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あなたのことが嫌いでした

作者: 杠 音韻

トコナツ企画の参加作品です。

今回が最後っす。

「あっつーい」


「あっつーいねー」


ジリジリ照り付ける太陽 in スカイ。

駄菓子屋の隅の影は扇風機が当たる。


よって、私はそこにいる。


「ちょっとアンタら、買ったらとっとと出ていきなさい」


「うるせー老害!!熱中症で野垂れ死んどけヴァァアアアアアカ」


久美子は涼しそうにアイスを貪っているが、残念ながら私にはそんなお金はない。

あーあ、お洋服なんて買わなきゃよかったかもな……


「アイスうまいわー幸子も食べなよー」


「え?くれるの?」


「自分で買えよボンビー」


久美子はひょいっと最後の一口を食べ終える。

ファッキン、リア充高校生。


「ほらほら、食べたんなら出な!!シッシッ!!」


「ちぇー さっさといくよー久美子ー」


「あいあい……ちょいまち」


久美子の手を引っ張ってセカセカ店から出ようとする。

が、久美子が静止する。


「幸子ぉー、あれハヤトくんじゃなーい?」


げっ。


わざとらしく大声で言いやがったこの雌豚。

自転車で颯爽に駆けてくるハヤトと目が合う。


「よぉ、久美子と幸子。駄菓子屋寄ってたのか」


「そーだよ ほら幸子、なんか言いなさいよ」


とりあえず久美子は黙ってほしい。

まー、ハヤトとは口聞けないわけじゃないけど、妙に気まずい。


昔は面と向かって話せたんだ。

でも、今はそうじゃない。


「あ?俺の顔になんかついてる?」


「いや……なんもついてないケド……」


このいけ好かないヤツは幼馴染だ。

かといって別に好意はぜんぜんない。

ただ、コイツと居るとむしゃくしゃする。


「幸子、顔真っ赤ですよ〜」


にやけ顔で私の顔を覗き込む久美子を頭突きで返し、反対に向く。

こんなの、会話できるわけない……!


「なぁ、サチどこいくんだよー」


「もう帰る!じゃーねハヤト 久美子後でシバく」


久美子の手を強めに引っ張って走る。

もう真後ろにはハヤトが見えないほど走ってきた。


ホント、むかつくな。


「ねー!休もうよ幸子……悪かったって」


「あ、ごめん走らせちゃって……じゃなくてえええええ!!!!」


「きゃー」とわざとらしく手で頭を覆う。

くっ……リア充風情が……


「ところで、幸子はハヤトくんにいつ告白すんのよー」


「はぁ?こくはくぅ!?」


何をトンチキなことを言ってるんだこいつは。

あ、アレか。私が頭突きをしてしまったせいで頭の思考回路がイカれ

「いや、ハヤトくんのことが好きなんでしょ?」


何も聞こえない。

蝉の鳴き声しか聞こえません。


「いやーバレバレよ……あんなに大袈裟にしたら」


「大袈裟って何の話よ……別にすきじゃないし」


「あらそう?じゃー今日はウチ帰るわ ほんじゃーねー」


満面のにやけっ面をこっちに向けながら帰っていく。

親指を下に突き立て、ふと上を見上げる。


夏の快晴は、クソ暑い by幸子


「へへっ…… そうだ、今晩のオカズ買わなくちゃ……」

とりあえず、商店街へ歩き出した。




宿題を片付け、布団の上に寝転がる。

窓を開けてほんのちょっとだけ涼しい夜風を入れる。


ご飯食べている時も、お風呂入ってる時も、ずっと久美子が言っていた言葉が気になっていた。


「べつに……すきじゃないし……」


天井に向かって、呟く。

これまではぜんぜん意識なんてしてなかった。


ただ、むかつく。

ただ、アイツと話しているとお腹の底が煮え滾るように熱くなる。


これが「好き」という感情なのか……?


「あーもーだめ!ホンット腹立つなぁ……」

電気を消し、夜風と月明かりだけが差し込む部屋。

意味のわからない、真っ赤な感情が頭の中で動いてる。


「考えても無駄無駄、寝よう……」


本当の気持ちすらわかんないなんて、使えない脳みそよね。




結局、ろくに寝れなかった。

結局、朝ごはんも全く口に付かなかった。


なんかおかしい。

いやいや、絶対おかしいって……


とりあえず、準備をして家を出る。

だが、イレギュラーが入ってくるのは当たり前。


「あ、サチじゃん おはよっ」


「あ……おはよ……」


朝っぱらだというのに真昼並のキラキラ太陽スマイルを振りまくハヤトだ。

まったく、目に悪い……。


「つーか、今日は遅刻しないんだな」


「ん……まぁね」


「すげーじゃん 大体来るの予鈴の一分前だもんな」


「そーだったっけ……」


ダメだ、ぜんぜん会話が成立しない……!

