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第九十一話【みんなで、ピンチです】


「あの~。それは出来ないんですぅ~」

「……なんだこの破廉恥な娘は?」


 野盗の頭領と思わしき、立派な武具を纏った男性が、2足トカゲの上から、グリーンを見下ろしたの。


「この畑は~、お嬢様の~、実験農場でぇ~」

「農場で酷使され、まともな思考が出来なくなったか? 可哀相に! せめてもの慈悲を受取れ!!」


 頭領は、問答を言わさずに、突如槍をグリーンに突き出したのよ!


「そんな!」

「グリーン!」


 遠見の魔法でその様子を見ていた私たちは、同時に悲鳴を上げたわ。


「あう~。そんなので刺されたら死んでしまいますぅ~」

「何ぃ!? 避けただとぉ? 小娘がぁあ!!」


 頭領はムキになって、何度も槍をグリーンに向けて突き入れたのだけれど、ところてんのようにくねくねと、穂先を避けていたわ。


 あれ?

 グリーンの戦闘能力は凄く低いはずなんですけれど……。

 なんだか軽やかに躱してるわね。


「てめぇ! 俺の姉妹に何してやがる!」


 ひょいひょいと槍を避けていたグリーンの目の前に、つむじ風を纏って現れたのは、もちろんレッドよ。


 剣尖が閃めくと、頭領の槍が木っ端微塵に砕け散ったわ。

 ……あんな風に砕けるものなのかしら?


「てんめぇ……細切れにしてやりてぇところだが、ミレーヌ様に殺さないよう言われてるんだよ……今すぐ謝るなら、許してやる! さあ地面に手足を擦りつけて謝罪しろ!」


 餓狼のように牙を剥いて厳くするレッドに、ようやく状況が飲み込めたのか、頭領がぱくぱくと口を開閉したわ。


「な……なんだぁこいつぁ!?」


 砕けた槍の柄を投げ捨て、すぐに腰の剣を手に取るあたり、かなり実戦慣れしているのでは無いかしら。


「メイド風情が何をするか!」

「は? メイドだからだろうが! 主にあだなす全ての物を、排除するのがメイドの仕事だろう!」

「何を訳のわからんことを!」

「うるせえ! 今すぐ土下座して謝らなけりゃ……!」

「ほう? しなければどうするというのだ?」

「何?」


 頭領が頭上に剣を翳すと、農場の畑を囲んでいた野盗たちが一斉に武器を掲げたの。

 畑にはまだ逃げ遅れた大勢の作業員たちが残っていたわ。

 ティグレさんたちが必死に避難誘導しているけれど、全体像を想像出来ていないのか、何人かはわざわざ包囲している野盗の方へと走り出してしまう人もいたわ。

 恐怖でパニックになりかけているのかもしれないわね。


「妙だな……」


 顎に手を当てて、片眉を顰めたのはシュトラウスさんよ。


「何かお気づきの点でも?」

「ああ、先ほどからずっと疑問だったのだが、野盗にしては大規模過ぎるし、何より規律が取れていると思ってな」

「すみません、私は軍事には疎いもので……、それは見てわかるものなのですか?」

「そうだな、普通の野盗なら、獲物を目の前にあんなにきっちりと隊列を組んで、待っていられると思うかね?」

「練習したら出来るのでは?」

「それは否定しない」


 呟いたシュトラウスさんは、そのまま遠見で写される幻影を凝視してしまったわ。

 うーん、やっぱり普通の野盗とは少し違うみたいね。

 レッドも動けないみたい。


「私がこの手を振り下ろせば、一斉に襲いかかるぞ?」

「それなら俺が一瞬でお前を捕まえれば……!」

「くくく。その場合は副官が指揮を引き継ぐだけの事よ。しょせん盗賊よ。あたまなぞいくらでも入れ替わるものだ」

「くそっ!」


 不味いわね。完全に膠着状態じゃない。


「あの……、ミレーヌさん」

「何? レイムさん」

「私やプラッツ君には無理ですが、もしかしたらこの範囲なら……」

「あ」


 いつの間にかティグレさんやミケさん、リンファさんたちがかなりの従業員を集めていたわ。

 たしかにこの範囲なら……。


「ブルー。魔石をちょうだい」

「は……しかし」

「無理はしないわ。それにブルーが守ってくれるでしょう?」

「もちろんです!」

「行くのか!? だったら俺も!」

「私もお願いします!」

「そうね。二人がいてくれたら安心だわ。行くわよ! 集団浮遊(マス・レビテーション)!」


 あんまり浮遊魔法は得意じゃ無いので、ちょっとゆっくりめに、ティグレさんたちが集まっている辺りを目指して、シュトラウスさんを置き去りに、ふわふわと飛んでいったわ。


「み! 見ろ! 魔導士だぞ!」

「ありゃあグリーンさんの使えてるお嬢さんだ!」

「人が飛んでる……すげぇ!」

「やっぱり貴族だったのか?」


 な……なんか妙に注目を集めちゃったわね。

 着陸すると同時にレイムさんがすぐに私たちを覆う魔力壁(マジック・バリアー)をかけてくれたので、私は地面に魔方陣を描いたの。


「来たのかミレーヌ!」

「お待ちくださいティグレ様。今ミレーヌ様は集中しておられます」

「そうだな。避難状況は微妙だ。なんとかこの辺りに集めたんだが、統率が取れてねぇんだ」


 報告をしっかりしてくれるティグレさんはやっぱり有能だわ。


「よし、完成よ。レイムさん障壁を解いてください」

「はい」


 私たちを覆っていた魔力の障壁がすっと消えたので、私は魔方陣に魔力を流し込んだわ。


魔力壁(マジック・バリアー)!!」


 魔力がずおっと吸われ、手にしていた魔石もいくつか砂のように崩れて閉まったわ。

 膨大な魔力が農場の半分ほどを一気に覆ったわ。


「な!? なんだこれは!?」

「魔力障壁だとぉ!?」

「くそ! 突撃! 突撃ぃ!!」


 頭領が我慢出来ずに、突撃を命じたけれど、素人でもわかるわ。それは悪手よ。


「お前は土下座しやがれ!」


 レッドが頭領に飛びかかると、一瞬でトカゲから引きずり下ろして、地面に叩きつけたの。

 そして突撃してきた野盗たちは、魔力障壁に跳ね飛ばされることになったわ。


「うわーん! 助けてー!」

「え!?」

「何!?」


 畑の外側にある小さな農具小屋から、少女が一人飛び出して来たの。

 障壁の外だったわ。

 それに気付いた野盗の一人が、ニヤリといやらしい笑みを浮かべて、その子供に向かって走り出したの。

 ピンチよ!



頭領「ばかな!? なぜ葉っぱごときが切り落とせない!?」

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