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第四十八話【私、準備しました】


「出たな」


 櫓車から山道の先に見えるは敵先頭集団。

 その先鋒を覆うように現れた半透明の壁。

 間違い無く魔導士だ。


「投石部隊には、一斉射ではなく、若干間隔が空いても良いから、攻撃を絶やすなと伝えろ」

「はっ!」


 ここから逆転という気運が軍に伝播していく。良い傾向だ。

 戦争において、数は正義だが、それを逆転しうる要素が2つある。

 一つが運。

 こればっかりは神の差配を願うしか無い。

 もう一つが士気だ。

 どんなに数がいても士気が低すぎれば状況をひっくり返されることがままある。


 ……もっとも今回はそれすら逆転不可能なほどの軍勢を揃えたのだが。

 問題は予想どおりこの狭い山道での戦闘になってしまったことだけだ。


 そんな事を考えながら戦況をみまもっていたのだが、ようやく何かがおかしいことに気がついた。


「……待て、敵の魔導士は何人だ?」

「目視する限り二人です!」

「ではなぜ……魔力障壁が消えない??」


 おそらくガラディーン辺境伯に匹敵するほどの強度と範囲を持った魔力障壁だ。どう考えても長時間使える術では無いはずだ。


「本当に二人か!? よく確かめろ!」

「はっ……は!」


 慌てて駆け出す部下。しばらくして戻って来た。


「レポート!」

「はっ! 観測班の報告です! 最初は二人の魔導士が魔力障壁を貼っておりましたが今は違うようです!」

「ふん……やはりそうか」


 当たり前だ。

 あんな障壁をたった二人で貼り続けるなど、およそ人間に可能な術では無い。

 おそらくこちらの死角に魔導士が控えていたのだろう。

 問題はそれだけの魔導士が敵にいることだ。


「はい! 現在は神官服の女が一人で魔力障壁を支えているようです!!」

「……なに?」


 今、こいつは、何と言った?


「繰り返します! 現在は神官服の女が一人で……!」

「それは事実か!? 間違い無いのか!?」

「はっ! 観測班も困惑しておりましたが、間違い無いと!」

「ば……馬鹿な……」


 一体どうやって。

 いやそれよりも事実を受け入れなければならない。


「ガラディーン伯の魔導部隊を出せ! 投石機の前面! 敵の障壁を突き破らせろ!」


 理由は不明だが敵は一人だ!

 それに比べこちらの魔導士は十三人!

 押し切る!


 補給線が細長くなってしまった関係だろうか、その時、投石機の補充が追いつかなくなり、わずかに間隔が空いた。

 そのタイミングで敵の魔力障壁も消失した。

 消したのか魔力切れかわからないが、好機だった。

 槍兵隊に前進を命じようとしたところでそれは起きた。


 敵の魔導士……一人の青年が獣人に守られながら、右腕を突き出した。


火炎弾(ファイアーボール)!!!!!」


 巨大な火球が青年の前に生み出され、それが槍兵の頭を越え、投石機へと猛進した。


「い、いかん! 退避! 退避だ!」


 オーコーゼ将軍が指示するまでも無い。投石機の操作工兵たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 巨大な炎が巻き上がり、木製の投石機はあっと言う間に消し炭になった。

 一般的な火炎弾(ファイアーボール)は着弾と同時に爆発するものだが、敵の放った魔術は、熱量に重点をおいているのか、爆発すること無く、炎の柱を噴き上げたのだ。


「と……投石機全焼です……」

「見ればわかる! ガラディーンはどうした!?」

「あそこに!」


 山道を塞ぐように燃え上がっていた一角に、頼もしい十三人の姿が映った。


操炎マニピュレイトファイアー


 炎が鉈で割った様に二つに分かれ、その間から我らが魔導士隊がその姿を敵に見せつけた。


「ふん……貴族でもないガキが魔導士だと? 本物の魔導と言う物を見せてやろう」


 先頭に立つのは魔導士隊の隊長、ガラディーン・ベステラティン辺境伯だった。

 ベルーア王国屈指の魔導士にして伯爵。

 まさに切り札中の切り札であった。


「まさかこの札を切ることになるとは……」


 もう一手ごり押しが無い訳でも無いが、無駄な犠牲を出すことも無い。

 王国の切り札たちは悠然と列をなした。


「行くぞ! 複合詠唱開始! くらえ! 炎槍(ファイアージャベリン)!!!」


 もはや伝説とまで謳われた究極の攻撃魔法。

 その大量の魔力消費と複雑な術式から、複数の魔導士による複合詠唱が必須となる大魔術。


 見た目は炎の槍だが、火炎弾(ファイアーボール)とは熱量が違う。

 六本もの紅蓮に燃えさかる炎の槍が、空気を焦がしつつ真っ直ぐに敵魔導士へと飛んでいった。


「あれを防ぐ手立ては……無い!」


 オーコーゼ将軍には魔法の事はよくわからない。だが軍事的知識としては良く理解していた。

 凶悪といっていい魔力で生み出された炎の槍は、例え魔力障壁を張ったところで軽くぶち破るだろう。

 燃え上がる敵魔導士を幻視したタイミングだった。


魔力盾(マジック・シールド)!!」


 それは神官服の女だった。

 目標の前面に巨大な半透明の盾が現出する。


「なに?」


 先ほどの全体を覆う魔導障壁とは見るからに厚みが違った。

 恐らく一点集中する事で強度を増したのだろう。

 だが。

 こちらは王国でもトップクラスの魔導士たちの複合詠唱術なのだ。突破出来ぬ道理はない。


 1,2,3……だが将軍の確信をよそに、次々と魔力障壁に散らされる炎の槍。


「なんだと!?」


 4,5! ばきぃいいん!

 とうとう! 五本目の槍が敵の魔力障壁を打ち砕いた!

 最後の一本だが、無防備な敵魔導士を焼き尽くすには充分!

 もらった!


 が。


 なぜか6本目の槍もその場で散ることになった。


「ば……馬鹿な!?」


 ガラディーン辺境伯以下魔導士たちが、目にしたのは、伝説と化した防御魔術(・・)

 魔力盾(マジック・シールド)

 いや、もちろん同じ名前の魔術を彼らは使えるが、それがまがい物(・・・・)であるの事は理解していた。

 だが、彼らの目の間に展開されたそれは、間違い無く古の文献に残るそれだった。


「……ど、同時に2枚の魔力障壁だと?」


 ガラディーン辺境伯は無意識のうちにそう零したが、実際の魔力障壁数は六枚だった。

 もちろん彼がそれを知る機会は無かったが。


 愕然とする魔導士たちだったが、それで終わらなかった。


「いくぜ! 魔力矢(マジック・アロー)!!」


 青年……つまりプラッツが唱えたのはここ一ヶ月で猛特訓した攻撃魔法(・・)魔力矢(マジック・アロー)だった。

 特訓の成果で12本の魔力矢が、敵魔導士たちを打ち据えた。

 自動追尾があらかじめ付与された強力な魔法が、一人一発ずつで悶絶させたのだ。


 たまたま狙われなかったガラディーン辺境伯以外の魔導士は、地面でのたうち回ることになった。


「で……伝説の……伝説の魔術(・・)……だと?」


 プラッツの手の中で、魔石がいくつも砂になっていた事には気がつけなかった。



出番無ぇ!\(^o^)/

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