妙に久美子の一言が胸につっかえて、ろくに話もできない……

もう……もう!なんなのよ……


「なぁ……気分悪いか?家戻った方がいーんじゃねーの……」


「え……?」


「いや、お前すっげー顔真っ赤だけど……熱か?」


そう言ってハヤトは私のおでこと自分のおでこをくっつける。


「な、にゃにすんのよバカアホクズマヌケ!!」


「いや、熱あるかって確かめただけなんだけど……」


「ないわよっ!はぁ……」


ハヤトが心配そうに私をみているが、もちろん目も合わせらんない。

まだ、ハヤトのおでこの感覚が残ってる。

まだ、ハヤトの手の感覚が残ってる。


なんなの……ムカつく

「なぁ、でも一旦家戻った方がいいんじゃないか?熱あったらやべーし……」


何かが切れた気がした。


「もう……もうっ!なんなのよ私にしつこくつっかかって!!しゃべりかけないでよ……!」


あっやばい言っちゃった。

ちょっと言いすぎた……かもしんない……。


そろーっと目をハヤトに向ける。


なんていうか……すっごい泣きそうな顔してる……!!

「あ、悪いな……俺そういや日直だから先行くわ じゃーな」


「あ、ちょっと……」


流石紅白対抗リレーで一位をブッチギリで取った男。

みるみる彼の背中が小さくなっていく。


まずいこと……しちゃったかな……。

けっこー、やっちゃったな……。


「はぁ…… 最悪ね……」


蝉の死骸を蹴り飛ばし、重たい身体を学校へ向けて歩いていく。

空は厚い雲が覆っていた。




放課後になってしまった。

彼の顔を見ないまま、彼と一言も会話出来ないまま。

何度か視界はハヤトを映していた。


でも、すぐに目を逸らしちゃう。


私も馬鹿じゃないから、そろそろ実感してくる。

いや、実感した。



私はハヤトが嫌いだった。



でも、今は好きだ。

心の中の棘が折れていくような気がした。


ふと、私しか居ない教室に足音が響く。


「あっ……ハヤトか……」


「ん、サチがなんで居るんだよ……帰らないの?」


「いや、そろそろ私も帰るよ」


「でも降ってきちゃったなー 傘持ってきて良かった」


外を見ると確かに雨が降っている。

洒落にならんレベルで。


教科書で覆っても流石に無理があるな……


「な、なぁ!」


いきなりハヤトが素っ頓狂な声を上げる。

暗くてよく分からないが、若干顔が赤い気がする。


「傘持ってきて無かったよな……?」


「う、うん……あーいいよ、職員室で借りるから……」


「一緒に傘入って帰った方が楽じゃん!!」


ま、まぁそうだけど……その場合だとどっちかが濡れてしまう。

どっちも濡れるのは嫌だろうし、私は職員室の傘を借りよう。


「ありがたいけど、私は職員室の傘を借りるね」


「あ、そっか……いや、そうだよな……うん」


何故かハヤトは笑い出した。

更に暗くなってきて、表情すら見えない。


「なぁ、サチは俺のこと好きか……?」


「え……?なんだって?」


聞こえてる。

聞こえてるのに。

私はまた「聞こえないフリ」をしてしまった。


駄目だって気付いてるのに。


「俺は……ずっと好きだったんだよ、お前のこと」


な、何も言えない……!!

足音が近付いてくる。


「サチは……俺のこと、好きか?」


目の前で足音が止まる。

手を伸ばせば届く距離。


体温を、感じる距離。


「そ、そんなの……私も分かんないよ……」


「そっか……いきなりごめん」


まずいまずい……もーほんと気不味い。

好きなんだ。


好きっていうだけなんだ。

私も、好きって……。



ふと自然に。

言葉が紡がれる。


「私はアンタのこと、嫌いだったけどね」

これまで、彼に言い続けてきた言葉。

でも、少し違う。


そう、私は彼が「嫌いだった」


「え……嫌いだったって……過去形……?」


「そーだよバカ 少しは頭回るじゃん」


「ってことは……俺のこと」


あーもう、腹立つなぁ!!!!!


「さっさと傘持って出るよ!!私が濡れないようにね!!!」



初夏の曇天は、奇縁も然り。

睦月の露は、白紫陽花も憂う。

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[良い点] 企画サイトから。 青春ですねー。ニヤニヤ読んでました。 [気になる点] 友人のキャラが強すぎるかも知れません。 短い幼馴染みふたりの話なのに冒頭でインパクト残しすぎかと。 ラストシーンま…
[一言] トコナツ祭参加作品、二作を拝読しました。 作者様の表現の幅広さに脱帽です。 コミカルにもシリアスにも書き出せる表現力。 また、題材の引き出しの多さを羨ましく思います。 主人公の性格がよく出…
[一言] トコナツ祭からこんにちは。 前の方達が言いたいことほとんど言ってくれていたので、自分は触れられてないとこだけ。 最後の二行が、落語の最後でなる三味線とかの音みたいで好きでした。 全然テイス…
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