デブ!!バーカバーカ!!』



俺は思い付く限りの罵声を浴びせるが、奴は無反応。

やがて興味を無くしたのか、また何処かに行こうとする。


しかし―


『トナカイ!!』



俺がそう叫んだ時、奴の雰囲気か変わった。



『…ドナガイ…ダド…?』



なんかわからんが、奴の怒りを買ったらしい。

なんて器の小さい奴だ。

奴の心の広さは猫の額程も無いだろう。



『トナカイ!!トナカイ!!』



俺がそう連呼すると奴は向き直り、そして―



突撃ガーァァァァッッ!!』



そう叫ぶと俺の居る木に向かって突撃して来たのだ。


突撃ガー”。


そのまま突撃するだけの種族技能スキルだが、その威力は―



ドゴォォォォン!!



「やっべぇ!!」



轟音と共に穿たれた大木が、メリメリと音を立てて倒れ始める。



「初めて見たけど、なんて威力してやがる!!」



木を抉り、巨木を倒す。

教本通りだが、信じられない程の威力である。


しかし、挑発自体は上手くいった。

俺はそう思い、血操術で逃走を図ろうとしたが―



「…ヤバい。パニクって術式解除しちゃった…。マナと魔力が足りない…。」



俺はゆっくりと後を見る。



『…』



『…』



『…見逃してくんない?』



突撃ガーァァァァッッ!!』



俺は直ぐ様麻のズボンを濡らし、体重を軽くして逃走を図る事にした。





ーーーーーーーーーーーーーー






『フンフンフーン♪』



妖精ビィは、鼻歌を歌いながらユーリを待っていた。

ユーリは面白い人間である。


生まれたての妖精であるビィは、初めはまともに喋る事も話を理解する事も出来なかった。


通常、妖精は長い年月をかけて成長していき、上位構造世界帯アストラルサイドの精神干渉から言語を学んで行く。

しかし、言葉を理解できないままにさ迷って居たビィは、自分にも理解出来る言葉で会話が出来るユーリと出会った。


ユーリとの会話は、ビィに加速度的に言語を教え、自我の確立を促し、結果として妖精では有り得ない程の成長速度で成長している。

今日もきっと楽しい事をしてくれるだろう。


そうビィが考えていると―



『助けてぇっ!!僕は人間なんです!!靴でも嘗めます!!見逃してぇ!堪忍してぇ!!病気の兄弟と両親と祖父母と犬がランダバ躍りながら僕の帰りを待ってるんですぅぅぅぅ!!』



やはり、ユーリは面白い人間だ。




ーーーーーーーーーーーーーー





俺は必死に逃げた。

もう、足が絡まりそうに成るぐらいに逃げた。



絡まった。一回吹っ飛ばされた。



だが、そうやって行き着いたのは、高い崖を背にした渓谷だった。



『ドナガイ…ユルザン…!!』



突撃猪ガー・ブーは怒りに震えた声でそう俺に話し掛ける。


正に絶体絶命の危機ではあるが、俺は冷静だった。

超絶クールな超絶イケメンたる俺は、こんな危機的情況から抜け出すすべを知っているのだ。





























『助けてぇっ!!僕は人間なんです!!靴でも嘗めます!!見逃してぇ!堪忍してぇ!!病気の兄弟と両親と祖父母と犬がランダバ躍りながら僕の帰りを待ってるんですぅぅぅぅ!!』



そう、“命乞い”である。



これは昔、6股がバレた時に学んだ俺の48の恋愛テクニックの一つだ。

俺はバレない浮気を志しているが、あの時は彼女達の数人が友人関係にあった為にバレてしまい、正に命懸けの修羅場だった。


そんな時に俺を救ってくれたのが、この命乞い。


命乞いする様さえイケメンの俺に、人々は声を失うのだ。



『ランバダ…ランバダ…!!』



この突撃猪…出来る!



突撃ガーァァァァッッ!!』



そう叫び、種族技能スキルを発動させて突撃猪ガー・ブーが突進してくる。

このままなら、間違いなく潰される。















が。
















『ビィ!()()!』




そう俺が叫ぶと、俺の姿は奴の前から消える。

そのまま崖に激突した突撃猪ガー・ブーは、その衝撃で上から落ちてきた巨石に頭を潰されたのだった…。

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